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ep2 現る現る

特殊能力は「病」として社会に浸透し始めていた――。

SAD(Special Abilities Disease)ーーー自然的、又は人為的に発現した特殊能力のような病気、通称・能力病を発症し、その病を使って犯罪に走る者たちが増加していた。

準公安部第一特殊能力対策課はそんな犯罪に立ち向かう組織である。


 織部が出勤すると、室長である迫水凛桜とピンク髪の少年のような成人男性・海野橙里、至って平凡な一般男性・蒲田慎司がいた。

 織部は「本日もよろしくお願いします」と挨拶をして「他のみなさんは?」と迫水に聞くと

「玉那覇、堂馬、阿部、風道院は要人警護、幸雷は緊急で出払っている。織部、今日は海野と一緒に捜索に当たってくれ」との事だった。

「よろしくお願いします!」

 年下にしか見えないが本当に成人男性なのだろうか?織部はそんなことを思いながらも「よろしくお願いします」と返した。「ところで捜索ですか?」

「この数日、千代田区内で歩行者が何者かに切り裂かれる事案が発生している」

「通り魔ですか。しかし千代田区内であれば万世橋や麹町の警察署の対応になるのでは・・・」

「もちろん最初は現場が対応していた。しかし被害者の証言によるとどれも犯人らしき姿を見ていないことが共通しており、現場付近のカメラを確認してもそれらしき姿は映っていなかったとのことだ」

 プロジェクターに映し出された調査資料には犯行現場を捉えたカメラの映像があった。

「なるほど・・・」

「そしてこれだ」

 映し出されている映像が同一の赤外線カメラのものに切り替わると、通常の映像では映し出されていなかった人型のシルエットが現れた。

「これは・・・どういうことです?」

「もう一度普通の映像をよく見てほしい。ここだ、被害者が倒れる寸前に何か飛んできている」

 映像をコマ送りにすると、何か透明のような物体が通過していた。

「これは・・・?ガラス・・・?」

「そして被害者が襲われた直後に映像が一部歪んでいる場所がある。これを赤外線映像に切り替えると・・・」

 映像の歪みが発生していた場所と人型のシルエットが現れた場所が一致していた。

「この通り魔はおそらく透明になる能力があり、だから私たち特対課に協力要請が来た。

 そして別の街頭カメラに透明能力が解除されてる姿が捉えられていた」

 透明人間の本来の姿は身なりは緑色の帽子にオレンジのブルゾンというそれなりに目立つ格好をしていた。

「どうやらずっと透明状態を維持できるわけではないらしい。

 これからこういうケースは増えていくだろう。訓練も兼ねての実戦として対処に当たってくれ」

「「はっ」」

「それと後もう一つ・・・海野、どの被害者の近くにもこれが落ちていたようだ」

「これは・・・」

 何か、海外の言葉が書かれたお菓子のパッケージのようだった。

 

 織部は海野と共に不審者の目撃情報の収集にあたっていた。

「訓練も兼ねての実戦ってちょっと意味わからないんですが」

「能力病はその能力を1人見つければ終わりじゃないんです。同じ症状、同じ能力の人たちが何人もいて同じ能力でも使い方によっては凶悪犯になる。能力を使う人次第なんです」

 少年のような姿を裏切らない声だ。本当に成人男性なのだろうか。

「また透明な凶悪犯が出た時のための訓練でもあると・・・何してんですか?」

 海野はその辺にいる鳩やハクビシンなどに1枚の画像を見せつけていた。

「これがボクの能力なんです。言葉の通じない相手と意思の疎通ができる。もっとも、言葉が聞こえるというのとは少し違って相手の想像するビジョンを視ることが出来るみたいな感じですけどね」

