覗き見されてるその現場で その2
ヴェリカは叔父に幽閉されていた。
それなのに今夜の夜会に参加できたのは、ヴェリカの策略によるものだ。
まずヴェリカは外に協力者を求めた。
ヴェリカが目を付けたのが、従姉妹のドレス製作の為に伯爵家を訪れた針子、それもいつまでも店主には見習いの扱いでドレスデザインを盗まれ続ける子だった。ヴェリカは彼女を篭絡して取り込んだ。ヴェリカは今夜の出席どころか会場に潜り込む手段として、針子の中に紛れ込ませて貰えるように頼んだのだ。
ヴェリカが辺境伯との婚姻が成立した暁には、針子に店を持たせる約束をしている。
そしてヴェリカが策略家だからこそ、将を射んとまず馬をと動いた。ドラゴネシア辺境伯に真っ直ぐに向かわず、彼の従妹を助けることで自分を彼に売り込もうと企んだのだ。それがヴェリカが今現在、王宮の廊下の暗がりでレティシアの不幸を覗き見している理由である。
「レティシア。私が我慢ならないのは君のその愚鈍さだ」
「え? それはあなたこそでしょう」
やっぱり言い返していたのはのぞき見しているヴェリカだった。
レティシアは酷い侮辱に言葉を失い、顔から血の気も失っている。
「愚鈍に徹したい気持ちはわかるよ、レティシア。私との結婚が流れれば君には次が無いからね。だが、だからこそ考えて欲しい。私を愛しているならば、私の今後を。私だって君がもう少し美しければ君の陰鬱な性格に耐えられただろう」
「あいつの目は頭と同じぐらい腐っているわね」
「同感だ」
ヴェリカは突然の男性の声にビクッと驚き、瞬間的に悲鳴を上げかけた。
悲鳴が口から飛び出さなかったのは、ヴェリカの真横にかなりの大柄の男が立っていた恐怖が大きかったからではない。大柄な人なのにいつのまにか後ろに立つ猫みたいに現れたと、ぞっとしてしまったからでもない。
その男の大きな手で口を塞がれただけである。