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すみれの幸せ  作者: 彩夜
1/3

1。記憶と入院。

 あ、私転生してたんだ。

 そう気づいたのは3歳の暑い夏の日だった。


 私は七瀬 純恋(ななせ すみれ)。歳は先月6歳になった。

 3歳のあの日、どうやら私はお手伝いの杏さんがつけていた香水の匂いで前世の記憶を思い出した。

 最近TVで知ったがどうやら人間は特定の匂いで記憶や感情を呼び起こすこと、いわゆるプルースト効果があるらしく、私の場合は杏さんが身嗜みにつけていた金木犀の香水が前世の記憶を呼び起こすきっかけになったらしい。

 前世と言っても殆どが穴空きで、はっきりしているのは自分の前世の名前と楽しかったことへの感情だけだった。本を読んだり絵を描いたり、お芝居や映画なんかを見るのが楽しかったというあたり前世の『菫』(奇しくも前世の私の名前も『すみれ』だった)はインドア派だったらしい。

 対人関係はあまり芳しくなかったらしく強く記憶に残ることはなかったようだ。家族は母親と妹がいたみたいな記憶はあるが、いざ二人の名前を思い出そうとしても靄がかかったような感じで、ただ蔑んだ目と嘲笑を含んだ目をしていたのが思い出されるからあまりいい関係ではなかったのだろう。

 さて、前世の『菫』の記憶を見て今世の『純恋』が思ったこと、それは。


「前世の私と今世の私、殆ど変わりがないなぁ……」


であった。

 3歳のあの日思い出した時はそのまま熱で倒れて脳内は前世と今世の記憶でゴチャゴチャしており、ようやく自分の中で折り合いをつけられたのは半年ほど前のことであった。3年近くかかっているが、まぁ幼児の脳が小さすぎて処理しきれなかったのだろう。ずっと熱は下がらない、頭は痛いわ苦しいわの原因不明の病扱いでそのままずっと入院し続け半年ほど前に落ち着いて2ヶ月前にようやく退院したのだった。

 その間両親が見舞いに来てくれたことはなく、来たのはおそらく両親たちの祖父母であろう二人が二組来たのとお手伝いの杏さん、それからよくわからないスーツを着た大人が何度か退院間近に何度か来てくれただけであった。前世と同じく私は家族関係も対人関係もよくないらしい。

 入院のせいで幼稚園にも行けなかったので友人らしい友人もできず、院内学級はあるが幼児クラスがない病院だったため、交流らしい交流といえば隣の部屋に一時だけ入院していた2つか3つほど年上の人(失礼だが記憶が落ち着いたばかりの時期でまず自分の周囲を確認するのに必死だったために名前も性別も覚えていない)が暇つぶしに話しかけに来ていたくらいだった。

 趣味と呼べそうなものも入院中は何も出来なかったので退院間近になって始めたお絵かきと読書、あとはTVを見てるくらいだった。

 記憶と折り合いをつけた今の自分は今世の『純恋』の人格に前世の『菫』の知識と経験が備わった、少々大人びた幼児で、前世の記憶に関してはドラマを見ているような感覚で自分によく似た別人くらいにしか思えなかった。

 ただ、前世の知識のおかげで誰に教わらなくても、文字が読めたりお箸や鉛筆が持つことが出来る、そういう基礎知識があるのはありがたかった。お医者さんやナースさんが驚いていた気もするがTVを見ているのに気づくと「TVで見て覚えたのね」みたいなことを言われるので特に怪しまれることは無かったと思う。

 杏さんについて経過見の一時退院で初めて病院を出た日、私はそこで初めて自分のフルネームを知ったのだった。

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