6話 脱出、そして謎の美女戦士
少し前までレベル1の最弱の荷物運びだった僕。
辺りに散らばる魔獣の死骸を眺めながら、いきなり強くなりすぎてしまった自分に戸惑っていた。
「ホントにこれが僕の魔法なのか……?」
僕は自分の手のひらを見つめる。
◇
とりあえずこのダンジョンを出よう。自分がどれくらいの時間、石化をしていたのか見当もつかない。数日……いや、数週間なのか?
「うーん、まずはこの崖底から上がらないとな……」
僕はそびえ立つ崖を見上げるも上が見えない。
「この高さ……落ちるとき石化してなかったら即死だったな……どこかにロープかなんか落ちてないかな……?」
僕は辺りを見回すも都合よくロープなど落ちていない。ここはダンジョン、落ちてるのはゴツゴツした石くらいだ。
「そうだ!」
僕はあることを閃いた。
「たしか……錬成魔法が使えるようになってたな」
僕は錬成魔法でロープを錬成しようと思った。もちろんコレも初めて使う魔法だ。
しかし、
「……まてよ? ロープで上るなんて回りくどいことしなくてもいいのか……」
【肉体強化】
僕は肉体強化魔法を自分にかけた。
見た目は変わらないが、筋肉膨れ上がる感覚だ。体中から力がみなぎる。
特に脚部に魔力を集中させた。
「はっ!」
『タンッ』
僕は地面を強く蹴り大きくジャンプした。
『ビュン!!』
軽々と崖上まで飛び上がった。勢いよく飛び過ぎて天井の岩場にぶつかりそうになるくらいだった。
「すごい……僕の【バランス】でこんなことができるなんて」
【バランス】の1つ1つは弱いながらも、様々な魔法が使えるという特性のすごさを改めて感じた。
もちろん、レベル100の魔力があってのものだが。
ジャンプひとっ飛びで崖底から脱出した僕。ロープなんか探してた自分が馬鹿馬鹿しく思えた。
◇
「よし、早くダンジョンを抜け出そう! えーっと……どっちが出口だ!?」
僕は回りを見渡す。
「真っ暗だな……とりあえず来た道を戻ってみるか」
僕は【光魔法】でダンジョン内を明るく照らす。
「おお、これで快適に歩けるぞ!食料もきっと【錬成魔法】で作れるだろう。餓死する心配はなさそうだな」
強くなった僕だが、やはり慣れないダンジョンは怖い。
魔獣たちは僕の力を知ったようで、姿も現さないが恐る恐る出口を目指す。
「そういえばパーティの奴らはどうなったんだろうか……?」
自分を見捨てて逃げたゴンザレス達のことを考えていた。
僕一人をボスのところへ行かせ、見捨てたあいつらへの恨みを僕は忘れることはなかった。
◇
『ガガガガガガッッ!!!』
「え! な、なんだ?」
突如、ダンジョン内が大きく揺れだした。
『私の首飾りを……返せ!!』
ダンジョン内に不気味な声が響き渡り、巨大な人型の岩石が姿を現す。
「そうか……忘れてた……」
僕はゴーレムに襲われ崖底へ落ち、逃げ延びただけだ。
まだこのダンジョンのボス、ゴーレムが残っている。
【石化の首飾り】の奪われたゴーレムはまだ怒り狂っているようだ。
首飾りを返せと怒っているようだが……残念ながらもう首飾りの一番大事な宝形は、僕が石化したせいで砕け散っている。
ダンジョンの揺れが大きくなり、僕めがけて岩石が飛んでくる。
このダンジョン自体がゴーレムの体だ。岩石すべてが凶器に変わる。
「くっ……!」
【岩魔法】
僕はとっさに岩魔法で岩の盾を作り、ゴーレムの攻撃を防ぐ。
『い、岩魔法だと……!?』
ゴーレムは困惑している。岩種族トップクラスのゴーレムより強力は岩魔法を僕が使うからだ。
僕は続けざまに魔法を繰り出す。
「くらえ! 【水魔法】」
ゴーレムに水の弾丸を放つ。
まだ力の加減などできない! 全魔力を注ぐ!
