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わたくしが思う事を言ってもよろしくて?

 ヴェリカはベイラムを見つめながら、これがドラゴネシア、と呆然とするしかなかった。なぜならばヴェリカに毒を贈った人物の目的が、三婆を貶める、それであるならば、彼女達が中心になって動いているドラゴネシアの祭りを潰すのが一番効果的なのだから。

 そしてヴェリカのそんな目に気付いた大男は、ヴェリカからわかりやすい自分の顔をぱっと背けて隠した。


「もしかして、私が復讐のためにだけ動いていると思っていたの? 私に毒を贈った人物が狙うのは、私と三婆の命や健康だけだと? ねえ、ねえ?」


「嬉しそうに追い詰めるな!!」


「うふふ。だって。新しい事実がわかったのだもの。レティシアやあなた方が自分に向かう悪意に振り回されるばかりなのは、根が善人過ぎるから悪人の気持がわからないからだってわかったのだもの。心がきれいな人っていいわね」


「皮肉か?」


「まさか。私は素晴らしい場所に嫁げたと、幸せを感じるばかりですのよ」


 ヴェリカにはそれが心からの本当の想いだった。

 自分に向けられる悪意ばかりの中で生きて来た彼女には、ドラゴネシアの人達の真っ当さに心洗われるばかりであるのだ。ベイラムは苦虫を噛み潰した顔をヴェリカに見せているが、ヴェリカはベイラムのその顔に脅える気配どころか口元をかなりにんまりとさせた悪人笑顔になっていた。


 あら、しまった。

 領主夫人がこんな締まりのない顔をしてはいけないわ。


 彼女は弛んだ口元に両手を添え、勝手に笑みを作る唇を指先で押さえる。

 ベイラムの表情はさらに凶悪なものに変わる。


「君は性格が悪いな」


「うっかりさんはお黙りなさい。さあ、無駄話はここまで。今は私の護衛なのですから働いて頂きますわよ。さて、私がキャサリンやヴィヴィアンに会うにあたって、彼女達のタブーなどをご存じならご教授願いたいのですけど?」


「――タブーでいいのか? 確かに昔話など教えてやれないがな」


「昔話は私が探るから良いのよ。あと、私の邪魔をしないでくださったら」


「願ったりだ」


 ベイラムは軽く片目を瞑って見せた。

 夜会服でこんな仕草を女性にすれば、ベイラムは簡単に女性を手玉にとれるのではないかとヴェリカが考えてしまうぐらい魅力的だった。だだ、ヴェリカは上手にウィンクできないダーレンのことを思い出したので、ふうん、程度である。

 ベイラムは納得できない顔つきとなる。


「リカエルが君を敵視する気持がわかったな。俺もあいつも思っていた以上に自意識過剰だったようだ」


「学習できるって素晴らしいわ。この調子で最高の男性になれるように精進なさってね」


「いやだね。その最高の男は君好みってことだろうが。君に尻の毛も抜かれたダーレンの姿には、俺達四兄弟は怖気を振るっているんだよ」


「あなた。女性の前ですわよ」


「ハッ。女性? 君みたいな女性がクラヴィスの標準仕様ならば、母達が暗い女学院時代を過ごしたのも分かる」


「そうね。そこで自信喪失されたとしたら、クラヴィスから家庭教師を呼び寄せたのは、かつて自分達を見下したクラヴィス人を使用人として下にして踏みつけられるからかしら」


「君は母達を愚ろう――」

「憤るのは後。もう一つ仮定話を言うのだから」


「もう一つは?」


「クラヴィスの女学校に通ったばかりに、三婆達はドラゴネシアの女性達から総スカンを喰らっていた。だから子守りをクラヴィス人に頼むしかなくなった」


「母達が? 総スカン?」


「ええ。私はいつも不思議に思っているの。リイナの母親もそれ以外のドラゴネシア女性もクラヴィスの平均よりも体格が良いけれど、三婆達のように体を隠すような服装はしていないわ。皆さんとてもおしゃれ。なのに三婆は悲しいぐらいにもっさり。それなのに、四爺達が妻にと選んだのは三婆だわ。彼女達の心根が、なんてふざけたことを言わないでね。女も男も第一印象で異性に好意を抱くか決める生き物なんだから」


「いや、それでも知り合って話しているうちに、最初に気に入った子の隣にいる女性にこそ惹かれたりはあるだろう。母達は――会話術には長けていないな」


「ぶふ」


「笑うな」


「わかったでしょう。そしてよく考えて。あなたのお母様は綺麗な方よ。キースのお母様も。ガムランのお母様も。私が出会ったドラゴネシアの女性の中では一段上の美しさを持つ方々だと思うわ。そして、たぶん、女学校を卒業したばかりの彼女達は、洗練された装いをされる綺麗なお嬢様だったはずだわ」


 ベイラムは口元に手を当ててヴェリカが言った通りのことを想像したようだが、急に舌を噛んだ時のようなうめき声をあげた。

 そのまま彼は自分の頭を両手で支える。


「ベイラム?」


「だい、大丈夫だ。脳みその中に若い頃の母が俺に笑いかける記憶が浮かんだ」


「まあ、記憶が戻ったってこと?」


「――死んでいく女の子と実母の笑顔の二つしか記憶が無い男になって、嬉しいどころか虚しいばかりだけどね。ああ。母親の笑顔の記憶を消したい」


「酷い!!男の子がそんな薄情者なら、私は女の子を生みたいわ」


「おや、喜ぶべきじゃないのか。男が実母よりも嫁を選ぶって証明じゃないか」


「あなたの記憶の中の少女は幼女じゃ無くて? なお最低よ。ねえ。笑顔以外に見えたものは無い? 例えばどんなドレス姿をなさっていたのかとか」


「若い母はやはり、誰よりも奇麗なのに今と変わらない恰好をしていたよ」


「その記憶はあなたがいくつくらいの時かしら? ドラゴネシアの悲劇の後? それとも前?」


 ベイラムはぎゅうっと両目を瞑る。

 自分の記憶を探るようにして。


「そのままでいいから聞いて。私は四婆達からスポイルされてからずっと考えていたのよ。彼女達がどうして私を排除しようとするのか。一つ目の仮定。大事なダーレンの妻が七家どころかドラゴネシアの人間では無かった。この場合だったら、リカエルのお母様こそ排斥されているはずよね。だからこれは無し。二つ目の仮定。ドラゴネシアの悲劇を思い出しそうだから嫌だった。これも無し。レティシアのお母様はクラヴィスの貴族の出で、何度もドラゴネシアにいらっしゃっているし、歓待されているそうね。ならば」


「第三の仮定。母達こそドラゴネシアから排除されまいと脅えている。か? 母達こそドラゴネシアの女達の意思に従って生きている?」


「だって彼女達は女達の代表でしょ」

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