この人達も埋めてしまおうかって思ってしまう の2
どうして私を閉じ込めてるダーレンは、外にひょいひょい出ていっているの?
答え、ヴェリカがガムランを埋めたからガムランの分の仕事もダーレンが請け負っているから、なのだが、今のヴェリカは不機嫌なため真実から目を逸らす。
ヴェリカは目の前の両想いなのに片思いの花畑カップルが面倒臭くなったがために苛立ち、苛立ったがために現状への不満をとにかく吐き出したくなっただけなのだ。
自分は大人しく監禁されているのに、監禁者のダーレンが看守役を止めて普通に仕事に行ってしまっているという矛盾と不公平さへだ。
勿論ダーレンはヴェリカを閉じ込めている手前、どころか、自分こそヴェリカと一緒に部屋に閉じこもりたがった。だが彼はドラゴネシアの王だ。出来る限り膝にヴェリカを抱いて内勤仕事をしたくても、外せない外仕事は外せない。
リカエルがいないのだから尚更だ。
そしてダーレンが部屋を出て公務をしている間、もちろんヴェリカが何もしないで呆けているはずは無い。彼女は領主夫人として領主館の帳簿などの見直し仕事をしているのだ。
ヴェリカは学校に通えなかったが、ヴェリカを女伯爵にしたかった執事によって領地経営の手ほどきを受けている。このままでは貯蓄に回せる剰余金が少ないから国税を少なくさせるための二重帳簿を作っちゃおうか、と悪巧みを考えられるぐらいに帳簿の見直しなど余裕仕事だ。
そのため、あっという間に見直し仕事は終わってしまっていた。
つまり、暇だった。
だからメリアとガイラムの訪問をありがたく受け入れたのだが、彼らの訪問意図が掴めず苛立つだけだった。
婚約の報告でもない。
ガイラムを生き埋めにした事は内緒にして、はオマケっぽかった。
では彼らの本題は一体何だっていうのだ?
私ともっと仲良くなりたい? 仲良く?
あ。
ヴェリカは閃いた。
ヴェリカは手が空いていて、ダーレンがヴェリカ入りの自分の執務室に戻って来るまで、今なら小一時間ほど時間がある。
ということは、と、ヴェリカはガムランとメリアを見つめる。
護衛や付添い無しで動き回るな、というダーレンの言いつけは完全にクリア。
「砦から一時間で往復できる家は、ハルメル伯爵家、フォーガス男爵家、アベイ男爵家、それからアークノイド男爵家のどれかしら?」
「凄いな。思いっ切り俺達との会話を放棄してきた上に、ダーレンが聞いたら嘆きそうな計画をぶちかまして来たぞ。もしかして、君は俺の家に突撃したいの?」
「突撃なんて物騒ね。それであなたのお家が一番お近くなの?」
「いや。一番はキースの家だな」
「キースの家だったら嫁と姑も揃っているからなおのこと好都合ね。では新旧ハルメル伯爵婦人に会いに行きますから、付添いと護衛をお願いね。二人とも」
「嫌です」
「辞退させてくれ。キースの人生に爆弾を放り込む役はしたくない」
「人生だなんて大げさ。私はハルメル伯爵婦人様方に普通にご挨拶をして、これから仲良くして下さりませんかと、お話合いに行くだけですわよ」
「言う事聞かなかったらキースも生き埋めにするぞと、脅しも入れて?」
「いやだ。ガムランは朗らかな方だと思ったのに、考え方がリカエルそっくりで物騒だわ。キースもそうだし。常に危機を考えて備えている方達は、同じ様な考え方になるのかしら」
「そうかもね。君というドラゴネシアの危機に備えなきゃって考えたら、本気で物騒な考えばかりになるね。この能天気だったメリアでさえ悲観的になってしまった。それで、出掛けるって、本気か?」
「他にやることないし。私を嫌う方々の顔を見て回るのも楽しそうだなって」
ガムランは乾いた笑い声をあげてから、メリアの背を軽く叩いた。
「頼む。俺はちょっとダーレンとこ行ってくる」
「え?」
「俺が戻ってくるまで、このおっかないのを動かすなよ!!」
「ええ!!ガムラン!!」
ガムランは部屋を飛び出して行き、残されたメリアはいたたまれない表情でヴェリカをみやる。ヴェリカは開け広げられたままの執務室のドアに対して、むうと頬を膨らます。
「奥様」
「メリアはもうちょっと勇敢だと思ったわ」
「ですが、これ以上四婆様達とこじれてしまったら大変です」
「もーう。ダーレンもガムランもキースも同じ考えでしょうが、いいこと。脅え切った仔猫は遠くから見守るべきでしょうけど、時には無理やりにでも抱きしめて人慣れさせなきゃ、人が怖いままの成猫になってしまうのよ!!」
「四婆様達を仔猫に例えられるなんて!!」
「ヴェリカ殿しかいないね」
一度は喉を潰した事があるような、なめらかとは言い難いかすれた低い声が室内に響いた。あまり大きな声では無いが、風で揺らぐ葉の音のように響き、なぜか心地の良さまで感じる、とヴェリカは思った。
一瞬だけ。
ドラゴネシア四兄弟の一人で砦では情報方らしいベイラム・フォーガス男爵は、猫に操縦されているとドラゴネシアでは有名な男だ。
ヴェリカは彼に会う度に、ダーレンには絶対に猫を飼わせない、と決意する。
小麦色に焼けた肌に白っぽい金髪、そして赤褐色の琥珀みたいな瞳をしたドラゴネシアの大男は、ドラゴネシアの顔立ちに体つきながらドラゴネシアの色が無いせいで、ミステリアスでかなり魅力的にみえる男性なのである。
頭に猫さえ乗せていなければ。
「何か?」
「早馬の知らせを君に知らせとこうと思って。ドラゴネシア伯爵家の馬車がこちらに向かっている。乗っているのは五爺になりたいラルフとレティシアだ」
「ではすぐに迎えの準備を――」
「きゃあ!!レティシア様がいらっしゃるなら、ヴェリカ様も無体な事をなさいませんよね!!ああ、良かった!!お母さんにすぐに伝えなきゃ!!」
「ベイラム様。私がメリアに無体な事をしちゃっても黙っていてくださる?」
「俺にだけ付けている様を取ったら見逃そう」
「ありがとう。ベイラム」
「いいよ。ヴェリカ」
「ひどいです!!ベイラム様!!」
だがしかし、メリアはヴェリカからひどい目に遭わずに済んだ。
飛んで戻って来たダーレンがヴェリカを捕まえてしまったからだ。




