表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/59

手芸店の品ぞろえには驚くばかり

 ヴェリカがレティシアと仲良く入った手芸店。

 そこには四婆と、ダーレンの元婚約者候補だったらしいリイナ・ハレーシアまで集合していた。

 ヴェリカは思わずぎゅうと右手に拳を握る。


 怒りの拳ではなく、やった!!という単なる喜びのポーズだ。


 ようやくヴェリカは狩りが出来るのだ。

 この状況はヴェリカが呼んだわけではなく、完全なる偶然であり、そしてヴェリカが何かをしてしまったとしても、それはヴェリカがこの先もドラゴネシアにて生き残るための正当防衛だ。


 ヴェリカはわくわくしながら、獲物達の様子を探る。

 初めて目にした四婆達は、ヴェリカが考えていた通りの人達だった。

 一目でリカエルの母だと分かる焦げ茶色の髪をした美女と、初めてレティシアを見かけた時に感じたもっさりと形容したくなる印象の大柄な三人の中年女性。


 クラヴィスで流行っている悪趣味なピンクではないけれど、体の線を消そうとして足したプリーツや大き目に作った上着のせいで台無しばかりね。顔立ちはドラゴネシア四兄弟みたいにそっくりではなく、それぞれ家の特徴のある顔立ちをしているけれど、どの顔も美人と形容して間違いはない。


 本当に、ドラゴネシアって自分の見せ方を知らない勿体無い人ばっかりね。


 それから、と、ヴェリカはリイナへと視線を転ずる。

 そして、やっぱり、と思った。


 リイナ・ハレーシアは、誰が見ても美人、であった。

 ヴェリカの第一印象は、リイナは自分の見せ方が上手な人だなあ、である。

 そして視線を動かして、リイナが数秒前に横にいたもう一人の中年女性を見つめる。彼女は恐らくリイナの母親だろうと判断し、彼女もリイナと同じく服の着方が上手いとヴェリカは思った。


 彼女とお友達のはずの三婆達がもっさり道を邁進しているのは、もしかして親友のアドバイスとやらでわざと失敗するような誘導をしているのかしら?


 その疑問を前提にリイナの母を見直してみれば、彼女は背の高さは四婆よりも低く、顔立ちも四婆と(リカエルの母を別格としても)比べればぼんやりしていると感じた。


 着方や化粧で化けられると自分こそ知っていれば、垢ぬけさせれば絶世の美女にもなりそうな親友(?)を絶対に磨かせるわけにはいかないわよね。

 あら、でも、四爺達の誰も、リイナの母を選びはしなかった。

 いいえ、私の見方がリイナの母に対して辛辣なものになっているだけで、彼女が性格が悪いと決めつけてはいけない。自分を良く見せられる彼女は普通に心優しく、人の服装をとやかく言うような人じゃ無かっただけとしたらどうかしら。


 ナタリア以外の三婆達が自己認識が低いだけで、勝手にあのもっさり道を貫いているだけだとしたら?


 リイナの性格からしたら、どうして自分の母が四爺に選ばれなかったのかと母の性格を恨み、そして、自分こそ領主と結婚しようと考えるかしら?


 ヴェリカはリイナと四婆をどうしてやるべきか、と考える。

 ヴェリカがレティシアから聞いていたリイナの悪行は、醜いダーレンと結婚したがる女は財産狙いしかいない、そんな噂とレッテルをドラゴネシア社交界に広めたことだ。

 そしてクラヴィスに悪感情しかない四婆は、クラヴィスの貴族であるヴェリカをその噂を元に判断することに何の躊躇もなかったのだろう。


 財産ねぇ。


「ごきげんよう、ファルネル夫人」


 レティシアの声にヴェリカはハッとする。

 また、嬉しくなって頬が緩む。

 レティシアは名前で呼び合っているはずの相手に対し、リイナと名前で呼ばずに家名呼びの格式ばった挨拶をしたのだ。


 これは、お前はもう七家も関係ない単なるドラゴネシアの一市民でしかない、と言外に伝える行為である。


 ヴェリカはレティシアが強くなっていると微笑み、また、根っからの淑女こそ本当に怖いのよねとレティシアを頼もしく思った。


 なぜならば、レティシアはさらに進撃していくのだ。

 まるでヴェリカを守るようにして。


 四婆達に向け親しみの籠った挨拶をし終えれば、自分は美しくなったでしょうと言い、四婆達の視線を変わった自分に集める。その後は、この姿になれたのはヴェリカのお陰だと、ヴェリカを自分の恩人として紹介したのだ。


 素晴らしいわ、レティシア。

 あなたの紹介を四婆が無視などできやしないから。


 レティシアの父は前当主の実弟なのだ。

 七家どころかドラゴネシア四兄弟家の上になる。

 ヴェリカはこの好機を絶対に逃すまいと、おっとりとした貴族女性がするようにしてゆっくりと腰を下げる礼を四婆に捧げた。


 そう、しっかりと頭を下げるのよ。

 ダーレンの瞳の色(セージグリーン)と同じ色の宝石が輝くピンを見せつけるようにね。


 顔を上げたヴェリカは、ただただニコニコと微笑み、今度は自分こそレティシアへの賛美ばかりを口にする。


 これは簡単。

 だってレティシアが心も姿も誰よりも美しいのは真実だもの。

 でもね、この賞賛を聞きたくない人間がいるのよ。


 ヴェリカは視線の隅でリイナの表情が硬くなったことを捉える。


 あら、見覚えがあるわ。

 あの屑の愛人のピンクブロンドと同じ顔つきに変わったわ!!

 さあ、あのピンクブロンドと同じセリフを吐いてきなさい。

 私がちゃんと真実でぺしゃんこにしてあげる。


 レティシアはクラヴィス一の美女で、そしてこんな美女を生み出したドラゴネシアは美女ばかり。あら、美人じゃないと? どなたに言われましたの? さあ、考えて。あなた方が自分は醜いと思い込むようになったきっかけを。


 今のリイナのような方の牽制では?

 ええ、牽制ですのよ。

 あなた方がご自分の美に気がついたら、絶対に敵わないと気がついているから。


 ダーレン達を噂で貶めたならば、その噂を流す人こそ品性下劣だってしっかり語ってさしあげます。そんな噂に流されるばかりの人の愚鈍さについても。


 さあ、リイナ!!


「うれしいわ!!ようやく同士に会えたって気持ちよ!!」


 え?


 ヴェリカは固まった。

 レティシアへの絶賛にすぐに賛同してきたのが、リカエルの母のナタリアだったのである。ここはリイナに全否定をしてもらうはずだったのにと、ヴェリカがぴきっと固まってしまったのはそういう事だ。

レティシアの父→ダーレンの父の弟

リカエルの父→ダーレンの母の弟

キース、ベイラム、ガムランは、本当の意味ではダーレンの従兄弟ではないですが、親族間結婚で血を重ねちゃっているので遺伝的には従兄弟よりも近くなってます。そしておおざっぱな彼らは、祖父があるいは父が従兄弟同士でなど一々説明するのも面倒だと、自分達の関係を従兄弟あるいは兄弟と称します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