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その4

 ダーレンはリカエルが自分に向ける瞳にたじろいだ。

 いつも敬愛を含んだ瞳で見返してくる弟分のリカエルが、まるで腐れものを見るような目で見返して来たのだ。


「あなたこそもうあの腹黒のポケットの中だった。これならあの腹黒があなたに毒を盛ることはないですね」


 ダーレンは失礼な従弟に主として躾をする必要は無かった。

 独身でなくなったダーレンには、代弁してくれる伴侶がいるのである。


「ダーレンをモノ扱いは許せませんわ」


「そうかな。君はこの婚姻を狩りと称してたそうじゃないか。君の色香に簡単に惑わされた男だと、君はダーレンを侮っていないかな?」

「あなたは純粋ね。女がきれいなだけでどんな男も意のままに操れると考えていらっしゃるの? ダーレンをあのレティシアの元婚約者と一緒にするおつもり? なんて酷い侮辱をなさるの」


「ハッ。だったら、君はその美しい顔を武器に使っていないというのか?」


「ふふん。本当に醜い人はいなくてよ。見せ方を知っていればいいの。それからね、男性こそ女性の外見にあれこれ言うのだから、女性がそれを利用して何処が悪いの? でもね、私だって顔だけで女を選ぶ男は信用できない。だから、私が出来る限り自分がきれいに見えるように装うのは、それでダーレンが私に好印象を抱いてくださったら、という願いだけよ。自分の外見でダーレンを跪かせられるとは、私は一度たりとも考えたことはないの。ダーレンはそんなお馬鹿さんじゃないでしょ」


 リカエルがダーレンへとすっと視線を向けたが、しかしその視線は何かを語るどころかすぐにヴェリカへと戻された。ダーレンはその視線の動きの意味が、自分がヴェリカの外見に惹かれ、夜会では彼女の後をフラフラついて行ったことを知っているからこその動きだとわかった。


 ダーレンはそんなお馬鹿さんだったよな。


 けれど黙って流してくれた事で、従弟の優しさにダーレンは感謝した。

 だがリカエルの優しさはヴェリカには向かわないようだ。

 リカエルはヴェリカを断罪してやろうという風に、再びヴェリカに台詞を放つ。


「それでいいように扱えるように毒を飲ませ、ダーレンの肉体から健康を奪うか?」


「まああ。怖い。大事なダーレンにそんなことはしませんわ。私がつい毒虫や毒の実を拾ってしまうのは、単なる生育環境からくる弊害ね。大体、さっき拾ったピエリスの実を人間に飲ませてどうするの? あれは馬に食べさせてこその毒の実でしょう。うふふ。夫が私以外の女性に傾倒したら、夫の愛馬に食べさせてふらふらにしてやるの!!夜のお出掛けなんかできないようにね」


「夫をふらふらにさせるべきじゃないのか?」


「寝込んじゃったら躾ができないじゃないの。二度と浮気はしないように、しっかりと、体に教えこむ必要があるじゃない。元気じゃないとだめ」


「元気じゃないとって、鞭でも打つのか?」


「まあ、可愛い。でもそんなのでドラゴネシアの男を躾けられると思って? ふふ。私以外の女性の前で裸になれないように、下腹部に私の名前を刻むの。躾としてはいかかかしら?」


 リカエルはダーレンへと顔を向けた。

 その表情は、「お前の人生だ」そんな諦めの顔付きだった。

 彼はダーレンの肩を軽く叩くと、馬の顔を見に行く、と言って去っていた。


 ダーレンは今までリカエルがいた場所、ヴェリカの真ん前へと動く。

 それからヴェリカを見つめる。

 ヴェリカは、ダーレンが再会した彼女が彼に向けた笑顔と同じ、ダーレンにうっとりしているとひと目でわかる眼差しを向けてくれた。

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