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ep1 特対課

特殊能力は「病」として社会に浸透し始めていた――。

SAD(Special Abilities Disease)ーーー自然的、又は人為的に発現した特殊能力のような病気、通称・能力病を発症し、その病を使って犯罪に走る者たちが増加していた。

準公安部第一特殊能力対策課はそんな犯罪に立ち向かう組織である。

 渋谷、スクランブル交差点ーーーー

 

 「ア“ア”ア“ア”ア“ア”ーーーーー!!!!」

 

 この世の声ともつかない音が衝撃と共に轟き渡ると、ビルの窓ガラスが次々と割れていった。人で埋め尽くされるはずの交差点は中心にいる一人の男だけ、舞い散った粉々のガラスの反射によりきらきらと輝きを放っていた。

「堂馬、狙い撃てるか」

「無理だ!さっきから狙いが定まらねぇ!」

 交差点の真ん中には30代後半から40代の170cmくらいの男、伸び切った髪が自身の音圧で跳ね上がっている。

「各自、対象の行動に注意を払え。室長、これは・・・」

「おそらく声の能力だろうが・・・破滅的な使い方だ」 

 男の叫び声のあまりの音圧に、その場に接近していた鳩が破裂していた。

「我々の身の安全を考慮すれば接近は禁物・・・一瞬でも奴の声さえ封じられれば・・・身柄さえ拘束できれば」

 

 

 4時間前、警視庁ーーー東京都千代田区霞ヶ関に在する東京の警察の中枢組織。

 

「本日付でこちらに配属になりました!織部璃久(りく)です。よろしくお願いします!」

 警視庁内の一室で、若々しい男の声が響いた。

「警視庁準公安部第一特殊能力対策課へようこそ。室長の迫水凛桜です」

 織部の身長から見てもだいぶ小柄だが、それとは裏腹に凛とした声が出ていた。そんな小柄な彼女の後ろには、スーツ姿の男たちがずらりと並んでいた。

 左から、見るからに体育会系の大柄と超大柄、一昔前のハンサム系、標準イケメン、サイケな髪色の青年、ピンク髪の可愛い男子系、そして至って平凡な男、バラエティに富んだ男たちが彼の同僚となるようだ。

「左から井出悠季、玉那覇アレックス、堂馬銃瑠(じゅうる)、阿部日向、風道院 翔、海野橙里、幸雷龍臣、蒲田慎司だ」

「よろしくお願いします。

 あの・・・ここってどういう部署なんですか?」織部はまだどういう場所に配属になったのかピンと来ていなかった。「急に配属になったもので・・・」

 昔の刑事ドラマのような照れ仕草をしながら織部は聞いた。

「織部くんも聞かされていると思うが、この数年SADによる犯罪が目立ちつつある」

「サッド・・・ってなんですか」聞きなれない言葉に織部の眉間が締まる。

「Special Abilities Diseaseーーー自然的、又は人為的に発現した特殊能力のような病気、我々は能力病と呼んでいる」

「特殊能力・・・?」

 日本の警察組織内で聞かないであろう言葉に思わず吹き出しそうになったが場の空気は至って真面目一辺倒、織部はもしかしたら日本警察内のFBI支部に来たのかもしれないと理性で納得させた。

「自分の肌感覚ですが・・・その、特殊能力で犯罪が起きているとか聞いたことが・・・」

 迫水凛桜はその質問を待っていたとばかりに咳払いをした。

「特殊能力の犯罪といっても結果的には現実的な事件になる。

 火の能力なら放火、電撃の能力なら漏電による事故として現実的なケースに置き換えて対処している。これがもし生身で引き起こされた犯罪と知れ渡ればパニックや暴動は避けられないからだ。

 そしていよいよ件数も増加し、これまでの対応では手に負えなくなりつつあったが幸い組織改革が間に合った。その組織改革の一端が君の人事異動というわけだ」

「・・・把握しました」

「我々準公安部第一特殊能力対策課はSADをもとに引き起こされる犯罪の解決や阻止を主とする部署だ」

「少数精鋭部隊なんですね」

「ん・・・」凛桜はどこまで話しておこうかと一息ついてさらに話を続けた。

「少数精鋭と言えばそうかもしれないがこの人数では国内どころか都内でも対処は難しい。我々のような部署は今各地に配置されている。

 準公安部第一特殊能力対策課の第一というのは国内で最初に出来た準公部特対課というわけだ」

「準公安部というのは?」

「我々は公安からの命を受けて現場へ赴く公安直属の実動部隊であり公安ほどの隠密行動もしない、公安と差別化している程度の意味合いだ」

 配属になった部署の概要が明らかになるに反比例するように、織部の中で疑問が膨れ上がっていった。

「なぜ自分がそんな部署に?」

 織部自身、自分には特に秀でた才能も無いと思って生きてきた。平穏な日常が送れればそれでいいとすら思っていた。そんなことをぼんやりと考えていると、迫水凛桜から

 

