The End of the World 05/10
「さて。さてさてさて。こっちの手番になったけども」
傳が両手を開いて見せる。空っぽのジェスチャー。
晴れやかに作り物の笑みで、
「参った。お前に聞きたいこと、もうねえや。俺の負けー」
「は?」
堂々と嘘をついた。
意図が分からない。傳は伊月が嘘を看破できると確かめたばかりのはずで、つまりバレバレと分かっていながら嘘をついた。そこまでして、何故自分から負ける?
パチン、指を鳴らすと背後で開錠される音がした。
「何で」
「答える必要はねえな。もうゲームは終わったんだから」
つまり、そういうことか。
これは余興で、最初からまじめに勝敗を競うつもりはなかった。だから、聞かれて困る質問に行き当たる前に切り上げても惜しくはないのだ。
まさかこんな結末になるとは思わなかったが、譲られたとはいえ勝ちは勝ち、これで牧のもとに行けるからには文句もない。どうせ聞きたかったことも全部聞けたし───そう考えて、ふと一つ疑問が浮かぶのを口に出す。
「なんでこんなゲームをしたんだ?」
「それも答える必要はないんだが、そうさな───こういうことにしとこう。俺の祖父ちゃんの名前がお前と同じだったから、だ」
あまりにも適当な言い草に、伊月は再び笑ってしまった。
じゃあもう本当に、聞いておくべきことは何もない。
「じゃあな」
「ああ」
別れはあっさりと。
伊月は言及しないままに拳銃を懐に入れ、傳もそれを咎めることはしなかった。出し抜かれたことを認めているのか、それとも心底どうでもいいのかは心まで読まねば分からない。伊月にそこまでは不可能だ。
振り返ることなく屋上を後にすると非常階段を駆け下りてゆく。伊月の背中を見送った傳はそこでやっと封じられていた記憶を取り戻した。
伊月が行って独りになることが、記憶封鎖の解除条件だったのだ。
「……あー、さすがに悪辣すぎやしないかね? 我がことながら」
階下を見ながらばつが悪そうに頬をかく。
彼が自分で封じていたのはゲームのもう一つの目的、“伊月顕を足止めし儀式完遂の邪魔をさせないようにして、轟木懸の魔術の精度を観測しておきたかったから”という裏の思考だ。質問ゲームのルール上、知っていることは問われれば答えざるを得ない。だがそれは裏を返せば、知らなければ答えなくてよいということを意味する。お喋りな伏人傳が、自分自身の傾向を把握して予め打っておいた一手。忘れていなければそれを意識した会話運びになっていただろうから、結果的には大成功と言えよう。
何故って、もう儀式阻止には間に合わない。
あれだけ焚きつけておいて、その舌の根を湿らせるよりも前から仕込んでいた策謀にしかし伏人傳はどこまでも軽いリアクションだった。
彼にとっては儀式の成否などどこまでも他人事。
上っ面だけ反省して、上っ面だけ愉快そうに、観察する昆虫のような無機質さで、彼は脈動激する魔法陣を眺めている。
夜はまだ明けない。




