0.0.2.ぶらり廃村巡りの終着点 -2-
「動くな!!!鎮まれ!!!」
威勢よく飛び込んだ病室。廃病院の最上階…その角部屋が俺の眼前に見えた時。俺の目は文字通り点になってしまった。
# > ナンダ、コレハ…
俺と全ての五感を共有しているハンドラーすらこの反応。百戦錬磨…人をこき使っては、絶対に犠牲者を出さないと名高いハンドラーすらこの反応だ。俺は手にしたレーザーガンをそっと下ろして、病室の入り口に佇んでしまう。
「ん…君は…誰かな…?もしかして…救助隊?…僕を助けに来てくれたのかい?…」
そんな俺にかけられた声。儚い印象を受ける女の子の声。その声は、俺の目の前…そう、病室の最奥…本来ならば埃塗れのベッドが鎮座しているであろう場所から投げかけられた。
「はは…そういうワケじゃねぇんだが…これは一体…」
「そう…嘘でもそうだって言ってくれれば、どれだけ良かったか…まぁ、良いさ」
そこに居るのは、人と…人間と言っていいか分からない存在。
「でも、収穫はあった。僕のこの姿は、幻覚でも何でも無いって事だ」
病室の壁に寄りかかるように座っている女の子…と言えば良いのだろうか?女形の異形は、何処か悲し気な…それでも、絶対に諦めないといった強い意思を感じさせる目を窓の向こう側に向けて言葉を放つ。
「そして、見てよ。不躾とは思ったけれどもね。こうやって、壁に切り刻んで来た日数も無駄じゃなかった。今日で僕がここに閉じ込められて365日目。1年が経った!誰も居ないんじゃないかと思っていた頃だ。おかしくなりかけていた所なんだよ?」
一方的に俺に言葉を投げかけてくる少女…としよう。俺は彼女の放つ言葉のイントネーションと、1年という…俺達には無い概念を話す事を心の何処かに引っ掛けながら、そっと病室の中に足を踏み入れた。
「いらっしゃい。と言っても…黒ずくめの格好じゃどこの誰かも分からないけどもね」
少女は…首から下が人間じゃない少女は、快く俺を迎え入れてくれたようだ。少なくとも敵対心は無いらしい。俺は若干の緊張感を残したまま彼女の前に佇むと、周囲を見回して、目についた埃塗れの椅子を引っ張ってきて、それに腰かけた。
「素顔も出せなくてすまないがな…ワケアリだと思ってくれて構わない」
「あぁ…初対面なのに無理する必要は無いよ。僕の方が間違いなく不審者だからね」
# > 別ニ、放射能ノ危険ハ無イゾ?
"アホ抜かせ。人畜無害そうだが警戒するべきだろ!?"
# > マーナ。喋リタガリダ。喋ラセテ情報ヲ得ナ。何カ耳ヨリガ分カルカモ知レナイゼ
異形の少女の前…脳内が騒がしいがそんなことはコッチの問題だ。俺は顔を覆ったマスクも取らず、ジッとマスク越しに少女を見つめ…観察していた。
「色々と聞きたい事はあるんだが…その様子じゃ、動けないって事だよな?」
首から上は、10代半ば位の少女なのだ。幼さというか、あどけなさが残っている、ボーイッシュな、黒いショートカット髪の少女。彼女は俺の問いにコクリと頷くと、首から下を見つめる様に頭を動かして、フッと鼻で笑う。
「その通りさ。見ての通り…だよね?僕の首から下は、人間の様で人間じゃない」
彼女も自身の状況を分かっているらしい。少女の首から下は、女の胴体に当たる部分が黄金に輝いていて…そこから伸びる手足は木と化し…その木は病室の壁や床に繋がっていた。どうやらこの村を覆うツタは、彼女の手足に繋がっている…みたいだ。
「ここに来るまでツタに触れたり…千切ったりしたろう?それね、僕に返ってくるんだよ」
「そうか。それは…」
「あぁ、別に気にしなくていい。君に罪は無いからね。何にせよ、どこまで張り巡らされてるかは知らないが…ツタが君の侵入を伝えてきたんだ。それでようやく、僕はこの世界に人が居るとの確証を得られた。この光景ばかり見せられちゃ、僕の体を見たんじゃ…人は最早絶滅してしまったのではないか!?って思ってたからね」
久しぶりの、人とのふれあい…なのだろう。目の前の彼女は、凄く楽し気な様子で俺に話しかけてくる。それに対して表情を見せられないのが申し訳なくなってくるのだが…兎に角、俺はなるべくオーバーな仕草を見せて反応を返してやった。
「正直言って、あと1週間。人に会えなければ、僕は完全に諦める気でいたよ」
そしてポツリと出てくる謎の概念。俺達の常識に、1年…やら1週間…というものは存在しない。聞く限り、数字が関わる概念なのだろうが…どういう事だろうか?
「な、なぁ…アンタ」
「斑 舞波だ。名前、名乗り忘れてたね。すまない…」
「あ、あぁいや、そういう訳じゃ…その…な?ちょっとばかり尋ねたい事があるんだ」
名前まで聞き馴染みのない響きと来たものだ。いよいよ何かがおかしい。そう思った俺は、少女の語りを中断させてこちらの流れに乗せようと質問を投げかける。
「1年…とか、1週間…とか。俺には分からねぇ概念なんだが…何なんだ?一体…」
とっかかりとして尋ねたのは、聞いたこともない数字の概念。彼女は目を丸くして「え?」と声を漏らすと…やがて、くつくつと、愉快そうに笑い始めた。
「なら…そうだね。自己紹介よりも常識の擦り合わせをするのが先かな?日本語が通じる辺り…いや、この景色も含めて、日本の何処かだと思っているのだけども…君の反応を見る限り、そうじゃなさそうだしね」
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