0.0.6.異世界の常識 -1-
「案外短気なのか?」
「まさか。僕が感情を爆発させるのは滅多に無いんだよ?」
病室に戻った俺は、扉の向こう側…病室から見える廊下のど真ん中でもがく【ソーサ】の機械獣を見ながら溜息をついた。ツタに絡めとられ…身動きが取れなくなったそれは、何やらわからない機械語の様な音を発し続けているのだが、舞波はそれに対して眉をピクリとも動かさず…すまし顔でその様を観察している。
"大したもんだな。ツタ程度で動けなくなるとは"
# > ツタ程度。語弊ガアルナ
【ソーサ】の連中は、俺達以上に人から逸脱して…機械と一心同体になった存在だ。こういうと俺も舞波に絡めとられそうだが…こんな雑草程度、奴らには他愛もないものだと思っていた。だが、現実はコレだ。どんな荒地でも制覇出来る程の機械が自然に負けている。俺は、やがて動きを止めた機械獣を見て目を点にすると、ゆっくりと舞波の方に顔を向けた。
「なぁ、そのツタ。本当に植物なんだな?」
「なんだい。針金だとでも思ったかな?」
「そう言ってくれた方が説得力があるぜ。【ソーサ】の連中がこうも簡単にやられるとは思わなかった」
そう言いながら、三度椅子に座る俺。まだ、舞波と交流を始めて時間が経っていないが…それでも、椅子の埃は綺麗さっぱり無くなっていた。
「【ソーサ】というのか」
「あぁ。舞波の居た世界とは違うだろ?」
「そうだね。動けない身なものだから、外に興味を持つことを諦めて居たんだが…ああいうSFじみた物を見ると、そうも言ってられないな」
「あー、SF…?」
「こっちの世界の単語さ。大した意味は無いよ」
少しだけ、窓の外の光が色づいてきた時間帯。オレンジ色にも似た色が、退廃的で、無機質で…植物だらけの病室を彩っている。
「しかし不思議なものだね。僕とヤナギンは言葉も…ある程度の単語も、常識さえも通じるんだよ」
「そうだな」
「しかも、恐らくは、僕が異世界人ときたものだ。僕の居る…居た世界には、あんな機械は実用化されていなかったから」
「なんだ。舞波の世界にもああいうのはあったのか?」
「あった…と言えるのかな。実用化されてないものなら幾つかあるだろう。後は、創作の世界だね。人型の、ヤナギンの姿を巨大化させたみたいなロボットを題材にした創作があったりしたんだよ?」
「ほぅ…見てみたいもんだ。あんなもん…想像であるうちが花だとは思うがね」
「何となく分かる気がするよ」
機械獣のせいで騒がしくなった廃病院も、今では俺達の声しか聞こえてこない。外は風もない、穏やかな晴天…怖いくらいに静まり返った空間で、俺達は雑談に花を咲かせていた。
「それにしても、ヤナギンは落ち着いている…のかな?」
「何がだ?」
「ホラ、僕が異世界から来た…と思ってるんだろう?不思議じゃないのか?」
「なんだ。そんなことか」
舞波の問いに、何の気も無しに…あっけらかんとした調子で答える俺。異世界人…そういうのは、大して珍しい存在でも無いのだが、舞波の常識では、彼女の世界ではそうじゃないのだろう。
「異世界人なんて、掃いて捨てる程いるさ」
驚く様子も見せずにそういうと、目の前の少女は目を丸くして見せた。
「あぁ、舞波みたいに…異形と化してるのは珍しいがな?」
そんな彼女にそう付け足すと、彼女はクスッと鼻を鳴らす。
「ま、僕みたいなのが当たり前…なら、僕は長い時間孤独で居るワケが無いからね」
小さく笑って…納得した様に頷くと、彼女は改まった様子で俺の顔をジッと見つめてきた。それと同時に…シュルシュルと、俺の足元…椅子の足に、彼女の操るツタが絡まってくる。
「ヤナギンと話してみて…抑えていた興味が爆発しそうだよ。それに…捨て去ったはずの希望も蘇ってきたみたいだ」
そして舞波はそう言うと、目を大きく開いて俺にこう言うのだった。
「ねぇ、ヤナギン。僕が元の世界に戻る方法を探すの…請け負ってはくれないだろうか?」
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