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怪談

生霊

 これはボクが夏に旅行に行った時の話。


 高校二年の夏にあった出来事なんだけど、その時は部活の関係で知り合った大学生と泊りがけで海に行ったんだよね。


 大学生4人と高校生1人。ボクを入れて総勢6人。


 急用とか学校の都合もあって、大学生の一人とボクが先に向かうことになったんだ。


 そんなわけで、ボクと大学生の羽海うみさんは二人で出発

 して、宿泊場所の近場にある砂風呂を体験したりしたんだ。


 到着時間が早くて、チェックインのできる時間でもなかったし、砂風呂、体験してみたかったからね。


 色々あって砂風呂は堪能できなかったけど、思わぬ臨時収入もあったりで、結構楽しかったね。


 そんなこんなで、チェックインできる時間にもなったし、ボクと羽海さんは予約していたコテージに到着したんだ。


 小高い丘の斜面に建てられたコテージは全部で8棟。2列で造られていて、互い違いに建てられているからそれぞれがテラスから海を眺められるようになっていたね。


 背後は少し斜面を登って雑木林。50m無いぐらいの距離の先に見えるそれは、よく手入れされているみたいで木々の合間に光が差し込んでいたのを今でも覚えてるよ。


 そんなコテージ群の雑木林側、奥から二番目がボク達が滞在するコテージだった。


 荷物を置いて、一休みしたボク達は雑談しながらバーベキューの用意を始めたんだ。


 のんびりと話をしながら下ごしらえしていると、不意に羽海さんが隣の建物に目を向けた。


 一番奥のコテージをじっと見つめる羽海さん。どうしたのかと声に出す前に、羽海さんが口を開く。


『今、誰か居なかった?』


 そう言われてボクは隣のコテージに視線を向けるけど、人の気配はなかった。


「隣の利用客じゃないの?」そう答えるボク。


『昼間の事で疲れてるんじゃない?いつもならすぐに気がつくのに』


 そう言いながら羽海さんが少し苦笑を浮かべ、ボクの頭を指先でつつく。


『玄関以外はシャッター下りてるでしょ?じゃあ今は隣に利用者はいないでしょ』


 少しだけ浮かんだ苦笑を消して、強張った表情を浮かべながら羽海さんが続けたんだ。


 隣のコテージに目を向けると、確かに窓は全てシャッタータイプの雨戸が下りていて、人の気配も無さそうだった。


「宿泊客の誰かが残ってるんじゃない?」そう言いかけてボクは口を噤んだ。誰かが残ってるならわざわざシャッターを下ろしはしないだろうからね。


 二人で『なんだろうね』と言いながら下ごしらえを続けたんだけど、やっぱり意識は隣りに向う。


 幸いそれ以降は隣からの視線は感じなかったね。


 下ごしらえを終えたボク達はコテージの周りを歩いてみることにしたんだ。


 一番奥のコテージの更に奥。当たり前だけど、足許が悪くて立ち入れないとか、草が生茂っているという事も無かった。


 人は簡単に通れるけど、建物と建物はそれなりに距離が離れてる。ボク達に見つからないようにここから離れるには、結構遠回りしないと無理っぽかったね。


 施設を一廻りして夕飯のために戻ってきた時に、丁度一番奥を利用する宿泊客がやってきたんだ。


 女の人が4人。挨拶を交わした後、羽海さんがさり気なく、今日から宿泊すること、先に来てた人がいないことを聞きだしてた。


 彼女達は夕飯はどこかのお店に食べに行くようで、荷物を置いて暫くしたら出て行ったんだ。


 ボク達はテラスで食事をしながらそれを見送ったんだよね。

 …隣からの視線を感じながら。


 気にしないようにしつつも夕飯を手早く済ませたボク達は早々に室内へと入ったんだ。

 幸い室内では視線は感じることがなかったね。


 コテージの造りは1LDKで寝室には二段ベッドが二組だったんだけど、砂風呂での出来事や視線のこともあったから、ベッドを使わないで布団を並べて寝ることにしたんだ。


 6人で予約していたから、二人分はベッドが足りないってことで布団レンタルをしてあったんだよ。


 布団を並べて敷いて、その上で話し込んだりして。


 明日は昼ぐらいに他のメンバーが合流するから、午前中は二人で観光にでも行こうかって話をしながら床に就いたんだ。


 気がついたら時計の針が真上を通り過ぎてた。

 やっぱり疲れてたのか割とすぐに眠りについた。


 ふと、目が覚めたのは深夜1時を過ぎた頃だった。


 ザッ…ザッ…ザッ…ザッ


 コテージの前を横切る足音が聞こえたんだ。隣のお姉さん達が帰ってきたのかなって、そう思ってた。


 おかしいなって思ったのはすぐだった。


 僕たちが寝てる部屋、その前を通り過ぎてそのまま隣のコテージに向かうんじゃなくて、壁に沿って曲がったんだ。


 僕たちの左手側、方角としては南西側に各コテージに向かう道があるんだけど、さっきまでそっちから聞こえてきた足音が今は足元側を通っていく。


 数秒後には足音が少しだけ離れてったんだけど、今度は右手側の窓の方から足音が聞こえる。


 多分コテージの周りを回ってるんだろうな、って思いながら耳をそばだててたら、しばらくして足音がまた左手側を通っていく。


 体を起こして足音が通り過ぎようとする窓を見たら人の頭らしきものが通り過ぎていったんだ。


 コテージの床が高い位置にあったから、窓の下の方に、頭の天辺が少しだけ見えたんだ。


 何故かそれを見たときに、『あ、女の人だ』って思った。


 布団の上でコテージの周りをぐるぐる回ってる足音を暫らく聞いてたんだけど、唐突に足音が止んだんだ。


 左手側。カーテンのかかった大きな窓を隔てたその向こう側。テラスがあって、各コテージに向かう道があるんだけど、そこで足音が止まってた。


 窓の方を見てたらカーテンに人影が写り込んだんだ。それは髪の長い小柄な女だった。


 影はそのまま窓にへばりついた。


 カーテン越しにそれを見てたら、唐突に消えたんだよね。


 消えた、そう思った次の瞬間、

『この子は私のだ』

 女の声が耳許で聞こえた。


 小さいけれど、低く、恨みのこもったような声で。


 声と同時に後ろから首を絞められた。


 反射的に肘を後ろに振ったら、手応えがあったんだ。


 首を絞める手が離れたから振り返ると誰も居なかった。


 なんだったんだろうと思いつつも、隣で寝てる羽海さんを見ると、目があった。


 話を聞いてみたら、羽海さんも足音で目を覚ましたらしかった。


 人影が窓にへばりついた後、一瞬のうちに背後に来て、ボクに覆い被さろうとして、ボクが払い除けたって事らしい。


 お茶を淹れに行った羽海さんを見送る。


 羽海さんには言えなかった。

 ボクの首を絞めたのは、幽霊じゃ無かったって。


 首を絞められた時に感じたんだよね。アレは生霊だって。


 多分アレは羽海さんから以前に話を聞いたことがある人、茜さんだった。


 どうやら、羽海さんと仲がいいボクは面倒そうなのに目をつけられたみたいだった。


 無理だとは思いつつも、旅行が平穏に終わることを願わずにはいられなかった。



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