覗き見されてるその現場で その1
ヴェリカの視界に映るレティシアの姿は、叔父夫妻に全てを奪われた彼女自身の姿に重なった。すると、アランにしがみ付くピンクドレスの女性は、行儀を知らないまま成長した従姉妹達の姿に置き換えられた。
ヴェリカが気に入らないと感じれば叔父夫妻に嘘ばかりを言いつけて、ヴェリカへの当たりをさらに悪化させた猿共に。
ヴェリカの視線の先のピンクドレスの女性は、レティシアへの嘲りの表情を消すや、わざとらしい泣き顔に変える。ヴェリカは、似たような性質の女はどうして表情の作り方も一緒なのだろうと、猿共を思い出しちゃったじゃないのと、ウンザリとしてしまう。
「ぐす。ごめんなさいね。レティシア様。私は彼がいないと生きていけないの」
「ああ。ララは何て可愛いんだ」
「うわあ、完全に騙されている。やっぱり外見だけの男は駄目ね。アランが懸想するララ・フローラは、綿菓子みたいな外見でも、中身は松脂みたいにネチネチしているっぽいじゃないの。絶対にレティシア様よりララの方が強いわよ」
ヴェリカは吐き捨てながら、アランの左腕にしがみ付く女性を観察する。
ララが着ているドレスは最新のもので、レティシアとお揃いにも見える色とデザインである。そのために背が高くそのドレスデザインが似合っていないレティシアこそ野暮ったく見える。
この状況こそおかしい、そうヴェリカは思った。
会場の裏で参加者のドレス直しの為に控えている針子達によれば、ララはこの会に出席できる身分ではない。古くからある家どころか大金持ちの一族の娘のドレスと同じものを、子爵家由来の家柄程度の家の娘が手に入れられるはずはないのだ。
「可愛い、だなんてアラン様。このドレスを見立ててくれたアラン様のお陰です」
「いいや。君が何でも着こなせるってことかな」
ヴェリカは針子達からララが彼女を信奉する男性達から贈り物をせしめている噂を聞いており、その通りだったのかとララの煌びやかドレスの理由に納得した。
「婚約者でも無い男からドレスまで買って貰っていたとは、愛人? アランもアランだわ。婚約者がいながら別の女性にドレスを贈っていたなんて」
ヴェリカはララに蔑む視線を向けたが、恥ずべきアランは蔑む視線を何の過失も無い自分の婚約者に向けていた。ヴェリカはさらに苛立たしいと憤慨する。アランは視線でレティシアを見下したのだ。
彼の視線ははっきりと物語っている、君はみっともないな、と。
小柄なララにはボリュームのあるドレスは似合う、だが、そんなドレスが背が高い女性に似合わない事は当たり前なのだ。似合わないドレスを着てしまっただけの哀れな女性は、アランの目線に耐えられないという風に胸の前で両手を握る。
「自分を知らず、流行を着ればいいと思う女性は、散財家となる。似合わないのに宝石やドレスを無駄に買う女性を私は軽蔑するね。その金は領地の大切な領民の血税であっただろうに、よく無駄にできると」
「そんな。王が主催する会に着るドレスは新品で無いといけないだけで、私はそんな散財など。それよりも、あなたがドレスをその方に買って差し上げていた行為こそ領民への無駄使いではありませんの」
初めてレティシアが言い返した。
ヴェリカはそこでレティシアを見直し、孤立無援で旗色が悪すぎる彼女への庇護心も掻き立てられた。
大泣きさえすれば誰もが被害者と考える外見のララが相手では、知的美人で体格のしっかりしているレティシアが不利過ぎるのは一目瞭然だ。
今だってレティシアの言い返しにわざとらしく驚いたふりをして、アランの腕をさらにぎゅっと抱きしめたのだ。アランの腕を自分の胸の間に沈みこませるあざとさで。
「うわあ。単純」
ヴェリカは溜息交じりの呆れ声が出た。アランはララのあざとい行為にあからさまに喜び、ぶふっと勇ましい鼻息まで吐いたのだ。そして劣情に煽られた男は、強敵に打ち向かうようにして胸を張る。か弱い孤立無援の女性に対して。
「似合わないドレスを買う君こそだろう。ララは困っていた。困っている淑女を助けるのは紳士の役割だ」
「アラン様ったら。似合っていないなんて、そんな正直に。わるい人」
「性格悪」
ヴェリカは再びの呆れ声をあげていた。
普通に性格の悪い外見だけの女であるのに、どうしてアランにはそこが見えないのかと、不思議ばかりである。
確かにララは美しい。
薄暗い廊下でもキラキラ輝く明るい金髪の巻き毛の持ち主で、可愛さばかりが先に立つ幼さが残る顔立ちをしている。明るい髪色がその可愛い顔立ちと相まって、彼女を見た誰もが天使のような無邪気な人だと勘違いするのだろうか。
ヴェリカはうんざりするとともに、世界に対して苛立ちも感じていた。
「男が小柄な女を無条件で無力と見做すのはこんな女の演技のせいかしら。それで私みたいなちびが迷惑被っているの? 頭にくるわ。それに、女の媚びた顔に簡単に騙されるなんてどういうこと? アランさん、ララさんが男の人に媚びる表情が出来るのは、そもそも恥を知らない人だからって証拠なのよ。検証用に私の従姉妹達を紹介しましょうか?」
ララの表情に魂を抜かれた間抜け面となったアランに対し、ヴェリカは反論を止めてしまった伯爵令嬢の代わりに毒づいた。
そしてすぐに溜息を吐く。
「背が高くて綺麗な女性って、どうして言われっぱなしが多いのかしら。私みたいなちんくしゃに色々言われ過ぎたのかしら?」
ヴェリカはララと同じぐらいの小柄な女性であるのだ。ついでにヴェリカも実はララと同じく金髪であり、自分がとても気が強く策略家である事を知っている。
でなければ、幽閉されている状況から王宮のパーティなどには出られない。