『グオォォォオ!』
水の弾丸がゴーレムを貫く。
『キサマ……よくも……』
ゴーレムは砕け散った。
「や、やった……」
初めてのボス討伐に喜ぶ力もないほど、全身に疲れを感じていた。
全魔力を使い果たしたようだ。
「はぁはぁ……全魔力はやりすぎたな……気をつけないと」
しかし、僕の魔法一撃でA級ダンジョンのボスを倒せた。
レベル100という力の凄さを感じていた。
◇
少し休むと体力はすぐに回復した。
これもレベル100の回復力という事なのだろうか。
僕はすっかり静かになったダンジョンの出口へと歩を進める。
襲い掛かってくる魔獣はもういないが、出口まではまだまだありそうだ。
ゴンザレスたちと来たときはゴーレムのところまで数週間かかったのだ。帰り道も当然同じくらいかかるだろう。
「待てよ……?」
僕はあることを閃いた。
律儀に出口まで歩く必要もないのでは? 僕は【鑑定】で自分の使える魔法を確認する。
「たしか、移動魔法の中で脱出できる魔法があるって聞いたことあるけど……お、あった!」
僕は【脱出魔法】も取得していた。
「これを使えばダンジョンの外に出るのかな……?」
今まで人生、魔法を使わなすぎた僕は魔法で脱出できると考えもしていなかった。
「ホントに魔法って便利なものなんだな………」
脱出したらちゃんと魔法について学んでみよう。そう決心した。
【脱出魔法】
僕の体が光に包まれた。
次の瞬間、僕はゴーレムのダンジョンの外にいた。
「う、うそ……!? ホントに一瞬で出てこれるなんて」
僕はあたりを見渡す。
数週間前、ゴンザレスのパーティーとして荷物をせっせと運んでいたダンジョンの入り口だ。
「よ……良かった……生きて帰ってこられた……!」
何度も死を覚悟した僕だが、無事に外に出ることができ、涙を流し安堵した。
◇
「おい! 大丈夫か? 少年!」
「えっ?」
安心しきっていた僕は、背後から誰かに声をかけられる。
振り返ると、そこには真っ赤な鎧に身を纏った美女が驚いた顔で立っていた。
「こんなところでなにをしているんだ? 君はどこから現れたんだ!?」
「え、えっと……」
言葉に詰まる。なんせ僕は人と話をするのは久しぶりだ。
それがこんな美人となればなおさらだった。
それに内気な僕が、鎧からはみ出す谷間を見て、今の状況を上手に説明なんかできる訳がない。
「大丈夫か? 服がボロボロじゃないか! ケガはないか?」
「だ、大丈夫です……」
彼女は心配そうに僕の体を見る。
「私は王国の調査団のオリビアだ。君は?」
「調査団!?」
そうだ、どこかで見覚えのあると思った鎧の紋章、それは王宮の紋章だ。
見渡すと大勢の調査団がいる。
「ぼ、僕は……ペルーサです」
「ペルーサか! 見たところ若そうだがいくつだ?」
「15歳です」
「15歳か……私の3つ下か」
この人は18歳か。綺麗なお姉さんだな……
「ペルーサはどうしてこんなところにいるんだ?」
「えーと……」
なんと答えるべきなのだろうか? 余計なことは言わないほうがよさそうだけど……
「ここから我々、調査団はあのダンジョンに入る。最近地震が続いているだろ?
その原因のゴーレムを調査しに行くんだ。子供は早く帰った方が良いぞ?」
「え? ゴーレムを……?」
ゴーレムを調査するために、この大勢が集まってるのか? 数十人の鎧を着た調査団を見る。
「そうだ。まあ我々では倒すことはできないから、ひとまず調査し情報を集め、王宮の騎士団や魔導士たちに任せることになるがな」
「あの……ゴーレムだったらもういませんよ?」
「は? 何を言ってるんだ? たしかに少し前から地震は収まっているが……えっ!?」
オリビアさんが僕の胸元を見て驚く。
「君っ! それはもしかして!?」
オリビアさんが僕に掴みかかる。
「ち、ちょっと、なんですか!?」
こんな美女に詰め寄られるのは悪い気はしないが……
「なぜ君が幻のアイテム【石化の首飾り】を持っているんだ!?」
しまった! 首に【石化の首飾り】をぶら下げていたままだった……
オリビアさんは不審そうに僕を見る。
「君は……一体……?」
オリビアさんは興奮し僕に身を寄せる。僕もオリビアさんの胸の柔らかさを感じ興奮した。
生き延びられて……良かった!