その5
ダーレンはヴェリカの笑顔を見ただけで胸がいっぱいになった。
もう完全に良いようにされている、そんな自分を笑うが、それは自分を情けなく思うどころかホカホカと幸せばかりが胸の中で膨らむ。
ヴェリカもこんな気持ちだから、俺が浮気するかもなんて不安を抱いていたのか? 俺が彼女に去られると不安に思っていたように。
ヴェリカの行動を不安心ばかりで見つめていた自分をおかしく思いながら、ダーレンはヴェリカにしっかりと向かい合う。
これから彼女が毒拾いを止め、浮気前に入れ墨を入れようとも考えませんようにと、自分の心の内を告げねばならない。
「俺は君が全部好きだ。顔も姿も、そしてその頭の良さも心根も。君以外の女性を望む事など一生ない。君が最愛の人だ」
「私もよ。パレードの日は全身鎧姿のあなたを知り、あなたの素晴らしい体つきに一目惚れしたわ。あなたの素顔を目にした時には、夢見ていた男性が目の前にいるって惚れ惚れするばかりだった。あなたの声は心に響く音楽のよう。そして外見だけじゃなくて、あなたはユーモアがあるし、思いやりも残酷さもある。そんな複雑な内面も大好き。あなたは私の夢の人だわ」
「ハハハ。こんな風に俺を称賛してくれる女神を俺が蔑ろにするものか。だが、こんな俺に焼餅を焼いて、俺を躾ける君も見てみたいと思う。君は本当はどんな躾を俺にするつもりなんだい?」
「ふふふ。やっぱり入れ墨じゃないって気がついていらっしゃいましたわね。ええ、私があなたが浮気した場合に考えている躾は違うものですわ」
「教えてくれる? 一生その躾は必要ないと思うからね。いや、俺がうざったいと君の方が逃げそうだ。参考に教えてくれ」
「私こそ逃げませんわよ。でもね、参考に、ですわね。ええと、あなたが思うして欲しいことをその体に刻もうと思っているわ。愛人がいるなら、その愛人があなたを喜ばせる手管を告白させ、それから、それ以上の手管も開発するの。あなたの体を使ってね。私こそがあなたをさらなる快楽に落し込んでやるわ」
「最高だ。浮気はしないが、俺を極限まで喜ばせようという実験はしてほしい。もちろん、俺こそ君にその実験を施したい。俺こそ君に俺じゃないとって思って欲しいからね」
「ふふ。私達は永遠ね」
「ああ。永遠だ」
ダーレンはいつの間にかニヤニヤが止まらなくなった口元を押さえた。
数年たっても彼らはその時の気持のまま変わらず、それどころか未だ、互いの体も喜ばせ方も探り合っているのだ。
「誰が結婚は墓場だなんて言ったかな」
彼は最愛の妻と我が子を見つめ、大丈夫だよ、と呟く。
「躾の上手なお母さんだ。そして君のお父さんとお母さんは、互いに相談し合って最善の道を歩んで来たんだ。君をちゃんと導ける両親になれるよ。たぶんね」
眠る赤ん坊の小さな拳をそっと突く。
ぎゅっと握られた手の平は開き、だがすぐ後にその手はダーレンの指先を握った。ぎゅうと。とても小さくか弱い存在なはずが、とても力強く。
「君は生まれながらにして最強のドラゴネシアだな。生まれてきてくれてありがとう」
お読みいただきありがとうございます。
自分にとっても大事で大好きな物語ですので、連載式にする事で新しい物語を続けられるだろうと今回【連載版】として投稿させていただきました。
今後ともヴェリカとダーレンをお願いします。