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あなたもスターになりまショー

作者: 田中浩一

*このお話はフィクションです。


1


万里子(まりこ)は、真彦の病院見舞いに来ていた。

「学校でめまいがして、それでも母ちゃんとふたりで、歩いて病院まで来たんだけど、いきなり入院しろって言われてさぁ」真彦は枕を腰に充てて、ベッドに座って話していた。

「どんな病気なの?」万里子は不安げな顔で訊ねる。

「今、母ちゃんと先生が話してるよ」真彦は、いつもと変わらぬ飄々とした表情で、応える。

今日の体育の授業中、グラウンドでサッカーをしていた男子の方が、騒がしくなった。

万里子たち女子も、体育館でバレーボールの授業の前に、グラウンドを二周走っていたから、その騒ぎに気づいた。

体育の授業が終わってから、教室で他の男子に、倒れたのが真彦だと知らされた。

早退したけれど、自分の足で帰ったよと、男子の友達が笑って教えてくれたけれど、あとの二時限の授業は、万里子の頭のなかには入ってこなかった。

放課後の部活動をなんとか誤魔化して、今、病院にいる。

「高校受験前に、大したことないといいけど・・・」どこまでも心配な万里子に、

「大丈夫、大丈夫」と屈託のない笑顔の真彦。

万里子は真彦のこの笑顔が、好きだ。いや、全部が好きだったけれど、幼なじみだったから兄妹みたいで、どこからが好きな感情なのか、わからないでいた。

「喉乾いたな」と真彦が言うから、

「一階の自販機で買ってくる。いつものだよね?」と、すでに腰を浮かせて万里子は、出口にいた。

おぅっと、真彦の返事を聞くと、三階から階段を駆け下りる。

「彼女かい?」

四人部屋の窓側のベッドの真彦に、通路側の斜め前のベッドの、四十がらみの男性が訊ねる。

「あっ、いや、幼なじみです」座ったまま、背筋を伸ばして応える。

「気の利く子じゃないか。行動も早い」と褒めるものだから、

「万里子って言うんですけど今度、鹿児島市内に、歌の番組が来るんですけど、それに出るんですよ」と、近々の情報を教える。

「おっ、あれだな。『あなたもスターになりまショー』だろ?凄いじゃないか、人気番組に出るなんて。歌が上手いんだな」

「万里子は、普通の歌じゃなくて、島唄を三味線を弾きながら唄うんですよ」

「そりゃすごいっ」おじさんが、身を乗り出すのがわかって、真彦も万里子から聞いた話を、話始める。

「万里子からの受け売りなんですけど、奄美の島唄で『神歌』『童歌』『民謡』ってあるらしくて、島唄は『民謡』のことを言うらしいです」

おじさんは笑っているけれど、わかっていなさそうだ。それと気づいて真彦も、話を変える。

「島唄って言っても、島の唄じゃなくて、奄美のそれぞれの集落の唄って意味らしいです。島口(シマグチ)っていう方言で唄う島唄は難しいらしくて、万里子が唄うのは最近の島唄だって、言ってました」