 なんともファンシーな能力なんだ、海野の見た目も相まって尚更そう見えた。透明だったら画像見てもわからないのでは?と織部は思った。

「誰かが見ているはずです」

 誰か、というのは人間以外を指しているのだろう。しかし人間に聞いた方が早い気がする。

「透明になるのは人の目に触れないようです。相手が動物や鳥類、虫なら警戒心もなくなるので透明を解除するとしたらそこです」

 なるほど、と思った。

「けど・・・うーん・・・心当たりないみたいですね」

「そういえばさっきのってなんだったんですか?」織部は被害者の近くに落ちていたという箱を思い出した。

「2年前、自殺願望があったり家庭環境が悪かったりする人たちに能力病を誘発するドラッグを配り歩いている男がいたんです」

「あぁ、資料で見ました」

「その男は時間を自分の好きなように止められた。時を止めて飛び降りようとしたりしてる人にドラッグを握らせたりしていたんです」

「はた迷惑なやつですね」

「電脳街から仕入れた能力病のドラッグを名古屋などにある拠点を経由して不法輸入していたみたいです」

 可愛らしい見た目と声から随分と物騒なワードが出てきている。電脳街と言えばかつて九龍城砦と呼ばれていた香港の違法建築街だ。

「それで今回もまたドラッグがばら撒かれていて、現場付近のカメラに透明の男が映っていたんです」

「ん?」織部が妙なことに気づいた。「だとすれば探すのは透明人間じゃないんじゃないですか?」

「もし時間を止めているのであればカメラには映りません。それにその男は2年前に殺されてもうこの世にはいないのです」

「じゃあ、模倣犯?」

「かもしれませんね」

「けど透明ならどっちにしてもカメラに映らないのでは?」

「生の目で見えなくてもカメラで見える場合があります。おそらく周囲の光を屈折して姿を消している可能性が・・・・そうか!」

 海野が急に何かを閃いた。

「人間と動物や虫の可視領域は違うからこれをこうして・・・」

 織部が海野のスマホを覗き込むと、ターゲットの男の画像を白黒に加工していた。

「生き物ごとに見える色は違います。なので色をなくして差異を縮めてあげれば確率が上がるんじゃないかと」

「今までどうしてたんですか?」

「新人さんと組むのは初めてなんです」

 それは関係ないんじゃないか、と思ったが口には出さないでおく織部だった。

 それからの捜索は海野が活発になっておりすれ違う猫や鳩、散歩中の柴犬など片っ端から目撃情報を当たっていた。飼い主完全無視で柴犬に語りかける姿は不審者そのものだった。少年のような見た目でもギリギリ許されない光景かもしれない。

「あ・・・この子ちょっと動物とお話ができる子で・・・この人見ませんでしたか?あ、我々こういうものです」

 織部が警察手帳を見せたことでひとまず彼らを信頼した飼い主が画像を見ると

「さっきこんな感じの格好した人がいたような・・・」

「わんちゃんもさっき見たって言ってます!」

「何分くらい前ですか?場所は?」

「えっと・・・10分くらい前だったかな・・・なんか・・・歪んで見えたっていうか・・・幽霊じゃなかったんですね」

「間違い無いですね、ありがとうございます」

「行きましょう!」

 

 柴犬と飼い主に案内された場所に辿り着くと、不自然すぎるほどに歪んだ空間が見えた。蜃気楼

 織部と海野は

「そこにいるのはわかっている、おとなしく姿を現せ」

「・・・お前らァ・・・なぜ俺をつけているゥ」

 宙にゆらめく空間から水中で話しているような声が聞こえた。

「貴方を千代田区内通り魔事件の重要参考人として連行します」

「我々は警察だ。とりあえず署まで来てもらおうか」

「・・・やなこった」

 男が透明化を解除し姿を現した。緑色の帽子、オレンジのブルゾン、あの画像の通りの姿だった。

「拒否するんだな・・・?ならこちらも強制連行す・・・る・・・」

 織部の意識が急激に遠のいていく。

「織部さん?!」

 なにかただならないことが起きている。海野は周囲にいる生き物たちの声に集中した。

「な・・・んだ・・・息・・・が・・・」

「織部さ・・・う・・・」

「じゃあな!」

 男が再び姿を消し、しばらくして息ができるようになると、二人の口から大量の水が吐き出された。

「海野くん・・・見ましたか・・・消え方」

「はい・・・やっぱり・・・大気中の水分をレンズに・・・してる・・・みたいですね」

 窒息の影響で意識が朦朧としていたせいか、思わずくん付けで読んでしまったが、海野も気づいていなかった。

「ですが・・・彼はなぜ・・・一時的に透明を解除したのでしょうか・・・」

「・・・・・・・同時にできないんじゃないですか・・・?」

「同時に・・・?」

 

