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さあ、そこの恥知らずに道理をおしえますわよ の2

 レティシアの自分の外見へのこの自信の無さは何だろうと、ヴェリカは考える。

 アランに不細工だと思い込ませられたからなのだろうか。

 金髪碧眼の人形みたいな顔立ちのアランに言われるならば、と?


 ヴェリカの目に映るしょぼんとした美女の姿に、なぜか自分が不細工だと思っているらしき美丈夫の姿が重なった。


「綺麗な人こそ自分を綺麗だって信じないって本当ね。毎日鏡を見るから美しいのが当たり前になっているのかしら」


 レティシアはびくっと肩を震わせ、ヴェリカの呟きが自分に向けられたものだったのかと、それこそ不思議だという顔でヴェリカを見返す。

 ヴェリカはちょっとだけ首を伸ばし、レティシアの耳に囁いた。


「美しいあなた。私が最高だと思うドレスデザイナーを紹介するわ。明日からはあなたが流行を作りなさいな」


「え?」


「女特有の変な慰めは残酷よねえ。いいえ、慰め合ってるだけかしら? あなたは綺麗ね。あなたこそよ。そんな事無いって知ることこそと、私は思いますわ。わからないばっかりに、あとで突きつけられて傷つくと思いますの」


「レティシア様。たった今ご高説を披露された方の十年後の姿を思い浮かべてごらんなさい。そしてあなたの姿も。どちらが素敵に年を重ねていらっしゃるかしら? そしてどちらにあなたはなりたいと思いまして?」


 ヴェリカはララの罵倒が外見についてしか無い事で、ララこそ何もない自分にコンプレックスを抱いているのでは、と考えてのその台詞である。そしてレティシアにはヴェリカの思いが通じたようだ。彼女は気力を取り戻したように、みるみると明るい表情へと変わった。


「――わたくしはわたくしのままでいいわ」


「はん。負け惜しみね。婚約者に優しくしてもらえない女の癖に!!」


「あらあら。優しくしてもらったくせにって台詞はどうなったの? 御自分の言葉をそんなにすぐに否定するなんて記憶力の無い方ね」


「あんたは性格が悪いわね」


「あら、欠点を言ってあげることこそ優しいのでしょう。でもね、優しいって何かしら? それは相手に尊厳を持って接する事が出来る人しか持ちえないと私は思いますわ。だから私は強い人こそ優しいと思うの。どんなに失礼な女性の言葉だって笑って許せる器の方は、とてもとても優しい方だと思います」


 あなたは違うわよね、とヴェリカはアランを睨んだ。

 笑顔を崩さないままの睨みは貴族女性の良くやることで、母親や年上の親族女性に睨まれた経験のあるアランは反射的にびくりと震えた。


「そうだ。本当の優しい振る舞いを知らない勘違い男は、とにかく贈り物をするわね。ああ、そうそう、最近聞いた噂話には唖然とさせられましたのよ。数人の信奉者に同じお店で同じドレスを買わせた凄い令嬢がいらっしゃったのですって。出来上がったドレスは一着。でもお店が出した請求書は数人の男性宛て。あら、あら、皆さんで協力し合ってのお買い物だったのかしら。だってそうじゃないと、過剰になったお支払いのお金はどこに消えたのか役人に調べてもらわなきゃいけない事態ですものね。でも、優しい男性にはどうでもいい話ですわね」


「あ、ああああ!!嘘ばかり!!アラン様信じないで!!この人はアラン様の気を惹こうとこんな嘘をついていらっしゃるのよ!!」


「あらまあ。私のはただの噂話でしてよ。どこの誰かわからないけれどこんなお話を聞きましたわよってお話ですの。ま、まああ。あなたのことでしたの?」


 底の浅いララは、ヴェリカの返しにハッとして青ざめた。

 これこそ罠だったと気が付いたからだ。

 ヴェリカは勝ったと思いながら、コロコロと笑い声を立てる。


 男性の気を惹く事だけ上手な人は、大概にして同性との駆け引きは上手くない。

 困れば自分の都合の良い話を男性にして、その背に隠れれば良いのだから。

 その盾も消えてしまったわね、と、ヴェリカは心の中でララに呟く。


 アランは自分が恋した女性を青ざめた顔で見つめているが、彼の表情によれば、ララの信奉者の顔を思い浮かべてもいるようなのだから。


 でも、あなたがララを切り捨てても、純粋で美しい人を傷つけた償いにはなりませんことよ、と、ヴェリカはアランへの怒りを燃え立たせる。


「まあ、まああ。恐ろしい。こんな破廉恥な話の方とご一緒してしまっただなんて。さあレティシア様、参りましょう。私達こそ悪い噂になってはいけないわ」


 ヴェリカはレティシアを真っ直ぐに見つめる。

 さあ、あなたはどうするの? と。

 どんなにヴェリカがアランを唾棄したくとも、アランを切り捨てる決断するのはヴェリカでは無い。

 傷つけられたレティシアこそ、復讐のための首きりの鎌を持っているのだ。


 ヴェリカが心配する事は無かった。

 レティシアは自分を取り戻し、本来の美しさで凛としていた。

 彼女はヴェリカの腕に親友みたいに腕を絡ませる。


「あなたのおっしゃる通り。破廉恥な方々とはお別れしましょう」


「そうですわね。では、ドラゴネシア侯爵の控室に参りましょう。わたくしはそこを自由に使っても良いと許可を頂いておりますの。婚約者ですから」


「まああ! では、これからもあなたと仲良くできますのね。嬉しいわ!!ウフフ。あなたのおっしゃった優しい人、ダーレンそのものよ。優しい彼を知って下さって嬉しいわ!!」


 ヴェリカはレティシアに微笑んだ。

 しかし、ヴェリカは自分こそララよりも破廉恥だと急に思った。

 ドラゴネシア様を尊敬し、彼に真心を捧げ続けるつもりであるが、それこそ偽りで彼を馬鹿にしている行為なのでは、と考えてしまったからだ。


 どんなに自分は違うと言っても、ララとアランの関係みたいだわ、と。


 そしてそんな風にヴェリカが思うのは、ヴェリカの脳裏にセージグリーンの瞳がちらついてしまうからであろう。


 ヴェリカは認めるしか無かった。

 そして恨んだ。

 魅力的すぎる彼に出会ってしまったばかりに、ドラゴネシア様に捧げるはずの誠実を失ってしまったわ、と。

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