初めての朝チュンが残念なものになったのはスズメを食べた呪いかも
ヴェリカはまどろみからゆっくりと目覚め、こんなに安らかに眠れたのは何年ぶりだろうと、温かな抱き枕状態になってくれている最愛の人の肩を撫でた。
先に起きていたらしいダーレンがくすぐったそうに笑い声を立てる。
ヴェリカはなんて素晴らしい音楽だと思いながら、ダーレンの瞼に口づける。
「昨夜は素晴らしかったわ。あなた」
「それは俺が言うべきセリフだよ!」
ダーレンが本気で笑い出す。
本当に彼の笑い声は何て心地良いのだろう。
ヴェリカはダーレンの髪を撫でながらうっとりと思う。
昨夜のことも。
初夜は女性には辛いだけと聞いていたが、確かに辛い所もあったが、今夜も明日の夜も、その次の夜だって、ダーレンを感じたいと思わせる素敵なものだった。
痛いのは最初だけらしいから、昨晩より今夜の方がきっともっと素敵ね。
「ハハハ。ハードルを上げないでくれ」
「まあ、心の声が漏れていました?」
ダーレンは堪え切れないというようにヴェリカを抱き締め、彼女の額へ頬へと軽く口づける。ヴェリカは笑いさざめきながら、ダーレンの腕から逃れる。けれどそれは彼女こそ優位に立つため。ダーレンの腕から逃げ出した彼女は、ダーレンをベッドに仰向けに押し付けてから、彼の体の上に覆いかぶさる。
セージグリーンの瞳は、朝日よりもキラキラと輝いている。
二人の視線は絡み合い、微笑み合った。
そして二人は、互いが望む幸せで優しいキスを得ようと、互いの唇を近づける。
ドオオオオオン。
ドッゴオオオオオン。
「きゃあ!」
二人はキスするどころか、ベッドの上で驚きに跳ねた。
ヴェリカは自分がまな板から逃げる魚になってしまった気がした。
彼女はつるんとダーレンの体から落ちて、ベッドから床へと勢いよく転がり落ちてしまったのだ。
ごとん。
「痛い!!」
「ヴェリカあああ!!」
大したことでは無いが、ヴェリカの一挙一動を大したことにする男がいる。
彼は床に落ちたヴェリカをさっと抱き上げ、すぐにベッドに横たえた。
大変な怪我を負っている人か、重病人にするように、否、生まれたての赤ん坊にするようにダーレンはヴェリカを毛布で包む。
「大丈夫か!!痛い所は無いか?」
ダーレンの行動に、ヴェリカはポケッと驚いたまま声を出すことを忘れた。
それがさらにダーレンの感情を煽った。
ドゴオオオオオオン。
ドドドーン。
「はふっ」
「ああ、ヴェリカがこんなに脅えちまった!!」
聞いたことの無い遠くで起きた破壊音よりも、ダーレンの怒り声の方が城内を揺り動かすぐらいに恐ろしいものだった。
そしてダーレンは、完全にヴェリカの様子に混乱していた。
大事な妻が脅えて放心している!!
それは、祝砲だと大砲をぶっ飛ばしている四爺のせいだ!!
「あいつら。ぶち殺してやる!!」
ダーレンは地獄の底から響く声で呪いの言葉を吐くと、そのまま部屋を出て行こうと踵を返す。
ここは動かねばとヴェリカは必死で起き上がり、ベッドの隅に丸まっていたガウンを掴んでダーレンへと放り投げた。
「待ってダーレン。せめてガウンを羽織って!!」
「うむ」
ダーレンはヴェリカが投げたガウンを受け取り、それを器用に纏いながら部屋を飛び出て行った。
全裸にガウンを纏っただけの姿で、四爺達が大砲をぶっ放しているそこへ向かって行ったダーレン。
「あら、ガウンよりも下履き一枚の方が古の戦士っぽくて恰好良かったかしら」
ヴェリカはぼんやりしながらも、部屋で動きまわっていたダーレンの全裸姿を思い出しながら頬を染める。
「ダーレンの筋肉は何て美しいのかしら」
一方妻に称賛されているばかりのダーレンは、妻との初めての朝の想像以上に甘く幸せだったひと時を壊されて、怒り心頭だった。
ダーレンは怒り狂ったそのまま剣を振るって四爺達が開発していた移動式小型大砲をぶち壊し、騒ぎに駆け付けていたリカエルを労うどころか罵倒した。
そしてリカエルは不条理な怒りを浴びて頭を下げるような男ではない。
数分後に寝室に戻って来たダーレンは、ヴェリカの目には一回り小さくなっているように見えた。
「どうかなさって?」
「勢いで四爺じゃなくリカエルを追いだしちゃった」
「あら、まあ」




