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仲良し作戦は大茶会開催はどうかなとダーレンが

 その夜、ヴェリカは早速ダーレンにリイナについて尋ねていた。

 思い切ってというよりも、ヴェリカは聞かなければ落ち着かない、それぐらいの焦燥感に突き動かされていたのだ。


 重要よ。

 愛に永遠を誓えるダーレンだからこそ、心の中に過去の恋人が残っていたら最悪だわ。いいえ、恋を誓った相手の面影でさえ心から消してしまえる人だったら。


 私は彼からの愛を失ったら生きていけないというのに。


「リイナってあなたにとってどんな方でしたの!!」


「どんな?」


「こ、恋人でしたの」


「ああ。リイナの噂を聞いたのか。恋仲どころかどうやって振り払うか悩みどころだったな。ほら、紹介が四婆達だろ。リイナの母親は四婆、違うか。ナタリア抜いた三婆の子供の頃からのお友達なんだよ。俺の母親代わりの人達が薦める親友のお嬢さんとの縁談だ。ほんっとどうしようかなって、あの頃は悩んだね」


「そんなに合わない方だったの?」


「俺はヴェリカが好きだからな」


「もう!!その頃は出会ってませんよ」


「じゃあきっと、生まれる前の魂の段階で君に出会ってたんだな。だから、君以外の女性を見ても、誰にも心が揺らがなかった」


「ウフフ。素敵ね。ねえご存じ? パレードをしているあなたを、私は望遠鏡を使って眺めていたの。すごく離れた場所からよ。なのに、あなたが私に気がついた気がして。魂が繋がっていたからかしら」


「そうかも――そうか、あの時か。たぶんハルパン通りに入るとこだな。平和だなって思った瞬間に視線を感じてさ。思わず殺気を放った気がする」


「ふふ、あれが殺気というものなのね。全身がびくって震えて、私は梯子から落ちそうになって、きゃあ」


 ヴェリカはダーレンに引き寄せられ、ダーレンの膝の上に座らせられた。

 そしてヴェリカを抱き締めたダーレンは、ヴェリカの胸元に頭をくっつけ、深い深いため息を吐いた。


「君が無事で良かった」


「ええ。無事で良かった。夜会であなたに出会えて良かった」


「ああ。俺を王都に呼び寄せた王様さまさまだな。君に出会えた。――ああ、そうだ。茶会を開いてはどうかな? ドラゴネシア中の女を招待しての大茶会だ。君を知ったら、誰もが君に平伏す。そうだろ?」


「だいちゃかい? 私は小さなお茶会一つ開いたことが無いのよ」


「リカエルに頼め」


「――あなたったら。リカエルがいなくなったら大変ね」


「ああ。君に寂しいって甘えるな。君がいてくれて本当に良かった。――弟の死で母は弟が生きている幻影の世界に生きるようになった。父はそんな母だけになった。現実に自分を見つめる事が無くなった母に付添い、それでいるはずのない弟を一緒に雨の中に探しに行って、それで仲良く肺炎になって死んでしまった。ナタリアが母代わりに付き添ってくれて、弟と同じ年齢のリカエルは、俺をお兄ちゃんと呼んで纏わりついてくれたが、俺は弟を失った日に両親も失っていた」


「ダーレン」


「頼むよ。君の悲しみは俺が全て背負うから、君は俺を締め出さないでくれ。たとえ、ああ、たとえ、最愛の子供が死んでしまっても」


 ヴェリカはダーレンを抱きしめる。

 自分の体がもう少し大きければ良かったと思いながら。


 赤ん坊を抱く母親みたいに、ダーレンを抱きしめてあげたい。


「同じ願いを私もあなたにするわ。私を締め出さないでね。どんな絶望があなたを襲っても、私も全部背負うから」


「ああ」


「それで、リイナとやらが煩かったら、私はどこまでしてもいい?」


「――心を砕くだけにしてあげて。再起可能なぐらいにね。とりあえず子供を持つ母だから、母親が腑抜けたら子供が可哀想だ」


「あなたはなんて優しい人なの!!」




「鬼かよ!!お前等は俺への気遣いが何もないのな。俺があと三日でドラゴネシアを発つってわかっているの? あとね、そんな大規模茶会があと三日で開催できるって本気で思ってる? 俺を殺しに来たの?」


 翌日のヴェリカは早速リカエルに茶会について相談に行った。

 すると、無駄に責任感のあるリカエルは、ヴェリカに四婆だけを呼ぶ茶会を開いて、その後に大規模茶会を開催しろと助言を与えた。


「ガムラン達に招待状を渡せ。息子のお願いを無下にするババア共じゃない。四婆だけの小さなお茶会なら、ベッツィーいれば何とかなる」


 ヴェリカはリカエルに言われた通りに招待状を書き、ダーレンの従兄弟達、兵団長のガムラン、情報方のベイラム、それから城代のキースに手渡した。


 結果、四婆達から届いた手紙は、辞退しますというお断りだった。


 これからドラゴネシアの祭りがございますので、大事な行事の準備をせねばなりません。心苦しいですがお誘いをご辞退させていただきます。


 全員同じ文面の。


「ふふふ。あら、ドラゴネシアで大事な行事だったら、領主夫人の私こそ中心になって関わるべきものじゃありませんの? 本気で私を全てから排除するおつもりなのね。いいわよわかりました。その大事な行事が成功しますとよろしいわねと、お祈り申し上げますわ!!」


「……四婆には俺から厳しく言っておくから、ね、祭りは領民の大事なものだから、こ、壊すようなことはし、しないよね?」


「女の戦いに男が茶々を入れないで。黙って静観なさっていて」


「はい」


 ダーレンを酷く脅えさせたヴェリカの憤慨だが、警戒するダーレンが肩透かしを食ったと思うほど彼女は全く動かなかった。

 彼女は馬鹿ではない。

 リカエルがいれば彼は母親を守るために、最大限の能力でもってヴェリカの邪魔をするのはわかっている。


 なのでヴェリカは、リカエルが出立する日を行動開始の日と決めていた。

 なのに、そのヴェリカの出端はくじかれた。

 ダーレンが裏切ったのだ。

 なんと彼はヴェリカを捕まえて自分の執務室に閉じ込めるという暴挙に出たのである。


「どうしてダーレンが私を拘束なさいますの? 四婆をやるのは、リカエル不在の今こそじゃないの!!黙って見守って下さるお約束でしょ!!」


「絶対に君が勝つのがわかっていて、君を止めないわけ無いだろう。君が一人ぼっちになる一人勝ちなんか、俺が君にさせるはずないだろう!!」


「でも、だって、これじゃあいつまでたっても私は認められないままなのよ。ダーレンのお嫁さんだって、誰にも認めてもらえないなんて!!」


「わかってる。わかってるよ。だが俺は君が傷つくのがもっと嫌だ。それに、思い出せ。俺達は新婚だ。砦の皆は、リカエルがいなくて俺が落ち込んでいるだろうからそっとしておこう、という気遣いをみせている。これに乗ろう。俺達は砦の皆の心遣いを大事にして、思いっ切りイチャイチャしようよ」


「うむぅ」


「四爺達のせいで馬車の旅は消化不良だった、だろ?」


「――そうね。あなたの言う通り」


 ヴェリカは少しだけ不服そうな顔をしたが、すぐにダーレンに抱き着き直した。

 ただし、無理に抱かれた時と違い、完全にダーレンを椅子に見立てた座り方だ。


「我儘いっぱいしてさしあげますから、覚悟なさってね」


「障害があるほどドラゴネシアの男は萌えるんだよ」

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