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ダーレンの過去にある女の名前

 栗毛の真っ直ぐな髪にハシバミ色の瞳をしたメリアは、ヴェリカの侍女となった少女である。メリアは可愛らしい顔立ちをした少女で、ヴェリカと同年代だ。

 ヴェリカはメリアの抜擢理由が、ヴェリカを慰めるための話し相手としてだけだろうと考えている。


 メリアは気立ても良いが、元気過ぎて落ち着きがないのだ。


 ヴェリカの執事のギャリクソンだったら絶対に選ばないだろうが、彼女の母親がベッツィーだということでヴェリカは受け入れている。

 ヴェリカとて全方向に喧嘩を売るつもりなど無い。


「リカエル様はもういないんですか。せっかくお茶を用意したのに」


 主人の私用のお茶じゃないの?

 しかしヴェリカはメリアがリカエルを狙っていることをメリア本人から聞かされていたので、メリアの主人として彼女に言うべき小言などさっと流した。

 リカエルが恋するセシリアを紹介したのがヴェリカなのだ。

 今後の自分の境遇を考えれば、メリアには良くしてあげねばならないだろう、という打算だ。それよりもヴェリカは、四爺からリカエルが失恋した事を聞いたからヴェリカが四婆から嫌われたのかと邪推もしていた。


 それプラス。

 あのリカエルが、ドラゴネシアの女性達の誰もが憧れ望むという、絶対的人気者なのだという事実。

 その人気者が腹黒と呼び粗忽に扱うばかりなのだから、私がドラゴネシア女性の達の絶対的な敵とみなされたに違いない。

 リカエルめ!!


 ヴェリカはメリアを見やり、再びリカエルへの憤懣を抱いた。

 メリアがお茶を用意したのは、主人であるヴェリカのためではなく、彼女が憧れるリカエルの為なのだ。

 そしてリカエルはすでに退出した後だと知ったメリアは、残念だと騒いでいる。


 ああもうメリア、いい加減になさって。

 上品な微笑顔を崩さないベッツィーのこめかみに、青筋が浮かんできたわよ。


「メリア。リカエルなら、お茶が飲みたいなら自分で淹れるでしょう。たぶん、彼こそドラゴネシア一美味しいお茶を淹れられるのでは?」


「アハハハ。その通りですね。だけどお、リカエル様は母からちょくちょくお菓子を貰っているから、お腹が空きやすいのかなって」


「それを言い訳に顔を出しているだけよ。家出予定のくせに、今も引継ぎで駆け回っている人だもの。自分の目で全てを確認しなきゃ落ち着かない貧乏性なのよ」


「ぷ。ヴェリカ様、言葉選びにお気をつけあそばせ」


「ベッツィーこそ笑ったくせに」


「ふふ」


「すごい。ヴェリカ様はリカエル様のことを良くわかっているんですね」


 メリアはヴェリカとベッツィーの間にあるテーブルに盆を置いた。

 ガチャンと高価な茶器が鳴り、ベッツィーは疲れたような溜息を吐く。

 メリアはベッツィーと血が繋がっていることが疑わしくなるぐらい、騒々しくふわふわした女性である。ベッツィーが娘にどれだけ小言を言ってきたのだろうと考え、ヴェリカは自分はメリアの無作法を流したと分かるようにベッツィーに別の話を振る。


 もちろん今一番ヴェリカが知りたい題材である。


「リイナってどなた?」


 ベッツィーはさらに深い溜息を吐いた。

 頭痛が酷いという風に額に手を当ててもいる。


「ベッツィー?」


「リイナっていや~な奴です。ダーレン様の婚約者候補だった人で、ダーレン様が怪我したせいで自分と彼との結婚が流れたって、ろくでもない噂ばっかり流す人なんです。だからリカエル様が落ち込むんですよ。ダーレン様の怪我はリカエル様を守った時に負われたものだから!!」


「婚約者候補って、ダーレンと恋仲だったりしたの?」


「リカエル様の落ちこみは良いのですか? 流された噂話は?」


「リカエルは私の夫では無いから別に。噂話は聞いても今すぐどうにもできないからあとで大丈夫。それよりもあの人と恋仲だったの? まだダーレンに未練ばかりだったら私には邪魔だから、出来る限り早めにお勉強させてあげないと」


「ヴェリカ様。ダーレン様にお尋ねください」


「うん、うん。お母さんの言う通りに、ダーレン様に聞いてください。さ、さあさあ、お茶しましょうか、お茶!!」


 そう言うセンシティブな事は本人に普通は尋ねないでしょ。


 ヴェリカはそう思ったが、その夜ダーレンに結局尋ねてしまった。

 彼女にとってはダーレンに恋人がいたかもしれない過去はとても大事だ。

 永遠を誓ってくれても、同じように永遠を誓った相手と過去に別れていたならば、自分との永遠も消えるのかと考えてとても不安なのだ。


 ヴェリカだって、愛を知ったばかりの十代の少女でしかないのである。

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