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残された領主夫人は仕分けの達人

 ダーレンとレティシアと二日半で王都行き隊は、ラルフによって朝食の席から二時間経たずに編成されて出立して行った。

 ヴェリカはその怒涛さに小気味良さまで感じたが、一人で行く予定だったダーレンは、叔父のラルフと従妹のレティシアに若き兵士二十八人、そこに四爺が加えられた事で少々機嫌が悪かったと思い出す。


 だけど、とヴェリカは彼との別れを思い出し、熱い吐息が勝手に漏れた。

 ダーレンは不機嫌な様子で少々乱暴にヴェリカを持ち上げ抱きしめると、そこにはヴェリカと同じように見送りに出てきている大衆がいるというのに、荒々しくて独占欲丸出しのキスをヴェリカにしてきたのだ。


 この女は俺のものだとヴェリカを貪り喰らうような。


 あれは仕返しだったわね、とヴェリカは微笑む。


 最初に自分も付いて行きたいと強請ったヴェリカの言動が、ダーレンにこそ付添いを付けて送り出すための前振りだったと気がついて彼は怒ったのだ。


 だから、自分が不在な間に彼のことだけを私が考えているようにと、あのような凄いキスをしてくれたのね。


「うふふ。それだけじゃないわ」


 ダーレンはそのキスを衆目の中でヴェリカに与えた事で、ダーレンが望み愛するのはヴェリカこそなのだと、ドラゴネシアに知らしめたのだ。


 そのお陰か、ヴェリカが城下に降りれば誰もに恭しく挨拶をされ、この数日はひっきりなしにドラゴネシア七家どころか誰かも分からぬ相手からヴェリカに封書や贈り物が届くのである。

 ダーレン不在の慰めになりますように、と。


 ヴェリカの執務机には、どんどんと夜会への招待状や贈り物が積み重ねられていく。それらを眺めたヴェリカは、嬉しさに小躍りするどころかこれらについてのお返しを考えて頭が痛くなるばかり。


「嫌われたままが良かった。行きたくもない夜会の招待状に欲しくもない贈り物なのに、心の籠ったお断り状とお礼状を何十通も書かなきゃなのね。贈り物に対しては返礼品だって用意しなきゃ。ああ、何もするなってダーレンが忠告していたわけだわ」


「ダーレン様の忠告はそういう事じゃないです。お返しに関しては私が手配しますから、ヴェリカ様はとりあえず送り主達と箱の中身の把握をお願いします」


 ヴェリカはベッツィーの指示に素直に従おうと、贈り物の一つに手を伸ばす。

 二人の執事にしっかりと女主人の心得を仕込まれているヴェリカは、良き主人というものは威厳を保ちながら有能な召使の言う事に従う人だと心得ている。


「傲慢さを失わず、されど常に使用人の顔色を覗えと? ダーレンはマナーハウスのエヴァンスが怖いとぼやくけれど、面倒臭さではギャリクソンの方が上なのよね」


「奥さま?」


「何でもないわ。ベッツィー。あなたがいてくれて助かりました」


「そんな感謝なんてもったいない。ヴェリカ様の寛容さに私こそ頭が上がりません。全くあのバカ娘は!!自分からヴェリカ様の侍女になりたいって我儘を通したくせに、ラルフ様が主催の王都へ二日半チャレンジ大会に参加するなんて」


「怒らないで。私はメリアには感謝しているのよ。レティシアの移動に父親が常にいたとしても、それでも男所帯に女一人は風聞が悪いわ。一人でも侍女がついているかいないかで、全く変わるのだから」


「でしたら、レティシア様は馬車でメリアと」


 メリアとガムランは復讐に燃えている。

 もしもドラゴネシアから盗まれたペンダントの持ち主も泥棒一味の一人だとしたら、その女はそれなりの報復を受けることになる。それは法の外で行われるものなので、彼らはそもそも王都にいなかったを通さねばならない。


 彼らがヴェリカに本当に頼みたかったことは、ヴェリカがガムランにした生き埋めを無かったことにする代わりに、二人だけの王都行きに助力して欲しいということだったのだ。


「それでは不安だったのよ」


 ベッツィーは、確かに女二人だけの旅は心配ですね、と納得した。

 だがヴェリカが抱いた不安は、メリアとガムランに対してである。

 ヴェリカはメリアとガムランが、交渉出来ない人達、と見做している。

 彼らがヴェリカに助力を頼みに来てヴェリカに翻弄されて終わりだったことで、ヴェリカは思ったのである。


 詐欺師みたいな悪人には、彼らは騙されて殺されるだけだ、と。


 そこで彼女は彼らを王都で情報戦をしているレティシアの兄達かリカエルと確実に合流させねばと考え、途中で抜ける事が許されない二日半で王都行き隊にねじ込んだのである。


「メリアも馬が操れて良かったわ」


 ヴェリカは感慨深く口にする。

 メリアが馬に乗れなかったら、ヴェリカこそダーレンと離れたくないと言い張って馬車で王都に向かうつもりだったのだ。付添いはメリアで護衛をガムランという組み合わせで。


 ああ、本当に良かった。

 あのお花畑達の付き添い人をしないで済んで!!


「男並みに馬に乗れるなんて、はしたないって思いませんの?」


「羨ましいって思いましたわ。私も彼女達のように馬に乗れたら、ダーレンの元にいつだって駆け付けられるし、どこまでも横に並んでいられるわ」


 ヴェリカはベッツィーに応えながら箱を開け、中身がネックレスであることと送り主の名前をリストに書き記す。


 あら、青い結晶と小花のドライフラワーが詰まっているわ。

 手作りかしら? ガラスの蓋のロケットネックレスなんて可愛いわね。

 送り主は、マリアンヌ・ロートル、と。


 書き終わった彼女は二つ目の箱を開け、美味しそうなクッキーだと思いながらリストに書き記し、一つめの箱とは違う場所に置く。

 それで三つ目はと彼女は手を伸ばし、ベッツィーが静かすぎると顔を上げる。


 すぐにヴェリカは箱に注意を戻す。

 なぜならば、ベッツィーが泣いていたのだ。感極まるという風にして。


 なぜ?


 ヴェリカは尋ねるのも怖いと三つ目の箱へと注意を戻して開けたが、その中身はヴェリカにもう一つのなぜ? を与えた。

 一つ目と同じネックレスなのだ。


 ドラゴネシアに銅鉱山なんかなかったはずなのに。

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