首を絞めるのが好きなの
ご覧になってくださり、ありがとうございます。
「ドレス、宝石、ティアラ、ファンデーション、ブラジャー、パンティ、靴下、孔雀の羽の扇、食べかけのチョコレート、パフ、香水、いちご水、ピアス」
なんともまあ、色々なものを盗んだものである。
アグリは聖女の罪の告白について、怒りや戸惑いよりも、それよりも「悪役令嬢アグリー・カナーヴォン」に同情をしたくなる。
そんなにもたくさん、所持品が紛失したら、苛立ちや怒りよりも恐怖で精神に異常を来してしまいそうだ。
「まだまだ、貴女の痕跡を味わうには足りない、足りなさすぎる」
しかもどうやら聖女にはまだまだ全科かあるようだった。
「貴女の痕跡を血液に取り込んで私の肉にするの。骨に染みて、肌を赤く濡らすの。
ああ、ああ、ああ。
愛しい貴女、貴女のことを考えるだけで私の股間の陰唇が震え、女陰はぬるぬるに喜びを溢れさせる」
愛情が暴走している。
「だからあの日も私は貴女の部屋に忍び込んだ。
いつもは我慢していることをした。
私は服を脱ぎ捨ててオナニーをしようとした。
愛液を全て絞り尽くして貴女に私の痕跡を残そうとした。
そうすれば貴女はもっと美しくなる。
ああでもどうしよう、貴女がそれ異常美しくなったら、美しくなったら、美しくなったら!!」
すごく気持ち悪い。
だけど同時に愛おしいとも思う。わたしの愛した小説、素敵な主人公、彼女のすべてを肯定したい。
わたしの愛しの主人公。
幸せを、心から願う。
「裸で私はオーガズムに達しようとした、貴女の匂いに包まれて幸せだった、とても気持ち良かった」
しかし、幸せは性的快感より早くに消え去った。
…………。
破壊の音を聴きながら、モモイロが魔法少女に事情を話す。
「彼は、運が悪かったとしか言い様がないでしょう」
それもそうである。俺は彼女たちの後を追いかけながら、聖女に殺された人気投票一位の彼に同情する。
だってそうだろう? ハーレムルートを確約された女の裸が目の前にあって、しかもなんか色々と濡れている。
そうとなれば、添え善食わぬは男の恥、である。
しかしながら、中々に悲惨な死に方でもある。
「彼の股間は、その……」
モモイロは現場を、本来ならば主人の部屋を清掃するために向かった先で見たものを思い出そうとした。
しかし途中でイメージを無理やり閉じている。
人工の皮膚が青ざめたように見えたのは、見間違いと断定できないほどの複雑さを含んでいる。
「しかし、よくもまあ百年以上も人々を騙せましたねえ」
屋敷の外側、遠くに魔法少女は狙いを定める。
モモイロもまた、魔法少女と同じ方向を見る。
「わたくしは、あくまでもお世話係として天使の来訪を待つだけでしたわ」
一族に伝わる予言のために存在する機械人形。
依頼主。
それはつまり彼女のことだった。
「恐ろしき人食い怪物を退治するのに特化した業者」
モモイロは前を向いたまま、遠くの彼方に見える、怪物に変身した聖女を見つめる。
「魔法少女、あなたに怪物退治を依頼します」
魔法少女は答える。
「承知しました」
さて、現場は阿鼻叫喚であった。
まるで巨大なムカデのような怪物。
見張り役たちは現れた怪物にことごとく蹴散らされている。
「なんてこった……!」
暴れ狂う怪物に三位の彼は恐れをなす。
魔法少女のもとへ、若い男性の体が吹っ飛んできていた。
「おっと」
魔法少女は軽々と、黒髪の二位の彼を横たえさせる。
彼は傷まみれ、致命傷寸前のダメージを負っていた。
「なんともまあ、元気の良いことで」
聖女の秘めたる狂暴性に、魔法少女は感心せずにはいられないでいる。
苦しんでいる黒髪の彼を、魔法少女は優しく撫でることだけしか出来なかった。
「僕は癒しの魔法を使えないのです」
申し訳なさそうにしている。
「怪我の治癒は、本人に直してもらいましょう」
怪我人を優しく横たえさせる。
魔法少女は、ポケットから万年筆を取り出す。
蓋の無い、むき出しのペン先、銀色の輝きが光る。
魔法少女の手によって、ペンは魔法の槍に変身していた。
武器を握りしめて、魔法少女は人食い怪物に飛びかかる。
薪を割るかのような勢い。
鋭い銀の刃は、腐ったアンズのように易々と怪物の無数に並ぶ足のうちの一本を切り取っていた。
攻撃を重ねていく。
魔法少女はあっという間に怪物のほとんどの足を切断する。
「ぜぇ……ぜぇ……」
しかし攻撃をする端から、聖女だったもの、怪物は肉体を再生していっている。
肉のか溜まりである足。
タコの触手のように柔らかく、象の足のように堅牢な筋肉の塊。
刃に切られた肉の断面図から血液が溢れる。
赤色の噴出は、しかして三秒程でとどまる。
傷が治癒し、ぶくぶくと新しい肉がピンク色のヌラヌラとした表面を震わせて増幅する。
「キリがありませんね」
人食い怪物に触れ合い、魔法少女はようやく人間らしい動揺、恐怖心をあらわにしていた。
核となる魔力の源が存在しているのだろう。
それが何であるか、なにも俺が教えるまでもなく、魔法少女は答えを知っている。
知った上で。
「まさか」モモイロが魔法少女に微笑みかけていた。
「お嬢さまを殺害するおつもりかしら?」
気がつけば、モモイロの手が魔法少女の首もとにあてがわれていた。
出方次第では、モモイロはいつだってアグリのために殺害を行える。
読んでくださり、ありがとうございました。