我が妻は頬をそもそも差し出さない その2
四爺の妻達四婆は、ドラゴネシアの女性の代表とも言える存在だ。
その女性達から晩餐会の欠席を伝えられたことで、ヴェリカを支持しない、という意思を突きつけられたも同じだとダーレンこそ怒りに塗れた。
だがしかし、傷ついたはずだとヴェリカを見やれば、ヴェリカはどこ吹く風という顔付きなのである。
「ヴェリカ? 大丈夫なのか?」
「あなたまで。私は仲間外れにされたら泣いてしまう、そんな情けない人だと思われているのね。それでこれが彼女達の精いっぱいの嫌がらせ。私は怒ったり傷ついたりするよりも、とっても心根の優しい方々なのねって思うだけよ」
「皮肉言ってる? ダーレン?」
「黙ってキース。ヴェリカ? 辛かったら辛いで良いんだよ。頼むから、辛い気持ちを貯め込むな!!」
ヴェリカはダーレン達の急な変化に驚いた顔つきとなり、どうしたの? と心配ばかりの声をあげる。
「急に脅えちゃって。どうかしましたの?」
「ヴェリカ、仕返ししたいなら言ってくれ。俺がするから!!」
「え。この人なにかしちゃう人なの?」
「煩い、キース。ヴェリカ、さあ、何でも頼んで」
「もう。ダーレンったらどうしたの? 私に本当は動いて欲しいの?」
ダーレンはぶんぶんと首を横に振る。
キースの、お前、という呆れた呟きなどどうでも良い。
尻に敷かれすぎや、脳みその語彙が「ヴェリカが」しか無くなったと、ドラゴネシアまでの道中でリカエルから散々に罵られて知っている。
だからキースからの失望など、そんな些細な事などどうでも良いのだ。
ダーレンの頭の中にはドラゴネシアまでの旅路でヴェリカが採取した毒シリーズだけでなく、彼女が秘密の小箱と呼ぶ彼女の宝物についての映像が走馬灯のように次々と浮かぶのだ。なぜ伯爵令嬢が錆びた鉄くぎや割れた陶器の破片を加工して作った刃などを後生大事にしているか、よりも、それらの使用方法を考えれば脳みそ内で警鐘ばかりが鳴り響く。
そこから連想でさらに浮かぶのは、四婆達の死体姿だ。
「キース。小母達にはしばらくの謹慎、いや、今後城内への立ち入りを禁じる。そのことを伝えてくれ」
ダーレンの視線と指示にキースはハッとした顔になり、冗談ではなくダーレンが連れて来た女性は危険人物なのだと認識を新たにした。
キースこそ母親達のことを知っている。
彼女達は体は大きいが臆病者で、こうして逃げて隠れるしか出来ず、誰かを物理的に傷つけたりは絶対に出来ない人間なのである。そんな彼女達を城内へ立ち入り禁止にしたのは、ダーレンの妻こそ報復をしそうだからなのだろう。
「わかった。母達には俺からも注意をしておく」
「あら。よろしくてよ。お好きになさるようにとお伝えして。城内への立ち入り禁止も不要ですわ。だって、お顔を合わせねば館の引き継ぎが出来ませんでしょう」
「全部奪って息の根を止める?」
「キース様はリカエルと似たところがありますね。考え方が物騒だわ。わたくしは何もしませんよ。だって、彼女達は優しいじゃないですか。晩餐会は取り止めでも、私とダーレンの為にごちそうは用意してあるのよ。これって嫌がらせになるどころか、今日はダーレンと二人で楽しんで、ということにしかならないでしょうに!!迂闊!!」
キースとダーレンこそ同時に咽た。
ヴェリカの言い分通り見方を変えれば、四婆達の行動は新婚夫婦への配慮にしかならないのだ。結婚したばかりの、それも恋愛結婚の夫婦の誰が、面倒な親戚と一緒の晩餐をありがたがるだろうか。
「やばい。リカエルが腹黒って言うだけある。うちの母さんじゃ絶対に太刀打ちできないな」
「良いように考えてくれるヴェリカを腹黒とはなんだ」
「お前は本気でやばいぞ。さて、ヴェリカ殿。あなたがこの唐変木の妻となってくれた事に感謝と祝いを申し上げる。二人の夜が良いものになりますように」
「うふふ。ありがとう」
キースは腰をひょいと落として退出の礼をダーレンとヴェリカに捧げると、そのまま言葉通りに領主館のエントランスホールを出て行った。
エントランスの扉が閉まったそこで、ダーレンは自分が怒りに任せてヴェリカを部屋に案内もせずにいた事を思い出す。
「ヴェリカ。こんな間抜けな男で済まない。部屋は整えてあるはずだ。まずは旅の疲れを落とそうか」
「ええ。ふふ。大きなバスタブがあるって聞いたわ。楽しみ。ねえ、一緒にお風呂に入って洗いっこするのはどうかしら!!」
咽てしまったダーレンと違い、ヴェリカはにっこりと笑って次の行動に出た。
ダーレンへと手を差し出したのだ。
ダーレンはヴェリカの手を取り、彼の世界を楽しいばかりにしかしない女性への小気味良さを感じながら彼女の手の甲に口づけを落とす。
「最高の妻よ。素晴らしき君に、俺というドラゴネシアを差し出したい。今夜、俺を君の永遠の伴侶として受け入れてくれるだろうか」
「もちろんよ。私のこともあなたに受け入れて欲しいわ。ようやく四爺達からも解放されたのだもの、ご飯も無礼講な感じで二人で寝室で食べるのはいかが」
「何でも君のお望み通りに」




