8話 再スタート
俺たちはダンジョンタワーの1階奥にある石板前に来ていた。これに触れるだけでダンジョンの1階層に転送されるという便利な仕組みなんだ。
「いやー、リューイ氏、サラ、アシュリーさん、ワドル君、実に楽しみですね!」
「ああ……」
「ホントー! わくわくっ」
「まったくですぅ」
「おで、ドキドキだぁ……」
100階層まで攻略したことのある身としては、みんなのはしゃぎっぷりが新鮮だった。俺もかつてはこんな感じで浮かれてた気がする。
ただ、ダンジョンの各階層の基本的な構造は変わらなくても、一日ごとに地形が変わる仕組みだからまた新たな気持ちで臨めることも確かだ。
まもなく視界が徐々に別物に移り変わり、周囲が暗い緑色に染まっていく。そうだった、今思い出したが、ダンジョンタワーの1階は山の中だったんだ。
そこが塔の中とは思えないほど、険しい山の奥に自分たちは立っていた。出発した時間帯もまだ朝方というだけあってダンジョンもかなり薄暗く、不気味な雰囲気をこれでもかと発していた。
「「「「「……」」」」」」
みんなかなり緊張した様子で周囲を見回してる。まあ初めてなんだから無理もない。
「――あ、あ、あ、あれ……!」
ワドルが青い顔で指差したのは近くにある茂みで、そこから無数の目が光ってるのがわかった。
「モ、モンスターのようですね……」
「こ、怖いですうぅ……」
「ああん、サラ怖いよお……」
「お、おでもだあぁ……ひぐっ……」
「あはは……」
みんなビビりまくって俺の後ろに隠れちゃってるし。ここのモンスターなら全然大丈夫なのに。ただ、俺だけでなんとかするっていうのもパーティーとしてはどうなのかと思うし、少し動かしてやるか。
「おい、何やってんだ、ウスノロワドル! 怖がってないでさっさとタンク役をやれ!」
「何い!? ハッハッハ! リューイめ、誰がウスノロだというのだ! モンスターなど微塵も怖くはないわ! みんな、俺様のあとについてこい!」
よし、ワドルが盾を持って猛然と茂みへと突っ込んでいったかと思うと、まもなくモンスターたちが一斉に姿を現わした。
『『『『『フゴー……!』』』』』
毛を逆立てたミミクリーボアの集団だ。普通の猪より一回り体が大きく、隠れた場所に合わせて体色を変えることができるが、こっちから攻撃しない限り襲ってこないノンアクティブモンスターでもある。
ただ、一匹に攻撃すると集団で一斉に向かってくるから迂闊に手を出すと大怪我をしてしまうので充分な注意が必要だ。
「雑魚ども、来いっ!」
そんな状況下でワドルが躊躇なくモンスターに攻撃し、一斉にたかられてしまった。
「ハッハッハ! 痛くも痒くもないわっ!」
さすが、無尽蔵の体力を持ってるだけあって彼は四方から体当たりを食らっても普通に耐えていた。
これは凄い……。一匹の体当たりを受けただけでもベテランっぽい騎士や戦士等、タンク役が顔をしかめて後退する場面を見たことがあるわけだが、ワドルは余裕綽々の様子で一切その場を動かない。
ここまで楽々というのは、エリート揃いの元パーティーでも考えられなかったことだ……って、いくらそうだからって高みの見物してる場合じゃないな。加勢しなくては。
「みんな、ワドルが壁役をやってる今のうちに倒そう!」
「あ、そうでした、行きましょう!」
「うん!」
「はわわ、そんなの無理ですぅ……」
「はいはい、アシュリー追放追放」
「はあぁ? 追放!? ふざけんじゃねえですぅぅぅぅ!」
シグ、サラ、アシュリーがそれぞれナイフ、両手斧、メイスを手にミミクリーボアを打ちのめしていく。バフも使ったのがわかって、俺はそれを維持するべくコーティング薬を投げた。
ここのモンスターは最初に攻撃してきた対象をずっと標的にするから安全に攻撃できるし、壁役の体力がものを言うといってもよかった。近くで新たに出現したボアも同様にワドルへと向かっていくが、バフの維持が功を奏したのかさくさく倒せるので気持ちよかった。
「ハッハッハ! どんどん来い! 愚か者どもめっ!」
1階層だとかなりの数のモンスターを倒さないとボス部屋には行けないわけだが、この分ならそんなに時間はかからなさそうだな。
俺も特製回復ポーションをたまにワドルに投げるだけじゃなく、モンスターに向かってお試し程度に例の劇薬を投げてみたが、相手がそんなに強いわけでもないせいか全然効いてない様子だった。
初めて行ったときは無心で投げまくってたんだっけか。思えばその頃から元パーティーメンバーには舐められてたんだろうなあ。