 海野と織部は室長の迫水凛桜に連絡をとり、男の能力について確認できた限りを伝えた。

「こちらも男の身元が特定できた。名前は渕上天季(アマキ)、強盗の前科アリ、2年前収監中に脱獄している。

 脱獄の跡に水分が付着していたことから水の能力の可能性がある」

「水・・・」

「おそらく獄中で能力病になったんだろう。立里アズマの数ある置き土産だ」

 電話越しに迫水の微かな舌打ちが聞こえた。

「立里アズマ・・・?」

 そういえば資料にそんな名前があった気がしたな、と織部は思った。

「今蔓延しつつある能力病の原因の一つだ。後で詳しく話そう。とりあえず今は男を捕えろ」

「あのっ救援お願いできますかっ?蒲田!蒲田さんでいいので!」

「先ほど火事があって・・・すまない、2人で乗り切ってください。織部くんの治癒でなんとか」

「あの、井出さんは?」そういえばといった感じで織部が聞いた。

「・・・彼の力は最終手段だ」

「はぁ・・・」

「室長は・・・無理ですよね?」

「私の能力は現場に行ったところで力にならない。ここで命令を出すくらいしか出来ない」

「しかし僕ら2人では確保できたとしてもすぐ逃げられてしまいま」

 織部の横を何かが掠めた。

「・・・・・?」

「お、織部さん・・・いつそんな怪我したんですか・・・?」

 海野が織部の顔、主に頬辺りを見ながら狼狽している。

「・・・・・え?」

 織部が頬のあたりを触ると、手にはべっとりと血が付いていた。

「ッ・・・まずいッ・・・ここを離れましょう」

「はいっ!うっ・・・」

 走り出した途端海野が転倒した。脚から流血している。

「ッ・・・今はここを離れます!」

 織部は海野を背負って走り出した。後ろを振り返ると宙に浮かんだような蜃気楼から何かが発射されていた。

「思ったより厄介すぎるな・・・」

 

 何かに撃ち抜かれた海野のアキレス腱に手を当て傷を治した。

「すごい・・・ほんとに治るんですね!」

 少年のように目を輝かせる海野。

「やっとコツが掴めてきました。ところであの男・・・水の能力ということは渕上がさっき発射してきたのは・・・」

「水・・・って事ですよね」

 液体、気体、固体と自由自在に姿を変える水は物質界でも特異な存在である。

「さっき顔をかすめた時は冷たさを感じなかった・・・海野くんは脚撃たれた瞬間冷たかったですか?」

「えーっと・・・」撃たれた瞬間を克明に覚えているほど冷静ではない。「冷たくは・・・なかったかも・・・」

「やはりあいつに気温を操作する力はない・・・室長、他の特対課に救援要請は出せますか?」

「可能だ、しかし適した人材の検索と現場の到着まで時間がかかる、それまで対処できるか?」

「・・・やってみます。とりあえず氷結持ちの方を探してください」

 渕上がどこまで聞こえているかわからない。

 

「よし、それまで逃げますよ、海野さん」

「えぇっ?!」

「奴が追ってくるということは誘い込めると言うことです」

「なるほど!でもどこに?」

「それはこれから決めます。とりあえず海野くんはここへ向かってください」

「東京大学・・・の低温科学研究所・・・?」

「そこに液体窒素があるはず、なんとか説得してボンベ一本分借りてください」

「えぇーっ!?織部くんはどうするの!?」

「とりあえず二手に分かれましょう。俺も後で向かいます」

 背後から迫る人ひとりを包んだ蜃気楼が迫る中、織部は海野と分かれると本部で待機中の凛桜に連絡を取った。

「室長、今からメッセージを送ります。そこに書いてあることをなるべく早く実行に移してください。俺は地図の印がある場所へ向かいます」

「わかった、手配する」そう言いながら内容を確認すると、凛桜は早速許可したことを後悔した。「おいおい・・・これを今からやれって言うのか・・・始末書書けよ新人」

 室長はすぐさま手配に取り掛かった。

 

 海野が東京大学に到着した。辺りを見回しても不自然な蜃気楼がないことから渕上は織部の方に向かったようだ。

「えぇっと・・・すいません、低温科学研究所はどこですか?」

 東大の用務員らしき人物に話しかけたが海野の見た目が幼いため怪しまれた。

「どちら様ですか?」

「僕はこういうもので・・・」

「・・・・あぁ、どうぞこちらへ」

 用務員らしき人に連れられ研究所付近までたどり着いた時、前方から白衣を着たプラチナブロンドボブの若い女研究員が歩いてきた。

「あれ?鳳さん・・・千葉の方の大学にいたんじゃ」

 鳳麗麗(フォン・リーリー)、織部が室長から渡された資料を書いた人物であり毒物の研究を主にしている。

「あんたら準公(準公安)に協力する事になってこっち来たんだよ。おかげで同居人と暮らせてるからいいけど」

「いかるさんでしたっけ」

「さて、ご所望の液体窒素だけどかなり無理いって用意してもらったからそれなりの報酬はいただくよ。大学に支払う分も合わせてこの額だ。ついてきて」

 麗麗は海野に請求書を渡してから付近に停車しているトラックに乗り込んだ。

「で?どこ向かえばいいの?」

「え?」

「まさかボンベ一本自力で持ってくつもりだった?」

「あ、そっか」

「坊ちゃんいくつ?」

「あ、メッセージ来ました」海野のもとに織部から集合場所が送られてきた。「ここへ向かってください」

「・・・・・道が混んでなきゃ2、30分ってとこだな」

 麗麗はタバコに火を付け、アクセルを踏んだ。

 

