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朝の一人

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 服を脱がされ、アグリはシミーズ一枚になっていた。

 俺はともかく、おぼこい魔法少女には刺激が強すぎているらしい。


「ぐへ、じゅる……ぐへへ……」


 魔法少女は口許の唾液をぬぐいぬぐい、じつに気持ち悪い笑みを浮かべている。

 まったく、あれでは桜の木の下でアグリを襲った悪漢のことを馬鹿にできないではないか。

 しかし……まあ確かに、魔法少女が垂涎(すいぜん)したがる気持ちも分からなくはない。

 ナイスバディとまでハッキリしなくとも、アグリの肢体には独特の魅力が満ち溢れている。

 程よく肉がのった体は、抱けば心地よい安らぎを得られそうである。

 まったく、「悪役令嬢」としての役割を担うにはもったいない逸材である。


「お嬢さま、お体を清めたあとはごゆっくりとお休みになられてくださいまし」


 モモイロが納屋の外に出ていった。


「あっ」


 魔法少女がモモイロのことを呼び止めようとした。

 しかしモモイロは少女の呼び声を無視していた。


「行ってしまわれました」


 魔法少女が残念そうにしているのを、アグリが申し訳なさそう見ている。


「彼女、もうだいぶ前から決められた内容でしか行動できなくなっているの」


 機械人形は壊れかけであるらしい。


「へえ」


 魔法少女は、そのあたりの事情について深く質問をしようとはしなかった。


「ともかく、三日後までにはわたしはあの桜の木の下で処刑されなくちゃいけないのよ」


 アグリは、小説の通りに自らが死ぬことを強く願っている。


「でも」


 しかしまだ、この世界から本当に居なくなるには、アグリにはまだ心残りがあるらしかった。


「まことに残念ながら、わたしは人気投票一位を殺していないのよ」


 言わば免罪、未解決が彼女にとっては許せない現実で仕方ない。


「本の中でなら、わたしは確かに人気投票一位を殺したはずなのに」


「つまり、真犯人を探してほしいと」


 魔法少女は、悪役令嬢の頼みごとを受け入れるようだった。

 大丈夫なのだろうか?

 俺は不安をこめて魔法少女の方を見やる。


「まかせてください!」


 魔法少女は意気揚々としていた。


 …………。


 そして翌朝、魔法少女は人気投票二位の彼と戦っていた。

 そして勝っていた。


「つ、強い……」


 なんと行っても遥か遠い東の土地にて、魔法少女は毎日毎日飽きもせずに人食い怪物と戦いまくっている。

 戦いすぎて本職の魔法使い、小説家になるための応募用作品に着手することすらできていない。


「おもしれーガキだな」


 それはともかく、人気投票二位の黒髪の彼は魔法少女に情報を提供することを受け入れていた。


「最初から素直に操作に協力してくだされば良かったのに」


 魔法少女は銀の槍の先端に二位の血を付着させている。

 細かく薄い切り傷、桜の花が完全に散る頃には完治しているであろう。

 二位は事件当時のことについて語る。


「あの日は、みんな楽しそうにしてたな。あいつがこの屋敷に帰ってきて、ちょっとしたパーティーになった」


「はあー優雅なものですね」


 あいつとはつまり一位のこと、どうやら彼はこのあたりでも有名で優秀な魔術師であったようだ。

 人望がある彼が殺されたことは、この辺りに根付くコミュニティに大きな衝撃となっただろう。


「ぜってぇアイツがやったに違いない」


 黒髪の二位は悪役令嬢アグリのことを疑っていた。


「ほう? して、その根拠は?」


 二位の彼は余所者である、異国の魔法使い風情に持論を語る。


「アイツ、しょっちゅうものを無くしては聖女様に八つ当たりしまくってたんだよ」


 アグリは、「アグリ」というキャラはやはり、聖女ソフィアのことをいじめていたらしい。


 魔法少女が質問のために槍を少し上に掲げる。


「ちなみに、聖女さんはどうしてこのお屋敷に来たのです?」


「それは、あの女の父親があのこを従者としてアグリにあてがったんだよ」


「なんだかまるで、愛人を紹介するみたいですね」


 魔法少女の冗談に二位の彼は心底厭そうにしている。


 冗談はさておき。


「とはいえ」


 魔法少女は事実確認を行う。

 行動に制限がかかる、アグリの代わりに魔法少女と、そして俺が調査役を任されたのである。


「部屋に戻ったアグリさんのほかに、殺害現場に居合わせた方はいらっしゃらないと?」


 二位の彼は、


「そうだ……」


 と断定しかけて。


「あ、いや……」


 ふと、思い当たることがあったようだった。


「そういえば、事件前に聖女様とモモイロが一緒に歩いているのを見たな」


 二位の彼はその事について不思議に思っている。


「なんで、アグリなんかの従者と仲良くできるのか。まったく、あの人のお人好しにはほとほと呆れるよ」


 二位の彼は、愛おしそうに聖女のことを話していた。


「なるほど」


 魔法少女は聞き知ったことについて、とりあえずキャンパスノートに万年筆で何事かを書き記す。


「ご協力、ありがとうございます」


 とりあえず、アグリの仲間である自分に敵意を突きつけられる前に、サクッとその場から退散していた。


 その頃。

 アグリのもとに聖女ソフィアが訪れていた。


「お嬢さま」


 ソフィアは恭しく、丁寧に悪役令嬢アグリの前にかしずいている。

読んでくださり、ありがとうございました。

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