第3話 アニメやゲームのヒーローって、ずっと心の中にいると思う
「何だこれ……棍棒?」
ショウタの手には、荒く削られた木製の棍棒が握られていた。
なんだか、凄く弱そうなんだが……。
あれ? ガトリングガンは?
ショウタは、困惑して観客席の少女を見た。
「おい! なんか、変なのが出て来たんだけど!」
すると、少女が答えた。
「ごめんなさ~い! ポイント不足で、それしか買えなかったんです!」
「何ですとぉ?」
ショウタは、絶望した。
これ、もう無理だろ。
そもそも、何で自分は戦ってるんだっけ?
戦う理由なくね?
彼が考えていると、ロックゴーレムが巨大な右腕を正面に構えた!
握り締めた右拳を、真っ直ぐとショウタへ向けている。
これは!
「ブッ潰れろ!!」
ロックゴーレムが叫んだ!
すると同時に、巨大な腕の根元から炎が噴き上がる!
その炎を推進力として、腕がロケットのように飛んだ!
ロケットパンチだ!
巨大な岩の塊が、ショウタの正面に迫る!
「やばいやばいやばいやばい!」
ドーーーーン!
周囲に砂埃が上がった!
ロックゴーレムの拳が、ショウタに直撃した……かのように見えた。
次の瞬間!
砂埃から、マッドゴーレムが駆け出した!
観客席からは、村人達の歓声が上がる。
しかし、ロックゴーレムは逃すつもりは無い!
今度は、左腕を持ち上げた。
ロックゴーレムの左拳には、複数の小さな穴が開いている。
次の瞬間!
その穴から、無数の小石が発射された!
小石は、高速でショウタを目掛けて飛来する!
これは、ガトリングガンじゃないか!
ショウタは、逃げながら叫んだ!
「ガトリングガンを使うとか、卑怯だぞ!!」
ショウタは、円形闘技場の壁沿いを逃げ回る。
すると観客席にも、流れ弾の石が飛んでいく!
しかし観客席は魔法障壁で守られていて、攻撃の被害を受けない。
観客は、目の前で炸裂する石つぶてを見て沸いた!
「うおおおおおおおおお!」
ロックゴーレムは左腕でガトリングを撃ちながら、右腕で先ほど発射したロケットパンチを回収した。
巨大な岩が先ほどとは逆の方向に炎を噴射して飛び、ロックゴーレムの右腕へと戻る。
ロックゴーレムは巨大な右拳が戻ってくるや否や、再び右拳を逃げるショウタに向けた!
そしてマッドゴーレムが逃げる道筋を先読みして、ロケットパンチを撃つ!
ショウタは、逃げながらロックゴーレムの方を見た。
すると、彼のすぐ目の前にロケットパンチが迫っていた!
ドーーーーン!
周囲には、再び砂埃が上がった!
観客席からは、歓声が上がる。
すると……。
ロックゴーレムが呟いた。
「チッ、すばしっこい奴だな」
砂埃の中から、マッドゴーレムが現れたのだ。
しかし、何やら様子がおかしい。
マッドゴーレムは突然、握っていた棍棒を投げ捨てた。
それを見て、観客席から少女と村人が驚きの声を上げる。
するとマッドゴーレムは、両手を上げてロックゴーレムへと向かった。
解説のお姉さんも驚いている。
「おおっと!! どうした事でしょう! 試合開始から5分もしない内にマッドゴーレムが、両手を上げました!! 降参でしょうか? 情けない!」
解説を聞いて、対戦相手側の観客席から笑いが起こった。
めちゃくちゃ情けない状況だ。
しかし、ショウタには戦う理由などなかった。
痛い思いをする前に、さっさと降参したほうが得だったのだ。
目の前ではロックゴーレムが、堂々と彼を待ち構えている。
ショウタは、ロックゴーレムの前に立った。
そして、言った。
「降参だ! 俺はもう、戦う意志がない!」
「はぁ……」
ロックゴーレムは、大きなため息をついた。
そして、図太い戦士の声がショウタを怒鳴りつける。
「臆病者!!」
ショウタは、適当に相手の足元を見ていた。
説教は良いから、早く終わらせてほしいのだ。
すると、ロックゴーレムは続けた。
「俺は遂に真の英雄と戦えると思って、楽しみにしていたんだぞ!!」
「は?」
ショウタは、突然の発言に驚く。
ロックゴーレムは、感情が昂っている様子だ。
「俺は最初アンタの話を聞いた時に、涙を流したよ。あんな貧しいタダノ村の為に、命をかける野郎が現れたって言うんだからな! 信じられねぇと思ったぜ!」
「あぁ……それ、色々手違いがあってな……」
ロックゴーレムは、太い腕をショウタへと向けた!
「だが、こんなチキン野郎だったなんて失望したぜ!」
「いや、勝手に失望されても……」
ロックゴーレムは、更に熱く訴えた。
「ここでアンタが逃げたら、タダノ村はお仕舞いだ! アンタはそれで良いのか? アンタの心にはヒーローがいないのかよ!」
「……」
ショウタは、観客席で心配そうにしている少女と村人達を見た。
正直赤の他人だ。
それに怪しい占い師を頼ったり、勇者に棍棒一つ渡して敵に突っ込ませるような愚か者達なのだ。
きっと一事が万事こんな感じで、万年最弱まで落ちぶれたのだろう。
自己責任だ、助ける理由は無い。
しかし……。
「ヒーローねぇ……」
ショウタは人生の大半を捧げた、アニメとゲームの事を思い出していた。
今まで見てきたアニメやゲームの主人公達は、自分の利益とか関係なしに困っている人を助けていた気がする。
そう言うのって、やっぱりなんだかんだ感動するよな。
そういえば俺にも内心、そういうヒーローへの憧れがあったわ。
ショウタは、そう思った。
ショウタの青春時代を支えたヒーロー達の姿が、脳裏をよぎる。
きっと彼らならば、この状況で逃げ出すことはないだろう。
すると、ショウタは突然……。
ロックゴーレムに背を向けた。
彼は、壁に向かって歩いていく。
「おい! 逃げるのか!!」
ロックゴーレムが、怒鳴りつける。
そして、左腕で照準を合わせようとした。
すると……。
ショウタは、地面に落ちていた棍棒を拾い上げた。
そして、ロックゴーレムへと向けて構える。
その様子を見て、観客が驚いた。
「おお!」
ロックゴーレムも喜んだ!
「おお! 良くぞ武器をとった!!」
すると突然、ショウタはロックゴーレムを睨みつけた。
そして言った。
「アンタのお陰で、秘策を思い付いたぜ!」