「なるほど、なるほど」

これだけは言わなければと、真彦は続ける。

「三味線は、沖縄の三線(さんしん)とは違って、少し大きくて、弦が黄色く、(ばち)は竹を削ったものが、使われるそうですよ。音も響くし澄んだ音色だと言いますね」

少し、得意満面になってやしないかと、顔を片手でなぞる。

「詳しいな」やっぱり彼女なんだろと、問われて、

「幼なじみです」と頑なに答える。

「三味線は、部活動でやってるから、その辺りから島唄にひかれたみたいです」真彦はそう言って、スマホを操作していたが、すぐに画面をおじさんに向けて、言った。

「この写真の女性歌手、唄者(うたじゃ)と言うんですけど、奄美でも有名な方で、この人に憧れてるみたいです」

そこには、大島紡ぎの着物を着て、三味線を弾きながら唄う姿の、まだ若い「唄者」が写っていた。

「シマンチュとか、言うんだね。勉強になったよ、ありがとう」

「いえ、そんな・・・」

そこに、真彦の母が帰って来た。

入り口のおじさんにお辞儀しながら、真彦のベッドまで来ると、鼻から長い息を吐く。

「どうだった?」と、訊く真彦に、

「軽い貧血だってさ」と、答える母。

「点滴射って、帰っていいそうだよ」

言いながら、丸椅子に腰掛ける。

「それは、良かった。実は、私はここに来てから長くてね。うちの妻には、迷惑を掛けてて」

点滴を射つ間、真彦の母はずっとおじさんの身の上話を聞いていた。

悲しい身の上話に、ふたりは感情を抑えるのに、苦労した。

そこに、万里子が帰って来た。


2


万里子は病室に入るなり、その重苦しい空気に戸惑った。

点滴を射つ真彦の横に、丸椅子に座る真彦の母は、目を真っ赤にさせている。

気づけば、通路側のベッドのおじさんも、ティッシュで鼻を噛んでいる。

手にしたオレンジジュースのペットボトルを、思わず落としそうになる。しっかり握り直して、沈んだ空気を打ち破るように、声を張る。

「お待たせっ、下の自販機にコレがなくて、近くのコンビニまで走ってたから、遅くなっちゃった。ごめんね」

真彦の母の顔を見ないように軽く会釈をして、ベッドに近づく。

「おっ、ありがとっ。点滴、今始めたばかりだからまだ、かかりそうだよ」

「そうなんだ。ここに置くね」

万里子はオレンジジュースを、ベッド脇の小さなキャスター付きの物入れの上に置くと、この雰囲気のなか、他人の自分がそこにいることが場違いな気がして、

「じゃあ、あたし。えっと、帰るね」と言ってみる。もしかしたら、その言葉が呼び水になって、病状を話してくれるのではないかと期待したけれど、

「そうね、遅くなってもあれだから。今日はありがとね」と真彦の母に言われてしまった。

いえいえ、そんなことないですと言いながら仕方なく、頷く。

「明日、『あなスタ』頑張れよっ。俺は応援行けないけど、万里子なら大丈夫!」横になりながら、右手を出してそう言う真彦の、その手を握る。

「うん。頑張るよ」万里子は心配で泣きそうになるのをこらえて握手すると、その場のみんなに会釈して、病室をあとにした。

「なんか万里子、泣いてなかった?」と言う真彦に、

「『あなスタ』ってなんだい?」と母が訊くから、

「『あなたもスターになりまショー』だよ。略して『あなスタ』」と答える。

「えぇっ、あの歌番組に出るのかい?凄いじゃないっ。テレビ観なきゃね」

「放送は、先だと思うよ」減らない点滴を見ながら真彦は、話す。

「なんかさっきは、しんみりさせたね。彼女さん、頑張ってほしいね」と身の上話を話し終え、スッキリしたおじさんが、ふたりに言う。


大変な病気なんだ。

あの雰囲気から、万里子はそう思った。明らかに勘違いだったけれど、

「真彦のためにも、明日は全力を尽くすわっ!」と結果、良い方向に流れているようだ。

明日の土曜日、朝早くから出掛けるから、真彦には会えないなと思い付くと、もう一度病院に戻ろうかと思い立ち止まり、後ろを振り返る。

今、戻れば、真彦のお母さんが泣いているところに出くわすかもしれないと、勘違いの想像を巡らせて、行くのをやめた。

