第一幕 猟師の反省
第一章
殺すに忍びなくなった猟師は顔を背け、黙って白雪姫に銅山がある方向を指さした。
「あなたはわたくしに見逃すから逃げろ、とおっしゃっているのかしら?」
「……姫は(死ぬには)若すぎる。おれにはどうしてもできない」
「解しかねますわ。あなた、もしかして頭が非常に悪い?それとも、過去にご家族との関係で深刻なトラウマでも抱えていらっしゃる?」
「えっ!どういうこと?」
「人間とは本来、自分本位な生き物のはず。自分の利益を第一に考えて不利益になることをなるべく避けるのが普通です。
あなたがわたくしを殺さず見逃せば、継母である王妃に制裁を加えられるのが必定。なぜ、リスクを冒してまでわたくしを助けようとするのですか?考えられるのは、あなたが計算もできない愚物か、それとも精神的に問題を抱えていらっしゃるかのどちらかですわ」
「えっ?おれ、善いことしようとしているのにディスられてる?」
「善いこと?誰にとって善いことなのですか?
人間の原則的行動から逸脱し、そのうえ、わたくしの計画を台無しにしたのに?」
「計画を台無しにした?」
「ええ。そうですわ。
本来ならあなたは人間の原則的行動として王妃の言いつけのままわたくしを殺害しようとして襲いかかったはず。そこをわたくしが正当防衛の形で反撃してあなたを殺害。ついで、城に乗り込んでわたくしの姿を王妃に見せつけて煽り、激情に駆られた王妃が襲いかかってくるのを同様に正当防衛の形で反撃してこれを殺害。
このようにしてわたくしは一連のわたくしと王妃との因縁に一気にけりをつけようと計画していたのですわ。
それをあなたは唐突に例外的行動に走り、わたくしの計画を何もかもメチャクチャにしたのです」
「えっ!?なんかごめん。
でも、その計画だとおれはお姫様に殺されていた!?」
「あら。わたくしの実力をお疑い?」
バキっ メリメリメリ ドサーンっ
白雪姫の掌底一発で近くにあった立派な樅ノ木の大木が中ほどからポキリと折れて音を立てて倒れた。
「わたくし、これでもメッチャカッコイイ派超絶ツヨイ流免許皆伝ですの」
「……ナニモイウコトハゴザイマセン」
「まあ、わたくしにもあなたの例外的行動を予見できなかったという落ち度があります。計画をとん挫させられた点は不問にいたしましょう。
それにしても、あなた、もしかして宗教的カルト集団かなにかの関係者ですか?
確かに利他行為は人々のあこがれの対象ですが、本当に実行する人なんてほとんどいませんよ」
「非常識でどうもすみません。うわ~ん!」