「それは君が能力病を発症したからだ」

 

 という答えが返ってきた。

 

「・・・・いや・・・え・・・?して無いですけど・・・たぶん」

 全く身に覚えがなかった。部署異動の知らせを受けた時もこれと言った変化を感じなかった。

「自覚症状は無くともこの部署に配属になった以上発症しているはずだ・・・それに我々もまた能力病を発症している」

「え?そうなんですか?」

「彼らの能力は玉那覇から・・・剛力、超視力、幻覚、超移動、共感覚、念動、水だ」

 ナチュラルに彼女自身と大柄な男・井出の能力の紹介がすっ飛ばされた。

「あの、迫水さんと・・・えっと」

「私と井出の能力は今はまだいい。任務時の状況把握で必要な事だけを伝えた

 さて君の能力だが、日常でなにか変化はないのか?」

「本当になにもないんですけど・・・あのそもそもなんで僕に能力が発現したってなってるんですか?」

「・・・公安からのお達しだ」

 織部は思った。公安に問い合わせる事なんか可能なんだろうか?というか本当にここは大丈夫なんだろうか?と言いつつも思い当たる節が全くないわけではなかった。

「まぁ・・・強いて言えば・・・怪我の治りが早くなりました・・・かね」

「・・・治癒能力か?とすれば・・・作戦中は後方待機だな。状況次第では織部くんメインで行う場合もあるかもしれないが・・・ま、そうそうないだろう。さて」

 迫水から織部に、数ページの資料が渡された。

「これは・・・?」

「特殊能力による犯罪が目立ち始めた頃にとある2人によって作成された資料だ。2年前のものだが私たちの相手する能力者がどういうものかを理解するのにちょうどいい、目を通しておきたまえ」

 織部が資料を読み始めたその時、署内のサイレンが鳴った。

「緊急、緊急、渋谷スクランブル交差点内で男が暴れているとの通報、異常なまでの大声を出していることから能力者の可能性高し、特対課の出動を要する」

「との事だ。詳しくは後で話すとして・・・現場を見に行きましょう、新人」

「・・・はっ!」

 

 時刻は冒頭へ戻る。

 

 相も変わらずスクランブルの真ん中で男が絶叫をあげている。

「クソッ・・・どうやって止めりゃ良いんだ」少しだけ音を途切れさせればいい。しかし迫り来る音圧に、堂馬の集中は掻き乱されていた。

 撃ち殺すのは簡単と思うかもしれない。しかし警察が携帯する拳銃は離れて撃って頭蓋骨を貫通できるような代物ではない。確実に仕留めるには対象への密着が不可欠となる。拳銃で確実にダメージを与えるには距離が離れすぎている。

 それに、ことに日本では犯罪者がどうであれ殺してはいけないとする思想を持つ人間がそれなりにいる。警察へのバッシングは避けたい。

「足を狙ったとて・・・」

 あらゆる要因から狙いを定めることが出来ずにいる堂馬の背後から、織部が声をかけた。

「堂馬さん、奴の喉を撃ち抜いてくれませんか?身柄を完全拘束した後で僕が奴の喉を治せば何も問題無いはずです」

「・・・本当に治せるんだな?」

「やってみないとわからないですけど」

「くそっこんなギリギリでッ」

 堂馬は一気に狙いを定めた。彼の瞳に入っている斜めの線が一層の輝きを増す。

 堂馬の銃身から放たれた弾が男の喉を貫通し、音が止んだ。

「ごっ・・・かはっ・・・ゴボボ・・・」

 男は千切れた声帯を左手で掴むようにしながら右手で天を仰ぐと、気を失って倒れた。

「確保します」

 紫を基調としたサイケデリックな髪色の風道院翔がそう言った次の瞬間、気絶している犯人のそばに瞬間移動し、音を発することのないよう半開きの口にタオルをねじ込んだ。

 

