海水浴
私の家族には夏の恒例行事がある。
それは
「海だー!!」
そう海水浴だ!!
この日のために少ないお小遣いを貯めに貯めたんだから!!
毎月五百円にも満たないお小遣いを一万まで貯めるのは……大変だった。
欲しいものを我慢してようやくここまで貯めたのだ。
まあ頑張って貯めても消えるのは一瞬なんだけどね、トホホ
でも思い出としては一生残るからいい事じゃん!!
お金はまた貯めればいいし、うん。
しかし今年は家族の休みが合わなかったこともあり
「この綺麗な海で私一人かぁ」
と嘆いている私であった。
一人って言っても私以外に海水浴に来ている人は沢山いるよ。
まっ暗くなる前に沢山遊ぶぞぉぉぉ
まずは準備運動をしなきゃね
「うぉいっち、にい、さんし、にいにいさんし、さんにいさんし、よんにいさんし」
よしっこれでオッケー
入るぞ!!
私が海に入ろうとした意気込んだ時遊泳禁止エリアの方から叫び声が聞こえてきた。
遊泳禁止エリアから私がいる場所まで軽く百メートルは離れている。
私はすぐに通報出来るようにすぐ近くの更衣室に携帯を取りに戻った。
そして携帯を持った私は声の方に向かった。
今となっては行かなきゃよかったと後悔している。
私が見たのは身体が爆発するのではないかと思うほど膨れ上がり鼻がちぎれるほどの臭いを放った遺体だった。
それだけならまだマシだった。
その遺体の顔が父さんの面影があり、私は『他人の空似よ絶対』とそう思うことにした。
だかそのことがあり、私は父さんに連絡をした。
プルルルル、プルルルル…………
いつもなら五コールまでには出てくれるのに!!
「そうだ母さんならなにか」
プルルルル、プルルルル
「もしもしどうしたの香澄こんな時間に。もしかしてお金が足りなくなったの? 今は無理よもう少し待ってもう少しで休憩になるから」
「そうじゃないの母さん!! 今日の父さんの仕事どこだっけ」
「今日は確か新紅羽港の視察ね。それと終わってから漁船を持った友達と釣りに行くって言って一昨日から帰ってきてないわね。確か一昨日香澄は友達と泊まりの旅行に出発したばかりだったわね。それがどうかしたの?」
一昨日から帰ってない……今朝見なかったのは仕事に行ってたからだよね、そうだよきっと
「うん、ありがとう母さん忙しいのにごめんね。仕事頑張ってね……それじゃあまた後で」
「また後でねぇ」
プープープー
その後警察が遺体を調べていた。
私はせめて海で買い物だけでもしようと思い『海の家カラスマ』で焼きそばを食べた。
普段なら美味しいと感じる焼きそばがその時は味があまりしないと感じた。
その後母さんから電話があった。
内容は『父さんが亡くなった』というものだった。
詳しく聞くと『一昨日父さんが友達と漁船に乗って釣りをしていたのだが、荒波により船が傾き父さんが落ちてしまった。そしてその友達が父さんを助けようとしたが、何かに引きずられたようなものすごい勢いで海の底に沈んでしまった』とのことだ。
私は父さんが亡くなったことに動揺を隠せなかった。
普段は自転車で二十分で家に帰ることが出来るがこの時ばかりは一時間以上かかってしまった。
ガチャ
「…………ただいま」
「おかえり香澄」
我が家は父さんが亡くなったことで重い空気になっていた。
私は一つ母さんに隠していることがある。
だがこの状況で言っていいものなのか悩んでいる。
なぜなら隠していることとは、昨日友達と川で遊んでいる時に溺れて私が意識を失ったということだ。
友達が助けてくれたからなんとか命に別状はなかったけど、その後から不穏な気配が付き纏っている…………うん、やっぱり言うのはやめよう……余計な心配をかけるだけだし。
「……ご飯にしようか?」
「今はちょっと食べれそうにないかな、ごめんね母さん」
「いいよ……こんな状況だし、私も食べれそうにない」
「ちょっと部屋で……泣いてくる。母さんも我慢しないで泣きたい時は泣いていいから」
「分かった…………」
私はそういい自分の部屋に戻った。
そして部屋に入った瞬間不穏な気配の正体を理解した。
なぜなら
『よう、もう半分の私』と私の姿をしたやつが話しかけてきたからだ。
勝手な憶測になるが、おそらく私が溺れて意識を失った時に魂が半分に別れたのだろう。
父さんを失っておかしくなったのかな私?
するとやつは続けて『私はもう半分のお前を完璧に殺し魂を回収する。そのためにお前の親父を沈めたんだからなぁ〜!!』と言っているのを聞いて私はとうとうもう何も聞きたくない、考えたくないと思考を停止させた。
「よしよし、この調子ならもう肉体は私の物だな。肉体を乗っ取って死なせて魂を回収させるとするか」
「うぐっ」
「いい感じだ。さ〜てあとは、これで…………」
コンコン…………ガチャ
「ねえ香澄お風呂入れたけど…………入……る」
バタン
「香澄……なっ、何……してるの? 悪い冗談だよね。こんな時にやめてよ……ねえ」
そんなに揺らしたところでこいつはもう死んでるんだよ!!
これでこいつの魂も回収完了っと
次はこの母親だ
「母さん……私を……一人にしな……いで」
こうでも言いながら首を絞めるか
「…………やめ……」
ぐぐぐぐぐ
「がっあっ…………」
よし回収完了っと。
ほんとこの時期(お盆)は回収が捗る。
この二日だけでも五人か、半分の私、母親、父親、半分の私の友達、父親の友達……四.五人か?
まあいい……次はどの魂を回収するかぁ
「ふっふっふっはっははははは」
やっぱ狙うなら水場……だよなぁ〜!!
バカなやつらが、うじゃうじゃといるからな
「……っしゃあ回収祭の開幕だ!!」
おしまい
見つけて読んでいただきありがとうございます!!
水のホラーを考えてたら『もう半分の自分が人を殺しまくるってなんか怖いかも』となりまして、こうなりました