 勝どき橋ーーー晴海埠頭方面。2台のバイクが爆走していた。

「ハッハッハッハッハ海が見えてきたなァ!」

 渕上から発射される高水圧の弾丸が織部の身体中を切り裂いていく。傷だらけの身体、ズタズタに切り裂かれたスーツ、潮風が傷に染みてくる。

 織部は周囲の被害を最小限に抑えるため高水圧の水鉄砲の照準を自分に向けさせていた。

 窒息攻撃の有効距離外を保ちつつなんとか誘導、隅田川にかかる橋を越えると高水圧の弾丸が織部の腹部を貫いた。

 織部がバイクからすっ転んだ先は東京湾を一望できる場所、晴海埠頭だった。

「お巡りさんよぉ、ここに誘い込んだのは失敗だったなァ!俺の能力は透明じゃない、水だ!」

「・・・・だろうな」

「どういうことかわかるか?俺は無限に水を使える。だからこういうこともできるゥ!!!」

 渕上が手を挙げた先の上空に、東京湾の水の球体が膨れ上がっていく。

「おかしいと思わないのか?」

「あぁ?」

「透明の仕組みなんざとっくにわかっているんだよこっちは」

「だからなんだよ」

「水の能力を使うやつをこんなとこに誘い込むのおかしいと思うだろ?」

「・・・・・あ?」

「お前がバカで助かったぜ」

 織部は予定していた作戦決行場所に到着していた。

「ここは東京消防庁臨港消防署だ」

 気がつくと渕上は4台の消防車に取り囲まれていた。

「・・・・・・・・?」

「今です、やっちゃってください」

 織部の合図によって、消防車から一斉に渕上に向けて集中放水が始まった。

「ばッ・・・なにゴボゅ・・・こんゴバァッなのッ」

 集中力を切らし、維持できなくなった頭上の東京湾の塊が弾け渕上に降り注いだ。

「放水やめッ!」

「・・・・何が何だかよくわからんが食ら・・・え・・・・

 ・・・・・?ぐッ・・・・が・・・」

 渕上は徐々に呼吸ができなくなっていった。同時に身体も油が切れたように動かしづらくなっていく。

「な・・・・ん・・・・」

「ゲル化剤を混ぜて放水させてもらったよ」

 その時、一台のトラックが晴海埠頭に突っ込んできた。

「織部さあああああん!!!!」

「あいつのそばに落とせ!」

「はい!鳳さんお願いします!」

「ちゃんと掴まってろよ!」

 渕上の手前で急ドリフトしたトラックから荷台からボンベが転がり落ち、織部はすぐさまボンベに銃弾を数発撃ち込んだ。

「!!!!!」

 ボンベに空いた穴から液体窒素が噴出し、渕上を一時的に凍結させた。

「今です!回収してください!」

「はいよー」

 消防車の陰から回収班が現れ、渕上を回収していった。

 

 任務は完了した。

「ふぅ・・・」

「終わりましたね。って血だらけじゃないですか!」

「大丈夫です。もう傷は治しました」

「そうでしたか」

 見るからに重傷かと思われた織部の傷が治っており海野は一安心した。

「そちらは?」

「あ、この方は」

「鳳麗麗、東大に研究室を構えている。あんたら準公と協力関係にあるから今後ともよろしく」

「よろしくお願いします・・・・あれ?鳳麗麗って・・・」

「なにか?」

「いえ、また今度よろしくお願いします」

「さて!室長に報告しましょう!」

「そうですね」

 織部と海野が迫水に任務完了の報告をした。

「2人ともよくやった、おつかれさま。海野は今日はもう帰っていいぞ」

「はい、おつかれさまでした!」

「織部」

「はい」

「はやく戻ってこい。たっぷり始末書が溜まっているぞ」

 

 織部は傷を治さなきゃよかったと思った。

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