神様が今後一切の転生を止めた理由
神様は次の転生者を決めた。
「会社勤務、27歳、男性、彼女なし、童貞、死因は無差別通り魔に刺される。可哀想なやつだな。よし、転生させてあげよう」
神様は転生者を審判の間に呼んだ。
「お前は運が良い。次の人生は勇者になって世界を救ってほしい。ここに歴代の勇者たちが残していった100本の剣がある。それぞれ違うスキルが付与されているから心して選ぶように」
転生者は神様の言葉を聞いて驚いていたが、すぐに剣を選び始めた。
「神様、ありがとうございます。私はこの光の剣を選びます」
「分かった。勇者よ、世界を救いに行くのだ。さあ、ゆくがよい」
転生者は新しい世界で勇者として生きることになった。転生者はRPGをやったことがあったので順調に進んだ。剣士、格闘家、賢者、魔法使い、それぞれ集りそうな者を集めて次々とレベルを上げながら魔王が住む闇の世界を目指した。
俺はもちろん勇者なので皆に頼られたし活躍もした。そして大人しいが強い回復魔法を使ってくれる魔法使いのリリーを好きになった。とうとう魔物がはびこる闇の世界へ入る直前に俺はリリーに自分の気持ちを伝えた。
「ごめんなさい。いい人だと思うんだけど、友だち以上には見れませんわ」
俺はフラレた。
それを引きずってか、闇の世界へ入って魔物が住む洞窟の序盤で魔物に石化させられて殺された。
【2回目】
するとまた、審判の間にやってきた。
「なんだ、魔物に殺されたのか。仕方がない。もう1度チャンスをやろう。さあ、100本の剣の中から1本選ぶがよい。」
「神様、ありがとうございます。今度は火の剣を選びます」
俺はまたパーティーを作った。今度は綺麗な女剣士・エリカをパーティーに加えた。俺はまた活躍して女剣士の危ないところも助けた。闇の世界に入る直前に俺はエリカに自分の気持ちを伝えた。
「すまない。私は恋愛をしている暇はない。一刻も早く魔王を倒して平和な世界を作りたいのだ」
俺はフラレた。
そしてまた闇の世界の魔物の洞窟で暗黒のドラゴンが吐く黒い炎で焼き殺された。
【3回目】
また、審判の間に戻ってきた。
「また戻ってきたのか。早く剣を選ぶがよい」
「神様、ありがとうございます。今度は雷の剣を選びます」
俺はまたパーティーを作った。今度は可愛いやんちゃな女格闘家・ビビをパーティーに加えた。ビビと一緒に何度も魔物を倒した。そうしているうちにビビのことを好きになった。俺は自分の気持ちをビビに伝えた。
「ごめんね。実は同じパーティーの魔法使い・アーロンが好きなんだ。あっでも片思いだから⋯⋯」
俺はフラレた。魔法使いを男にしたのが仇になった。
闇の世界の魔物の洞窟で魔物に巨大な岩を落とされて殺された。
【4回目】
また、審判の間に戻ってきた。
「またか、剣を選べ」
「神様、ありがとうございます。氷の剣を選びます」
俺はある疑問を持ち始めた。それはレベルが思うように上がらないのだ。RPGのように魔物を倒せば自動的に上がるものではなかったのだ。俺は戦い方を身につけてレベルを上げなければならないのである。
自分で工夫して分析して強くならないと強い敵は倒せない。何も考えずに魔物を倒していては魔物からはアイテムしか貰えなかったのだ。
それがわかってから俺なりに魔物の系統と攻撃パターンを分析して戦いに反映させた。
それは恋愛においても同じだった。勇者だからと怠けていないで、相手の好きなものをリサーチしたり、アピールもした。
だが、俺は魔物に殺され続けるし、女の子にフラレ続けた。
そもそも魔王にたどり着かないのである。
その頃から”あること”に気がついていた。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯
⋯⋯⋯⋯
⋯⋯
【100回目】
俺は審判の間にいた。さすがに神様は怒っていた。
「お前は世界を救う気があるのか? これが最後のチャンスだ。ちょうど試していない剣も最後の1本だろう」
「神様、ありがとうござい⋯⋯」
「いいから、とっとと行け」
俺はこの時を待っていた。
最後の剣のスキルは『スキル吸収』だ。
それからもう1つ、神様は気が付かなかったようだがバグがある。
それは設定の一部を引き継いでいたのだ。つまり俺は今までの99回の記憶と経験値も持っているし、前回までのを足した100本が選べたのだ。
念のため、神様には気が付かれないように99回目までは1本ずつしか選ばなかった。そして100回目ではアイテムにすべての剣を入れたのだ。
俺ははじまりの地へ降り立った。アイテムをすべて取り出すと『スキル吸収』の剣を手に持ち他の剣に近づけて見た。すると他の剣は目の前から消えた。手に持っている剣のスキルを確認すると確かに『光』のスキルが増えている。