 気を失いながら胴体を頑丈に拘束された犯人の破壊された声帯に織部が手をかざすと損傷箇所がじわじわと治癒していく。その様子はまるで破壊される様子を逆再生しているようだった。

 傷口が完全に元通りになるも、犯人は気絶したままだった。

「午後3時23分、対象を建造物損壊、器物損壊、公務執行妨害、威力業務妨害および道路交通法違反の現行犯で逮捕、拘束しました。輸送班お願いします」

 風道院の合図により別動部隊の班が駆けつけタンカー代わりの専用のカプセルに犯人を収容すると、どこかへと走り去っていった。

「あの犯人はどうなるんですか?」

「能力に制限がかけられた上で特別施設に収監される」

「制限・・・」

 

 事件が解決した。

 織部は散らばっているガラスを踏みながら、破裂している鳩の死体に手を当てた。

「おい、勝手に現場を荒らすな」

「いえ、ちょっと」

 織部の手の中で死骸だった鳩の身体が再生してゆく。

「バカな・・・・」

 現場にいた風道院含む特対課全員が奇跡を見た。

「あ」織部の手の中から、澄み渡る空に鳩が飛び立っていった。「・・・・・出来た」

 

 

 警視庁ー準公安部第一特殊能力対策課

  

「緊急の対応ご苦労であった。能力病事件は日に日に規模を増している。今回に至っては市民の知ることとなってしまった。これから今日以上の対処が必要となるだろう。各自より一層気を引き締めるように」

 迫水凛桜室長は言葉を終えると「供述調書が上がるまで少し席を外す」と言って特対課を後にした。

「なぁ新人、さっきのあれ、どうやったんだ?」

 堂馬は早速織部をとっ捕まえて聞いてきた。ライトブルーアッシュの髪と瞳に入った斜めの線が特徴的だ。

「さっきの?」

「死んでた鳩蘇らせてたろ?肉体が元通りになるのはわかるが生き返るのは違くないか?」

「うーん・・・なんか試しにやってみたら出来ちゃいました」

「ハハッすげぇなお前」

 

 異動後の初出勤・初任務を終え、独身寮の部屋に戻った織部はバッグを下ろして荷物の整理を始めると迫水凛桜課長から貰った資料を見つけた。

「・・・読んでみるか」

 洗濯機の音が部屋に響く。

 数枚の資料には次のことが書かれていた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ー新型症状及び特殊能力と薬物についての記録と推察メモー

 

 2025年6月18日

       帝北大学鳳研究室代表 鳳麗麗

       斑鳩シンリョウジョ代表 斑鳩いかる

             

 

 新型の症状の目撃、報告例が今年に入り増加している。これはそれにまつわるメモであり、斑鳩シンリョウジョと鳳研究室共同で収集した情報を元に書き起こしたデータである。

 

 1. 特殊な症状及び能力、引き起こされる外傷と内傷・起こりうる被害とその対処

 

 症状の場合・パターンは大きく以下のケースに絞られる。

 

 帯電・症状ー体内での異常帯電、体外への異常放出

    被害ー異常帯電による体内の感電、全身に及ぶ重度の火傷、体外放出による周囲への被害・損害

    対処ーアースを用いての体外への帯電の放出

  

 水 ・症状ー体内の水分の異常放出

    被害ー脱水症状

    対処ー常時の水分補給

 

 血液・症状ー血液中の鉄分の超凝固・超放出

    被害ー内部裂傷

    対処ー血液中の鉄分の凝固を妨害する作用を施す。現在鉄分融解剤開発中。

 

 再生・症状ー異常再生による受けた外傷の瞬間的完治

    被害ー無し

    対処ー被害なしと判断・様子を見つつ現状維持

  

 変形・症状ー意にそぐわない急速な顔面・骨格の変形

    被害ー人相の変化、身体への大きな負担

    対処ー対象の患者は自分の顔を忘れているという事だったので顔を記憶野に強くインプット

     

 時間・症状ー停止した時間を感知可能。尚、停止した時間における行動は不可能。

    被害ーなし、又は当人の感覚的苦痛あり

    対処ーする必要無しと判断

  

 共鳴・症状ー無意識下での自身から発せられる音の周波数の調整。

    被害ー現在目立った被害無し。予想されうる被害として共鳴周波数による物理的破壊の可能性

    対処ー治療の方法、必要無し

  特記事項

   今回、声によって他者の能力の解除を確認、人体への影響とみなす。当問題の解決への尽力が望ましい。

   

