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Crackers:How to go  作者: 吉田一味
7話「The End of the World」
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The End of the World 03/10

「俺の質問は……そうだな、お前は誰だ? 伊月顕」


「……知ってたのか」


「質問してんのはこっちだぜ。さあほら、答えてくれよ」


「知ってることを聞くのはルール違反なんだろ?」


「名前だけさ、誰かは知らない。嘘じゃないぜ。俺を全知(・・)か何かと勘違いしてないか?」


 事実、伏人傳は知らない。彼が皆入樹を名乗った理由も、偽名のはずのその名前に聞き覚えがある理由も、いざ本腰を入れて調べればたやすくあばけるだろうにそうしていない。


 伊月は彼が嘘をついていないと分かるから大きく溜息をつく。拳銃を奪ってまでペースを握られたままなのは釈然しゃくぜんとしないが、この件については語るのが筋だと感じた。


「伊月顕が本名だよ。かと言って、皆入樹を偽名ってのは心情的にはばかられる」


「ってーと?」


「偽名じゃなくて芸名。昔……もう十年も前かな、子役やってたときに使ってたんだ」


 伏人傳はすぽん、といろいろな思考モノが抜け落ちた顔をした。


 そんな表情を見せるのは実に珍しいことだが、それも一瞬のこと。すぐにげらげらと満面の笑みを浮かべた。


「あっ、あー! そうかそうか、道理で! 聞き覚えがあるはずだよ、『無常の日』!」


 彼が挙げた題名タイトルは“皆入樹”がメインキャストを張った連続ドラマで、彼は主役の一人息子役を演じていた。視聴率的にも大好評のうちに幕を下ろした、と聞いた覚えがある。


「観てた観てた、はっは! あのこまっしゃくれたガキか! 大きくなったなァ!」


 十年前と言えば、当時の傳はそれこそ今の伊月と同年代だろう。男子高校生向けではなかったように記憶しているが、そういうこともあるだろうと彼はそこを掘り下げることはしなかった。


 納得がいったのか、一人げらげらと腹を抱えて笑っている傳。質問には答えただろうから、次は伊月が問う番だと考えてしまう時点で、“拳銃で言うことを聞かせる”という選択肢は完全に抜け落ちていた。


「次は……彼女を、奥入瀬牧を止める方法を教えてくれ」


「んー? 止める方法ねえ。ざっくり二つあるけど、まあどっちも教えてやるさ」


 ルールは守らないとな、と傳は言う。


「まず一つ。こっちは簡単な方法、そいつで撃っちまえ。ばっきゅーん。今それに装填そうてんされてんのは“撃てば必ず狙ったものに命中する”弾丸だ、お前がどんだけノーコンでも当たる」


 伊月の手の内の拳銃を指鉄砲のジェスチャーで指し示す。よくやるが癖なのだろうかと全く関係ないことを考える程度には、伊月にとって考慮に値しない方法だった。


 傳も論外扱いは予想済みだったのか、反応を待つこともせず次案に進む。


「もう一つは手間だぜ。牧の命題を果たせばいい。あの新生式が彼女の命題を果たすものであるからして、それを阻止したいってんなら代替手段で願いを叶えてやれば儀式は不要になる。だろう?」


 言っていることに筋は通っている。しかしだからこそ無理難題、それが可能ならば牧とて新生式などという大がかりな儀式を発動などしなかったろう。願えば叶う《クラッカーズ》が、新生式に頼らねばならないと諦めたことを、一体どうすれば伊月に叶えられるといのか。


 彼女の呪い。彼女の願い。


 生まれ変わる以外で、どうにかする手段などあるのか。


「───以上。次は俺の番だが、どうして伊月は嘘を嘘と分かる?」


「……よく気づいたな。《クラックワーク》とかで見抜いたのか」


 思案していた伊月はつい質問に質問で返して、ルール違反だろうが傳はそれに気づいてか気づかずか流す。


「馬ぁ鹿、そんなもん使わんでも観察してりゃ分かる。俺やあいつが嘘つけば毎度毎度反応して、そのくせ質の悪い冗談みたいな話でも嘘じゃなけりゃするっと信じる。よっぽど勘が鈍くなきゃ察してるって分からぁ。自分でフツーだと思ってたのか?」


「別に、大した理由じゃないぜ」


「いいから喋れよ。勿体ぶってんじゃねえ」


「……昔、子役やってた頃にさ。習ったんだ」


 ぽつぽつと昔語りをする。


 ───十年ほど前、一人の男がいた。


 名を榊野さかきのれいとして知られる彼は、ネット百科事典に個人でページを設けられている有名人だ。彼は約四年に渡って複数のテレビ番組に出演していたが、しかしネット百科事典では職業欄にタレントとも俳優とも記されていない。


 ただ、こうある。


 “詐欺師(・・・)”と。


 彼は詐称した経歴でテレビ番組に出たことを足がかりに、詐術と話術のみで芸能界に食い込んだ。自らの顔を全国ネットに晒してタレント業、俳優業に勤しんでいた彼は、ある日ふっつりと消息を絶ったとされる。楽屋に残されていた一枚の置き手紙には、曰く『嘘とバレたら、詐欺師はおしまい』とだけ記されていたという。それをきっかけに彼の経歴が洗い直されてみれば、出るわ出るわ、名前も経歴もその悉くが虚偽であった。調べてもどこの誰だったのか不明、筋金入りの大嘘吐きと判明した今では彼の出演している番組のほとんどはお蔵入りとなっている。


 嘘吐きの殿堂入り。


 『俳諧はいかい探偵あけび』というドラマで彼と共演した皆入樹は、彼に裏技をならったのだという。喋った言葉を聞き発した人の目を見れば、嘘か誠か一発で判別できるという詐術。


 実を言うと、これは榊野礼の持ちネタだった。これこれこうすると分かるんだよ~え~嘘でしょ~はははバレたか~と談話するためだけの話の種。彼にとって予想外だったのは、面白半分で伝授した少年が、あっさりとその神髄しんずいを掴んでしまったこと、だけではなかった。



 ───まさか坊主が俺の一番弟子とはな。教えてみるもんだ。


 ───うん、でもどうしてこんなこと知ってるの? 俳優なんでしょ、榊野さん。


 ───ああ、それはな……。


 ───やっぱり、嘘だ。


 ───あ?


 ───榊野礼さん。俳優。だよね。


 ───ああ。


 ───それ、嘘だよ。嘘をついてる。


 ───そうかあ、本当に坊主は見抜いたんだなあ。


 ───榊野さんは、誰なの?

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