とにかく今は、明日に全力投入だ。

万里子はこぶしを握りしめて、誓った。


3


大部屋と言われる、リノリウムの床の一室に、今日の出演者たちが集まっていた。

立って振り付けを練習する者、座ってギターを弾くもの、発声練習する者、歌詞を唱える者、様々だった。

あと、三十分もすれば、本番が始まる。

万里子は、そんな人たちを見るとはなしに見ていたけれど、頭のなかは今朝がた見た夢のことを思い出していた。


保育園の運動会で、徒競走のスタートの場面だった。

万里子は、スタートのピストルの音が大嫌いで、鳴るたび泣いていた。

その年は、もう鳴ることがわかっていたからか、「よーい」の声で泣き出していた。

「先生と一緒に走ろう」と保育園で一番人気のさおり先生がやって来て、万里子の耳を優しく塞ぐ。

その時だった。

「キバレッ!」と塞いだ手の隙間から、するりと入り込むように、声がした。

キバレとは鹿児島弁で、「頑張れ」。

声の方を見ると、真彦だった。

周りのお母さんたちも、小さな子の方言は可愛いと、はやし立てた。

さおり先生はそれと見て、そっと離れた。

気づかずに万里子は、音にビックリして結局泣きながら、でも最後まで走った。

走り終わると、ありがとうのかわりに、真彦の横に、ちょこんと座った。

夢はそのあとも続いたようだけれど、思い出せなかった。


母がチヂンと呼ばれる、直径六.五寸の太鼓の練習をしていた。

予選の時、

「あたしゃ奄美の出身だから、任せな」と大見得切ったけれど、あまり上手ではなかった。終わってから訊けば、

「二歳まで居たんだよね~」と笑って誤魔化した。

「とん、とん、とん、うん、だよ」と万里子が確認すると、

「とん、とん、とん、うん、はっ」と言い、多めに叩くから、

「『うん』は、休みでしょ。『はっ』は、なんなの?」と心配顔で、見る。

「大丈夫っ、予選の時もうまくいったろ?あたしゃ、本番に強いから。あんたも泣かずに歌いきりなよ」とやり返す。

確かに、緊張していた。だから、今朝もあんな夢を見たのかもと、思う。

ドアが開く。

「本番、始まりまーす。よろしくお願いします」係りの人の声に、万里子の胸が、キュンっと、鳴る。


4


ステージ横に数組の出場者が、自分達の出番を待っていた。

チラチラ見える会場は、満席ではなくて、空席も目立った。それでも、七、八割は、埋まっていた。

万里子は突然、肩を小突かれて、ハッとなった。

眠っていたわけではなかったが、名前を呼ばれたことに気づかなかった。

小突いたのは母だった。

「大丈夫かい?目ぇ開けたまんま、寝てたんじゃないよね?」と心配してんだか、からかってんだかわからない口調で、話す。

「だ、大丈夫」喉が渇く。ペットボトルの水を口に含む。飲み込むのに、時間を要した。

大きく、深呼吸する。

ステージに、上がる。

観客席を真正面から見ると、ステージ裾からの景色とは、全く違って見えた。少なくとも三千人はいた。

六千個の眼で、見られていた。

まるで海の中のように、音が遮断されたように、聞こえない。

なんだかフラフラする。

落ち着け落ち着けと、言い聞かせるけれど、膝が震え始める。

座り込みたい、すぐに裾にハケてしまいたい。

子供の頃に、気持ちが戻っていく。一度弱気になると、踏みとどまれなくなる。悪い癖だ。

目を閉じる。

マー君、マー君。

真彦の名を、心で叫ぶ。

後ろで太鼓の準備を終えた母が、不安げに見つめる。

司会者が、名前と唄う曲名を告げると、始めなければならない。

きっと今、三味線を弾いても、自分の耳には響いてこない。

どうしよう、どうしよう。とにかく唄ってしまえ、そして、早く帰ろう。

そう決心したけれど、息が苦しい。

目を開ける。

(ばち)を構える。

唄いだす瞬間だった。

それまで空席だった席に、ひとりだけ立っている人がいる。

「マー君・・・」真彦だった。

何かこっちに叫んでいる。

なに、なに?

聞こえないもどかしさ。

なに、なに?何て言ってるの?