 特例として以下に斑鳩いかるの症状も記すことにする。

   

 電気・症状ー微弱な電流を用いて脳波の操作が可能。技術的に獲得したもの

    被害ー脳の記録の軽度なスキャン・表面的な記憶の消去が可能

    対処ー精細な操作を必要とするため、処置中は身の動きが完全に封じられる、戦闘の際はサポートに徹しざるを得ない。

  

 以上のパターンが斑鳩シンリョウジョで症状として診断するケースであり、これより以下は症状ではなく能力として扱う。

 能力の区分は未だ不明な点も多いが、ここでは薬物によって引き起こされた人為的な症状と位置付ける。

 

 火 ・症状ー火傷

    被害ー重度の全身火傷・周囲への延焼

    対処ー当シンリョウジョで症状を抑えられるよう処置

     

 時間・症状ー前述と違い停止した時間の中での行動が可能

    被害ー未知数、当人の行動次第

    対処ー不可能

 

 2.症状及び能力の発症

 

 症状の発症

  現在、症状の発症理由はわかっていないが、考えられる理由は以下の通り。

  

 精神・心的ストレスによるもの

  後述する”能力”の発症因子に基づく推察

  精神の状態により症状が細分・複雑化されることから

  

 新型ウイルスによる感染症の可能性

  発症の初期症状として微熱の報告が共通している。不確定要素が多すぎるため要注意。

   

 能力の発症

  主に薬物の投与によるもの。当薬物の形状は飴玉を模した形形状をしている。合成された薬物の中には致死量に満たない程度の毒物も含まれており、これが脳に作用することにより能力が発症すると見られる。製造元は不明。

 合成されている薬品・毒物は以下の通り

  Fentanyl, Batrachotoxin, Tetrodotoxin, Palytoxin, Maurotoxin, Gaiamin, Woltoxin, etc,etc,etc…未登録の成分・神経毒の確認あり

 また、当薬物にはヒト由来のタンパク質の成分が見られた。詳細は不明。

  

 3.当薬物について

  成分等は上記の通りである。この項目では流通ルートなどの記録を行う。

  

 立里アズマーー当人の証言に基づき記載。

 後述の『虚兎商店』で当薬物を入手したのち日本へ輸入。その際どのように国内へ持ち込むかは不明。(加工食品として密輸?)

 都内で無料配布、目的は不明。(当人曰く人助けとのこと)

  

 虚兎商店ーーー電脳街(旧九龍城砦)中心部に位置する観光客向けギフトショップ。

 梁蓝莓(リャン・ランメイ)梁草莓(リャン・ツァオメイ)以上2名により経営される個人商店。秘密裏に当薬物を仕入れて販売。製造元を聞き出そうとするも回答不可能とのこと。

  

 ここからは未だ明らかになっていないことであり、全て我々の推察である。

 

 疑問

 発症・発現する症状・能力に大きく差異がある理由は何か?

 現在科学的な見当つかず。考えうる事としては以下の通り。

 

 症状ー当人の身体的状態が関係していると思われる。当人の体質と発症因子が結びついた結果によって症状が変わる?

 能力ー当人の精神的状態が関係していると思われる。全く科学的ではない推察だが、精神状態と当人の潜在的願望に起因するものではないか?

  

 当薬物の製造方法

 前述の多種の神経毒(未発見・未登録成分有り)を配合。

 ヒト由来のタンパク質などの成分が含まれている事から、人体実験が行われている可能性あり。

 毒物の緩和又は繋ぎとして人体の成分を使用?

  

 製造の目的

  製造元と共に一切不明。以下、想定される理由

  特殊能力による人為的テロの計画

  国家間の紛争における生体兵器としての運用

  ヒト科の生命体としての進化

  地球外進出・他惑星への移住計画における他環境への順応(これは生命体の進化に含まれるかも)

  偶然の産物(ふざけんな)[#「(ふざけんな)」に取消線]

  

 以上を踏まえ、我々の取るべき行動

  災害を未然に防げるように能力の解除を粛々と行なっていく。可能であれば国家機関との協力関係を構築するのが望ましいが、製造元の場所・理由の詳細が一切不明なため慎重を期す。

  

  

 以上で当案件による途中結果・調査メモは終了とする。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

「・・・・・疲れた」

 

 洗濯機の終了を告げる音が鳴った。

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