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ドラゴネシアへ帰還途中の馬車の中で その2

 ダーレンは現状についてヴェリカに謝った。

 ダーレンは常に新妻を見つめ、妻がドラゴネシアについて不安を吐露すれば俺が付いていると安心させ、妻の信頼をさらに深めたいと思っている。

 夫婦になる前に、恋人として過ごせる時間を大事にしたいとも思っているのだ。

 それなのに、二人の時間を邪魔する邪魔者が同じ空間にいるせいで、二人が二人だけの世界に浸ろうとするのを許してくれないのだ。


「ハハハ。ダーレンは完全に尻に敷かれているな!!」

「言ってやるな。ようやくの春だ」


 ダーレンは台無しにした男達へ、牛のような唸り声を上げて抗議した。

 だがしかし、それで脅える相手ではない。

 彼らはそもそも、ダーレンの親代わりをした男達であり、ダーレンを戦士として鍛え上げた歴戦の戦士達でもある。また、ダーレンと似たような図体に、似たような外見をしたダーレンの従兄弟達の父親達なのだ。


 ダーレンの亡父よりも長く生き、さらに凶悪そうに年を重ねた男達。

 彼らの前では、ダーレンこそが青二才になってしまうのだ。


「いいのよ。ドラゴネシアに着けば私は皆様の奥様方に助けて頂く事になるのですもの。それに、ダーレンのご家族同然の方々でしょう」


「ああ。だから君は気兼ねなく、四爺達を好きに蹴り飛ばしていいんだよ」


「ダーレン、たら」


 ダーレンはヴェリカに自分の両親が亡くなっていることと、領主夫人が不在ならばその役割をしていた女性達がいる事も伝えていた。その女性達こそ、現在同じ馬車に乗っている四爺達の妻達のことだ。

 ドラゴネシアのダーレン達世代は、彼女達を尊敬を持って四婆と呼んでいる(影で)。

 四婆は四爺がダーレンの父が亡くなった後に領主となったダーレンを支えていたように、ダーレンの母親代わりとして領主夫人の仕事を担っているのだ。


 ダーレンはヴェリカの言い分を、確かにと思い、ヴェリカを愛でる事に戻る。

 そうだ、あいつらが失礼三昧した事を四婆達に伝える事で、四爺達に苦労している者達の共感でさらに仲良くなれるに違いない。


「小母達は料理上手だよ。俺達が帰還したその日は、恒例のごちそうを用意してくれているはずだ。ドラゴネシア料理は旨いと思うが、肉、肉、肉、と、王都に比べると少し野性味が強いかな。きつかったら言ってくれ」


「あら、お肉は大好きよ。スズメを焼いて食べたこともあるから、きっと私は大丈夫。ふふ。ドラゴネシアの伝統の晩餐は楽しみね」


 スズメを焼いて食べた?

 つぐみ料理は分かるが、スズメ?


「すずめ、食べたの?」


「あまりにもお腹が空いちゃって。釣り糸を網状にして地面に張って、そこに麦を撒くと簡単に捕まえられるのよ。でもスズメは小さいから捌くのも大変だし可食部も少なくて。どうして王都の貴族街にはハトがいないのかしらね」


 ダーレンはヴェリカの告白に、どう答えようか、と悩んだ。

 可哀想な目に遭っていたと慰めるべきか、頑張ったと彼女を褒めるべきか。

 また、ヴェリカがそんな飢餓状態にされているのに助けもしなかったというのか、と、ここにいないヴェリカの執事のギャリクソンに怒りも湧いた。


「でも、ふふ。そのスズメ狩りで叔父達が私の食事を残飯にすることは取りやめたの。腐りかけた残飯を啜るくらいなら餓死だってして見せる、という私の気概を伝えるにはそのくらいしなければね」


 ダーレンは、そうだね、と相槌を打ってから四爺へと視線を動かした。

 完全にダーレン達から視線を背けている。

 そして四爺達の顔は、リカエルがヴェリカに対して良く浮かべる表情と同じ、この女やばいぞ、という脅えの見えるものであった。


 ダーレンはヴェリカへと視線を動かす。

 彼女はそれはそれは悪そうな笑みを彼に返す。


 スズメ話は、わざとか!!


「ああ、君をドラゴネシアの民に見せつけるのが楽しみで堪らない。俺の妻は他にいない最高の女性だと皆に知らしめたいよ」


「うふふ。私もこんな素敵なあなたが私の旦那様なのよって叫んじゃうわよ」


「光栄だ。ドラゴネシア城は君のものだ」


 ドラゴネシアの新しき領主夫人が入城する日は、それまで城を守っていた前領主夫人が晩餐会を執り行って迎える。そうして新しき領主夫人を喜びを持って迎えていると周囲に示し、新旧交代をするのである。


 ダーレンはその日のことを思い浮かべて微笑んだ。

 その日の為にヴェリカの晩餐ドレスは用意してある。

 ただし、ヴェリカの親友である針子のセシリアの作品で無いことでヴェリカは嫌がらないだろうかと、急にダーレンは不安になった。


「ヴェリカ、あの」


「なあに?」


「あの、晩餐用のドレスは俺が勝手に購入したものだ。君の意見も聞かずに。それで君が気に入らなかったら、あの」


「私がドレスについて心配するのは、今王都で流行のあのゴテゴテピンクドレスなのかそうでないのかだけよ。あなたが選んでくれたドレスは楽しみね。あなたが私に似合うと思ってくれたドレスはどんなのかしら」


「気に入らなかったら、出会ったあの日のドレスを着てくれ。俺はあれを着た君が自分の夢の中から出てきた天使か妖精だと思ったからね」


 ヴェリカはダーレンの言葉に瞳を輝かせた。

 その顔は希望に満ち溢れて花が咲いたようで、ダーレンは彼女にずっとその表情でいられるように頑張ろうと心に誓った。


 だがしかし、ドラゴネシアに到着したその夜、ヴェリカを迎える晩餐会は開かれなかった。

 ドラゴネシアの女達の代表でもある四爺達の妻達は、ヴェリカを認めないという意思表示をして見せたのである。

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