思わずスタンドマイクの前に、出る。

観客が、なんだなんだと騒ぎ始め、万里子の見る方を見るけれど、そこには空席があるだけ。

万里子にだけ見える真彦は、叫ぶ。聞こえない。

ついにたまらず、万里子が叫んだ。

「声を聞かせてっ!」

すると、すぐそばで真彦の声が、響いた。

「キバレッ!」

あの日の、言葉。

勇気をくれた、言葉。

ゴールするまで、背中を押してくれた、ことば。

マイクの前に、立ち直す。

万里子にしか聞こえない真彦の声に、全身を震わせて、唄いだす。

三味線の澄んだ音と、万里子の張りのある歌声が空気中に、風に舞う花びらのように、飛散する。

誰もが、手拍子せずにはいられない。

誰もが、立ち上がり、拍手喝采になった。

司会者が、駆け寄り、「素晴らしい」と讚美する。

万里子は、その時のことを覚えていない。

あとで、放送を見るまでは、思い出せなかった。

ただひとつ、真彦の声を、除いては。


5


地元のバス停に降りると、すぐに母がチヂン(太鼓)を、万里子に押し付けてきた。

「な、なに?あたし、シャミ持ってんだからお母さんチヂン持ってよ」ふくれる万里子に、

「そこのスーパーで買い物してくるから。あんたのお祝いだよ~」と、浮かれ気分の母である。

仕方なしに、背中に三味線、前にチヂンを抱いてトボトボ歩きだすと、後ろから呼び掛ける声がする。

振り返ると、自転車に乗った真彦の兄の、俊彦だった。

「あっ、こんにちは」

「よぉ、正月ぶり。今そこのスーパーで、おばさんにあったもんだからさ」

そう言う俊彦は、なぜだか目を合わせようとしない。

確かに、お正月に、東京で働いている俊彦は帰省していた。それからまだ、ひと月。

万里子は、胸騒ぎがした。

こないだ帰ったばかりなのに、帰ってきた身内。しかも、昨日、弟の真彦は大病で入院。それに、だ。

歌番組の収録中に、自分にだけ見えた、真彦。あれって、魂が飛んできたのではないのか?もう、真彦はこの世の人ではないのでは?

