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ダーレンの従兄に感じていた違和感の正体

 ヴェリカ宛に贈られた品で、毒の花入りのペンダントは全部で五つだった。

 送り主の名前は、マリアンヌ・ロートル、キャサリン・グラコニス、レジーナ・ハーパー、それから、ユーグレーナ・トラスとエメリア・ロゼである。

 そして送り主の家名は、ドラゴネシアに存在しない家名だった。


「困ったわね」

「困りましたね」


「おーい。どうしたの? 君達」


「あら、キース。毒入りのペンダントが五つも届いたのだけど、送り主はドラゴネシアにいない方ばかりなの。どうしたらいいと思う?」


 妻からの茶会の招待状を持って来ただけの男は、気安い笑顔をヴェリカにしっかり見せつけてから、招待状だけ置いて戸口から消えた。


「キースって弾避けが上手いってことで、縁起担ぎで城代なの?」


「ふふ。四兄弟の中で一番人材活用の才があるからですわよ」


 数分後、ヴェリカの執務室にベイラムが顔を出した事で、ヴェリカはベッツィーも辛らつだな、と思った。面倒ごとを従兄弟に押し付けるのが上手い、と言わずに、人材活用の才があるなんて言い方にするのだから。

 だが、確かにキースの適材適所に人を捌く才は有効だとヴェリカは感心した。

 ベイラムは事情を聞くやすぐに解決策を提案してきたのだ。


「プレゼントがどの家の便で運ばれたのか、受付票と照らし合わせればわかるだろう。この家は五つの箱があったはずが、リスト上では四つしかないなって」


 ヴェリカとベッツィーは顔を合わせ、ベイラムが言うとおりに最初に贈り物を受け付けた時のリストと、ヴェリカが書いたリストを見比べた。

 それで差異が確認できたのは、七家である、キャリニコス家、ユートラス家、ロマート家、の三家からの便である。キャリニコス家はベイラムの母の実家、ユートラス家はガムランの母の実家、そしてロマート家はキースの母の実家だ。


「ふうん。三婆をどうしても貶めたいのね」


「うちの母がこんな陰険な事をする人間ではないと否定してくれて嬉しいな」


「だって、後の四家はペンダントを送って来ていないのよ。四婆達が本気で私を認めないという意思表示をするつもりならば、七家全家と連携を取らなきゃ意味がないでしょ。私が三婆の実家の三家以外と繋ぎを取ったらどうするつもりかしらって、……そうよ、三家以外は」


「君は俺の母の人物評価など一切考慮に入れてないんだな」


 ヴェリカはおや? と思った。

 ベイラムの声音と表情が母親を疑われなくて安堵しているものではなく、ヴェリカの思考について何故かと考えているようなのだ。そこでヴェリカはキースを思い浮かべた。キースだったら、大げさに喜んだふりをする、と。


「キースって思っていた以上に策士だったわね。やっぱり城代だわ」


「――君は目の前の人間との会話を放棄しがちだね」


「ふふ。あなたの反応からキースを連想しちゃったから、放棄ではないわ。キースだったら、私が疑っていないと知れば思いっ切り喜ぶふりをするでしょう。でもあなたは、私がなぜ疑わなかったのか、と疑問をあからさまに見せた」


 ベイラムは表情を変えなかったが、頬骨の当たりがほんの少し赤らんだ。

 ヴェリカは彼が、失敗した、と瞬時に恥じたのだと思った。

 そこでヴェリカは再びベイラムという人物を不思議に思う。

 彼はドラゴネシアの情報を担う部署を統括しているはずであるが、王都でドラゴネシアのために日夜クラヴィスと情報戦をしているレティシアの兄達よりも表情が読みやすいのである。


 レティシアの兄達の気さくなばかりの振舞い方はキースに似ていて、彼らはそれで相手からガードを下げさせて中身を読むのだろうかと考えて、ヴェリカは急に背中に寒気を感じた。


 王都滞在中の私は、彼等にどんな風に読まれていたのかしら、と。


 しかしとヴェリカはベイラムを見やり、彼が自分を読むまでの余裕がないことに安堵を感じた。このベイラムの隙ばかりなところには、ヴェリカの好感度は増し増しだ。そこでヴェリカは、この敵地への潜入など出来なさそうな大男に嫌われ警戒されるのは悪手だと考えた。


「それで、あなたの疑問でしたわね。私が三婆様達を疑う台詞を言わなかったのは、それは当たり前です。どんなに優しい人でも、家が絡めばその方の人格も意思も否定されますもの。状況と証拠を見るだけですわ」


「状況と証拠を見るか。君こそ情報方に欲しい人材だな。だが、それでは君が言う優しい人も家と一緒に断罪されることになるのかな?」


「私は状況と証拠と申しましたわ。状況的に優しい人が巻き込まれていても、企み事に関わっていない証拠があるならば、その証拠をもとに助ければいいの。それからね、優しいのと単に弱くて流されやすいのは違う。そうじゃなくて?」


「――そうだな」


「では、状況の確認をしましょうか」


「あ、ああ」


「まずは過去からの人間関係を知りたいわ。三婆達の若い頃のお友達関係を教えて頂ける?」


「今ではなく、母達の若い頃の」


 ヴェリカはこの質問でベイラムが本気で口ごもった事が気になった。

 母親のプライベートな事をヴェリカに語りたくないという様子ではなく、痛い所を突かれた、という顔付なのである。

 ヴェリカはそこで以前抱いた違和感について思い出した。


 ダーレンがガムランを生き埋めにする時に、四爺だけでなくベイラムも呼ばなくていいとヴェリカに言ったことだ。


 小さなガムランが生き埋めにされた事件で、ダーレン達年長組も心に傷を負っているのは、小さなガムランを家庭教師に預けて自分達は遊びに出ていたからではなかったの?

 なのにどうしてベイラムは呼んではいけないの?


 ヴェリカはそんな違和感と疑問をダーレンの物言いから抱いていたのだ。


 もしかしてベイラムは、ダーレン達と同じようなトラウマを抱えていない人?

 それをダーレンは知っているけど、キースやガムラン、そしてその場にいた幼馴染のメリアには気付かれたくないと思っている?


 それはどうして、と考え、実母について答えられないと困っているベイラムの姿に、ヴェリカの頭にありえない仮定が生まれた。


 目の前のベイラムは本物のベイラムではない?

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