表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白雪姫異聞  作者: でれすけ
3/5

第三幕 鏡の憂鬱

 第一章 第一の不条理


「不条理について、まず整理いたしましょう。

 第一の不条理。それは、わたくしがこの物語でヒロインではなく悪役令嬢であるということです。言い換えれば、ヒロインがおらず悪役令嬢しかいないという物語としての不自然性」

「そうなの?あなたのこれまで言ったことがすべて真実だとして、あなたは死にそうにはなっても結局、(変態でも)若くてハンサムな王子様と結婚してヒロイン物の様式美は踏襲するじゃない?

 また、あなたが誰かを苛めた要素もなければ、”ざまあ”されるイベントもないわ」

「”ノン”です。王妃。その認識は間違っています」


 白雪姫は人差し指を振って否定した。


「王妃が父王の後妻になったとき、聡明なわたくしは一目で王妃のナルシストぶりとその裏返しである深いコンプレックスに気づいてしまいました。なのに、聡明なはずのわたくしが後妻になったばかりで不安を感じている王妃に対してさんざんそのコンプレックスをいじり倒す真似をして非常に嫌われてしまいます。聡明なはずのわたくしが後々災厄を招くと十分に理解しているにもかかわらず、にです。

 つまり、わたくしは王妃から執念深く命を狙われる原因を自ら作ってしまう。

 物語の強制力かどうかは存じませんが、こうしてわたくしは意に反して”虐める“という悪役令嬢の役を演じてしまったのです。

 そして、”虐め”の報酬として3回の殺人未遂、ブラック企業も驚く小人たちのもとでの賃金無しパワハラつきの過酷な家事労働の強制(しかも幼女虐待)、毒リンゴによる窒息死、死体公開による辱め(小人たちの手によって白雪姫の死体はガラスケースに入れられる)、最後に変態王子との強制結婚などの数々の”ざまあ”を受けるのです」

「……考え過ぎじゃない?」

「今は反論しませんが、これだけは言っておきます。この不自然性は後で述べるすべての不条理と繋がっています。まるで裏にいる誰かに操られているように」


 口を閉じた白雪姫はつんと顎をそらし冷たい青い目で王妃を眺めた……。


 第二章 第二の不条理


「さて、第二の不条理は、王妃の抱く”美人である以外自分には価値がない”というコンプレックスについてです。

 王妃。なぜ、貴女は美人であることに拘るのですか?それも”世界で一番の美人である”ことに?」

「えっ?だって美人だったら異性にもてるし。社会では女性が美人であると、なにかとお得よ。簡単にマウントが取れるし。

 女性だったら美人でありたいと願うのは割と常識じゃないの?

 そんな価値のあるものにわたしが拘って何がおかしいのかしら?」

「わたくしはそんな経験的知識について質問しているのではありません。王妃は自らの依って立つものとして美人としての価値を選択しました。しかも、それは外観の美しさ。年をとれば必ず衰えるといううつろいやすい価値。魔女である王妃は特殊能力という固有の価値を持つにもかかわらず、これを選択せず、あえて破綻する価値を選択しました。貴女が破滅願望でも持っていないかぎりこの選択は不自然すぎます。

 王妃。貴女はなぜ美人であることに拘るのですか?答えてください」

「いや。わたしが美人であったからこそ国王から後妻に選ばれて王妃になれたわけで。わたしを現在、王妃足らしめているのは美人としての価値があったからといっても過言ではないはずよね?

 だったら、この選択も自然といえるのじゃないかしら」

「貴女が美人であることは父王を落とすための手段であったはず。王妃になってしまえば関係ないことです。

 貴女が王妃として権力を握りたかった、あるいは王妃としてぜいたくな生活を送りたかったなど、どんな願望を抱いていたのか、わたくしは知りません。しかし、とにかく貴女は王妃になりたかった。この場合、貴女が自己足らしめるべく選択すべきは”自分が王妃にふさわしい”という価値であったはずです。にもかかわらず、貴女は王妃になっても父王が死んでも”美人であること”の価値を選択し続けた。これは不自然です。どう考えてみても怪しい」

「……」

「王妃がこの不自然な価値の選択を繰り返さなければ、わたくしがいくら憎らし気に”世界一の美人がほかにいる可能性”をほのめかそうともコンプレックスを刺激したことにはならず、執拗な殺意を抱かれることもなかったはずです。この物語のほとんどの登場人物が不幸に陥るという結末になることもなかった(最後にちょこちょこと登場して白雪姫と結婚した王子だけは例外)。

 王妃が”美人であること”の価値を選択し続けたこと。これが破滅的な物語の結末を迎える因果のはじまり、だったわけです」

「……」


 沈黙している王妃がごくりと喉を鳴らし、その握った拳がわずかに震えた。


「第三の不条理とも関係しますが、王妃。貴女に”世界一の美人であり続けなければならない”と吹き込んだにはいったい誰なんですか?」

「”鏡”よ。わたしの秘蔵している”どんな質問にでも答える鏡”」

「そう。彼がすべての元凶なのです」


 白雪姫は深く肯き、簡素な椅子の上で足を組み替えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