目を合わそうとしない兄、俊彦。

万里子の妄想列車の暴走が、始まろうとしていた。

「俊彦さん、あたしを後ろに乗せてくれませんか?」

万里子は一刻も早く、真彦の元に行かねばならない気がした。

「おっ、いいけど」

訳はわからないけれど、迫力に圧されて頷く。

前のかごに、入りきらないチヂンを載せて右手で押さえながら、自転車をこぐ。

後ろに乗った万里子は、その自転車が真彦の物だとわかって、これも何かの因縁だわと、思い込む。

二人を乗せた自転車は、町中を抜けて、今は枯れた田んぼの畦道を、走る。

軽トラ一台がようやく通れる道を行くと、やがて家々の集まりが、見えてくる。

真彦の住む、集落だ。

短い登り坂の上に建つ、青色の屋根の家が、それだった。

妄想は、続く。

どうして、昨日の今日で退院して家にいるのか?おばさんが泣くほどの、大きな病気なのに。

ふとんに横たわる、真彦が見える。

唇まで真っ白にした真彦はすでに、虫の息。

万里子、万里子と、自分の名を呼んでいる・・・気がする。

自転車をこぐ俊彦は、後ろでブツブツ一人言を言う万里子に、相づちをうって良いのか悪いのか悩んでいたけれど、ここは

触らぬ神に祟りなしと、聴こえぬ振りをすることにした。

いつの間にか知らぬうちに、泣き虫な万里子に戻る。

魂となってまで、応援に来てくれたのだ。あたしも一刻も早く、声を聴かせなければ。

そう思った万里子は、俊彦の両肩に手を置いて、荷台に立ち上がる。

一瞬、揺れる自転車。

何とか持ちこたえる、俊彦。

何が始まるんだと、いぶかしんでいると、唄が聞こえだした。

「島唄か」

冷えた空気を奮わせて、真彦に届けと、万里子は唄う、島唄を。


6


「万里子の声が、聴こえる」

真彦は、座椅子に座り、脚をこたつにいれて、三個目のみかんの皮を剥いていた手を止めた。

「なんにも聴こえないよ」と真彦の母が、横から言う。時計を見上げて、そろそろ帰ってくる頃かもねと、言い、

「あんた、そんなに心配なら、迎えに行ったげなよ」と言うから、

「何で俺が」と答えるから、

「何でって、あんたら付き合ってんじゃないのかい?」と、すっとんきょうな声を上げる。

「そんなんじゃないよ」と真彦が、自分でもどうなんだろうと、考え考え言うと、

「万里ちゃんは、気があるよ。あんたはそんなことにも気がつかないから、こないだのバレンタインデーでも、一個も、いっっっっこも、貰えなかったんだよ、チョコ」と、念押しで言われてしまう。

「母ちゃんの子だから仕方ないでしょ」と言えば、

「そうだったっけ?」と返される。

以前には、あんたは父ちゃんが、間違って畑から抜いてきた子だと、大根扱いされ、今回はついに、産んだことまで忘れたようだ。

「また、聴こえた」母を見るも、外国人のように両掌を上に向けて、「あいどんのぉ」と言う。

真彦は、立ち上がり、玄関に行くと、引き戸を開ける。


短い登り坂で、二人乗りは上がらないと見るや、万里子は飛び下り、自転車をすり抜け追い越して、真彦の家の玄関の戸を、開けた。


「うわぁっ」と、ふたり同時に叫んだ。

「やっぱり、万里子だった」

「どうして?死んでないの?」

万里子の暴走した妄想ではついさっき、真彦の顔に白い布を掛けたところだった。


ふたりは並んで、夕陽に伸びるお互いの影を追いながら、歩いていた。

万里子は昨日からの、自分の勘違いを照れて笑い、真彦は相変わらずだなとまた、笑い返す。

ブラブラさせている二人の手は、時々、ふれあったり、はなれたり。

ふたりの今の共通の思いは、

「なんでこんなに意識してんだろ?」だ。

ふたりのほかに、誰もいない、田舎の畦道。

「お兄さん、帰ってきてるね」と無言に耐えきれずに訊く、万里子。

「あ、そうそう、兄貴、仕事辞めて帰ってきたんだよ」

そうか、だから照れてあたしの顔を見ないようにしてたのかと、合点する。

「唄えたか?」その問いかけは、優しい。

「うん。ヤバかったけど・・・」

「ヤバかったけど、なに?」

万里子は言うか言うまいか、一瞬躊躇したけれど、勘違いで恥をかいてたから、また、思い出話しが増えるだけだと言ってみた。

「緊張して、耳が聴こえなくなったとき、マー君が、『キバレッ!』って言ってくれたの」すると、真彦が立ち止まり、真剣な眼差しで、万里子を正面から見据えると、ゆっくりと喋り始める。

「俺、万里子が唄っていると思われる時間に、寝てたんだ」

なにそれ?と、万里子は苦笑いで、でも続きを待つ。

「夢を見たんだ。小さな万里子が泣いてる夢を。 だから、俺は近寄って『泣くな、キバレッ』って言ったんだ」

軽トラックが後ろから来ていたけれど、ふたりは気づかず、話し続ける。

「やっぱり、来てくれてたんだね」

「生き霊だな、いわゆる」そう言って笑う真彦に、

「生きてて良かったよ」と両手を真彦の首に回して、抱きつく。

真彦も、万里子を受け止め、抱き締める。

軽トラックは、バックして止まると、おじさんが降りてきて、タバコに火をつける。

「若いって、いいねぇ」しばらくは、そのまま、山の稜線に沈む太陽を、見ていた。

真彦と万里子のひとつの影は、月灯りに照らされるまで、離れなかった。


おわり


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