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5話 未踏の領域


 メンバーの特徴が大体わかってきたので、俺は夕食後に彼らの能力を生かすべく、新たな薬を開発することにした。


 こんな短い間なのに、自分が彼らの仲間になるということにいつしか抵抗感がなくなってることが凄く不思議で、元から仲間だったんじゃないかとそういう錯覚に囚われるほど打ち解けていた。


 まず、サラの商人としての特殊な手芸を生かすべく、俺は小人化できる薬の開発を始めた。現実的なものを創造できる商人と違って、錬金術師は非現実的なものを作ることを得意とする。


 特に俺の場合、威力を上げるつもりで開発に挑んだ例の劇薬がああいう形で評価されるようになったのも、他人とはまったく違った独創的な手段を用いたためだろう。


 小人化する薬を作るには、まず人の形をしているだけの簡易で小さな人形をイメージする。それが目と口を持ち、少しずつ本物の人間の姿になっていくところを想像する。


 こんな感じで、空想の中で人型の粘土を弄って現実のものへと近付けていく。性格や髪質、目の色、癖、指の形、過去なんかも細かく決めて、あたかもそこに魂が宿っているかのように徹底的に錯覚させる。


 そうしたら、それをイメージしながら息を大きく吸い、夢想種の入った試験管に吐き出し、蓋をする。この夢想種はホムンクルスの材料にもなるもので、生命の種とも呼ばれるものだ。


 イメージという肥料を与えたこの輝く種を植え付けられたものは、またたく間に人形のようなサイズになる。よし、種子がぴくりと動いたから完成だ。あとはこの種を人数分培養するだけでいい。


「――サラ、例のやつはできた?」


「あ、うん! できたよー!」


「おおっ……」


 小さな家を作ってほしいとサラに頼んであったんだが、出来栄えは本当に見事なものだった。一階建てのほのぼのとした家で、窓から覗いてみても外見だけじゃなく、中身も相当に作り込んであることがわかる。しかも短時間でこれだから、あっぱれとしか言いようがない。


「凄いなあ……」


「えへへ……リューイさんに褒められちゃった。サラが記憶したものしか作れないけどねっ」


「ってことは、モデルが……?」


「うん。おばあちゃんが住んでた家を参考にしてあるんだー」


「なるほど……」


 軒下の縁側で庭を見ながらぼんやりとお茶を飲むおばあさんの姿を容易に想像することができた。


「それじゃ、早速中に入ってみようか?」


「うん……って、ええっ!?」


 サラが唖然とした顔になるのも無理はない。ここに入れるなんて思いもしないだろうが、そうするために俺は小人化の薬を開発したんだ。今後何かの役に立ちそうな気がしたからな。


「さあ、一気飲みしてみて」


「う、うん……」


 サラは不安そうな顔で目を瞑りながらも飲んでくれた。しばらくして、彼女の体が見る見る小さくなっていくのがわかる。さあ、次は俺だ。こうした薬に耐性がある場合何も起きない可能性があるので、その場合もっと強い薬を与えることになるから俺だけ先に飲むわけにもいかなかったんだ。


 よしよし、景色が一気に広がっていく感覚とともに俺の体はどんどん小さくなっていった。事前に計算した通り、サイズ的にもちょうどサラの作った家に合っている。


「す、凄いっ……!」


 サラが興奮した様子で家の中に飛び込んでいく。自分の作った家に入れるわけだからその気持ちはよくわかる。俺もあとを追ってみると、中は至って普通の家という感じで、自分が小さくなっていることを忘れそうになるほどだった。


 それにしても本当によく作り込んであって本物となんら変わらないな……っと、サラはどこに行ったんだろうかと思って探してみると、軒下の縁側に座って足をバタバタさせていた。なんというか、外は異空間が広がってるみたいだな。テントの中だからしょうがないが……。


「――あ、リューイさん、本当に凄いよ、こんな薬を発明するなんて……!」


「サラこそ、こんな精巧な家中々作れないよ」


「リューイさん……大好きっ!」


「あ……」


 サラに感激した様子で抱き付かれてしまった。二人きりなだけになんとも気まずい。で、でも嬉しくて反射的に抱き付いてきただけだろうし――


「――リューイさんは、サラのこと嫌い……?」


「えっ……いや、それは、嫌いなわけ……」


「よかった。それなら……」


「……」


 この子なんで俺を見上げて目を瞑ってるんだ? こういう状況って、やっぱりキスしてあげないと失礼、だよな……って、体がどんどん大きくなってる。そうだった、試験用だからすぐ戻るようにしてあったんだ。


「は、早く外に!」


「え、えぇ!?」


 サラを引っ張り、なるべく家から遠ざかっていくと、まもなくそれまでいた家が足元に来るほど体が成長し、元の大きさに戻った。あー、色んな意味で危なかった……。

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