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その2

「誰もきっとこいつには厳しくできないな。俺も含めて」


 そこで彼は溜息を吐く。

 一人だけ厳しくできる人を知っているからだ。

 もちろん、妻のヴェリカ。

 母親は強いことはダーレンの実体験から確信している。

 その確信の理由として、ダーレンの従弟のリカエルがあげられる。


 リカエルの母はドラゴネシア人ではない。

 そして母親似のリカエルはドラゴネシアの男達のような武骨な外見でないため、幼少時からドラゴネシアの老若男女が(弟のように思うダーレンこそ一番に)可愛い可愛いと甘やかした。

 だからこそ彼の母であるナタリアが、リカエルを厳しく躾けたのだ。

 慢心した息子が道を踏み外さないように、と。


 母の愛だな、と、ダーレンは常識的な性質をした叔母のナタリアの人となりを思い浮かべて頬を弛ます。

 可憐で楚々とした美しきナタリアだが、ダーレンの母代わりをした事もあり、ダーレンの尻だって叩ける女傑でもあるのだ。


 ならば、とダーレンはヴェリカを見つめ、微笑みがすんと顔から消えた。

 ダーレンは忘れる事は無い思い出の一つを急に思い出したのである。


 それは、ヴェリカを連れてドラゴネシア領に帰る道中での出来事だ。

 ダーレンはヴェリカという愛する女性を手に入れられた喜びに溢れていたが、ヴェリカがどういう女性か完全にその時は理解していなかった。

 だから最初の一日目は、ダーレンはヴェリカを好きにさせていた。

 閉じ込められていた人だ。

 自分の好きなように外を歩き回り、色々なものを見聞きして喜んで貰えたら、とダーレンは思っていたのだ。


「ヴェリカ。今何を拾って隠した?」


 その日、ダーレンはその言葉を何度呑み込んだだろう。

 ヴェリカは「何か」を見つけると、その見つけた「何か」を誰かに見咎められる前にさっと隠してしまうのだ。まるで猫が戦利品を人の目から隠すように。


 動体視力と妻から視線を外せないダーレンこそ気付けただろう。

 だが、どうしてそれを拾うのか、ダーレンはヴェリカに聞けずにいた。


 ヴェリカはダーレンを好ましい外見だと褒めるが、本当は大柄で不格好な彼の外見を目の前にする度に忌まわしく思っているのではないだろうか。リカエルという誰もが憧れそうな美貌の男性が、常にダーレンに付き従っているのだ。


 比較対象されたら一発でダーレンの不細工ぶりに気がつくだろう。

 ヴェリカはダーレンを亡き者にしたい、そんな気持が出て来たから、思わず毒の実を拾い、毒草と見れば葉をちぎり、毒虫がいれば捕まえる、そんなことをしているのではないだろうか。


 ダーレンはヴェリカが毒採集するたびにそう考え、だからこそ彼女が採集したそれが「何」なのか聞く事が出来なくなっているのである。


「ダーレン。あのやばいのがたった今ポケットに隠したヤツ、ピエリスの実です。どんぐり無視してそれ拾う所でわかってやってる」


 ダーレンの失望を引き出すかのように、ダーレンの耳に囁きが落とされた。

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