他の剣にも近づけた。『火』のスキルが追加された。その次もその次も『雷』『氷』『水』『身体強化』『魔法強化』⋯⋯。
他の99本のスキルが1本の剣に集まった。いわば『チート最強』剣である。
それからこっちの世界の女の子は諦めることにした。闇の世界で運命の人を探すことにしたのだ。おそらく魅惑的な悪魔や魔女やサキュバス、もしかしたら可愛い狼少女もいるかもしれない。俺の胸は期待で膨らんだ。
そして俺は1人で闇の世界へと向かった。さすがはチート最強剣だ。今まで倒せなかった魔物をバッサバサと倒していく。
そして魔王の城の目の前までやってきた。
俺は勢いよく城の扉を開けた。すると巨大で威圧感で潰れそうなほどの強者の雰囲気が伝わってくる、目の前の存在は魔王だった。
俺は生涯の伴侶を探しに来たのだ。だから勇者を辞めて、魔王側に寝返ろうと思っていた。
「ふっはっはっ勇者よ、よくぞ来たな」
「魔王、話を聞いてください」
「何を言う。勇者の言葉など聞いてられるか。同胞よ、勇者を倒すのだ。そして光の世界を滅ぼすのだ」
俺は話を聞かない魔王を横目に魔物たちを切り刻んでいった。
「いくぞ、やあっ⋯⋯ほっ⋯⋯はっ! ⋯⋯へー⋯⋯はー⋯⋯ほー⋯⋯」
その場にいた半分くらいの魔物を切った。さすがに魔王も驚いている。
「なんと! ⋯⋯手強いが勇者と言えども1人で全員を倒すことなんて不可能だ。潔く諦めるがいい」
この状況でも話を聞かない魔王であったので、俺はまた魔物を切り始めた。
「とうっ⋯⋯へー⋯⋯はー⋯⋯ほー⋯⋯ふー⋯⋯やぁっ⋯⋯」
その場に残った魔物の半分くらい切ったところで慌てて魔王が止めた。
「勇者よ、悪かった。話を聞こう」
魔王はようやく話を聞く気になったか。
「俺は闇の世界で生涯の伴侶を見つけたいのです。もし見つかったら俺は勇者を辞めて、こっちの世界で暮らします」
「ほほう⋯⋯とにかく皆を集めるから会ってくれ」
魔王は早速触れを出して闇の世界のすべての女の子を集めた。魔王は満足そうな顔をしている。
「どうだ? 勇者の事を1人ずつ聞いてみようではないか」
握手会のごとく勇者の前には闇の世界の女の子たちが列をなした。それを見た勇者は胸を躍らせた。
1前の女の子は魔女だった。
「⋯⋯ごめんなさい」
2番目の女の子はサキュバスだった。
「お断りします」
どんどん進んでいく。
「ごめんなさい」「お断りします」「お断りします」「ごめんなさい」「ごめんなさい」「お断りします」「ごめんなさい」「お断りします」「ごめんなさい」「ごめんなさい」「お断りします」「ごめんなさい」「お断りします」⋯⋯⋯⋯
⋯⋯⋯⋯
⋯⋯
俺はさすがにこれだけ断られて次の女の子を睨みつけてしまった。
「⋯⋯来世でお願いします」
「⋯⋯来世で」「来世でお願いします」「ごめんなさい、来世で」「お断りします」「ごめんなさい」「お断りします」「ごめんなさい」「来世で」「ごめんなさい」「お断りします」「来世で」「ごめんなさい」「来世で」「お断りします」「お断りします」⋯⋯⋯⋯
⋯⋯⋯⋯
⋯⋯
誰1人としていい返事をしなかった。
俺はキレた。
「おい、来世だなんて体よく断りやがって!! 何がいけないんだよー!」
なぜなんだ、光の世界で1番強い勇者なのに誰1人としてオッケーしない。
魔王がぽつりと溢した。
「⋯⋯そういうところじゃないのか?」
俺は魔王を見ると魔王の持っている魔剣をぶんどった。
「あっそれだけは勘弁してください!」
俺の強さを分かっている魔王は涙目になった。
俺はチート最強剣を近づけた。すると魔剣は消えていった。スキルを吸収したのだろう。
世界最強剣が出来上がった。
「どいつもこいつもふざけやがって。こんな世界滅ぼしてやる!」
魔王は涙目になった。
「ひいっ神様お助けください!!」
俺はその世界最強剣で360度回転斬りを繰り出した。するとすべてのスキルが虹色となって空気中に現れて遠くへどんどん広がっていく。
魔王の城は一瞬で粉々になった。光の世界のスキルが1度に放出されたのだ。どんな属性でも効果抜群だろう。
その虹色の光はとんでもない速さで光の世界へと到着した。今度は魔剣に付与されていた闇、毒、混乱など光の世界で効果を発揮するスキルがどんどん広がる。
そうして地の果てまでその虹色の光は届いた。
そして俺を含めたすべてのものが世界から消えた。
それを見た神様はこう呟いた。
「⋯⋯初めから世界を創り直すか。それで転生は今後一切禁止にしよう」
お読みいただき、ありがとうございました。
誤字・脱字がありましたら、ご連絡よろしくお願いします!