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familie  作者: 遠藤 敦子
familie Ⅰ
2/11

2

 私はもはや就職活動をする意味すら見失っていた。全員で一斉に「よーい、ドン!」で始まり、みんなと同じリクルートスーツを着て、思ってもいない志望理由ーー休める時に休めて、お金を稼ぐことさえできればそれで良いというのが正直な本音ーーを述べる。私にはいかにうまく企業におべっかを言い、面接官に媚を売った者が勝てるかというゲームにしか思えない。私みたいな要領の悪い者はあっという間に脱落してしまうのだ。

 そうこうしている間にまた不採用通知が来て、私はもう完全に心が折れてしまった。「選考結果のお知らせ」というメールの件名を見るだけで、「あ、私また不採用になったんだな」と思うようになる。いつも通り面接を終えて駅のホームで電車を待っていた。どうせ今日の面接もダメだろうな、と考えながら。


 ホームでボーっとしていると、目の前を通過する特急電車に吸い込まれそうになる。もういっそのこと、このまま吸い込まれてしまいたい。お父さん、お母さん、春妃(はるひ)、ごめんなさい。私はもう無理です。ーーそう思っていると、「あ、危ない!」と誰かに腕を掴まれて後ろ側に引っ張られた。

「何してるんだ君は! 怪我はない?」

スーツ姿の若いお兄さんに声をかけられる。何をしているも何も、電車に吸い込まれようかなと考え込んでいた。

「なんなんですか……?」

私が言うと、お兄さんは「君いま死のうとしてたでしょ? 少なくとも俺にはそうとしか見えなかった。大学生? 就活中?」と訊いてくる。

「まあ、そうですね。一次面接でうまくいかなくて、キャバか風俗で働くかフリーターになるかいっそ死ぬか考えてたんです……」

「死ぬなんてそんなのダメだよ、若いのに! 親御さんが悲しむから……」

私は気づけば知らないお兄さんに自分の現状について話していた。誰にも話すつもりはなかったのに、口から本音が出てきてしまったのだ。お兄さん本人も自分について話し始める。

「俺、新卒で入った職場でうつ病になって休職して、復帰せずにそのまま辞めたんだ。その頃大学から付き合ってた彼女に、職場の同僚を好きになったからって振られた。いま彼女いないけど派遣社員として適当にお金稼ぎながら、音楽もやって稼いでる。俺みたいなやつでもどうにかなってるし、君はこれから何にでもなれるんだから、死のうなんて思ったらダメだよ」

お兄さんは音楽だけでは食べていけないとわかっていたし、その会社しか受からなかったので仕方なく就職したそう。人間関係には恵まれたけれど、クレーム対応の部署なので毎日いろんなお客さんからクレームが来たという。それでも新卒カードを捨てるわけにはいかず、正社員として3年は働かないとと思っていたらうつ病になってしまったらしい。

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