31話 深淵
「「「「「はぁ……」」」」」
100階層にある大広間のテント内、ウォーレンたちは悲壮な空気に包まれていた。
彼らはボロボロになりながら帰還したのち、自分たちが最速で攻略した100階層のボス部屋へ行きタイムアタックにチャレンジしてみたわけだが、あえなく平凡なタイムに終わったからだ。
「どうして、どうしてこんなことに……」
「あれだよ、ウォーレン……みんな疲れが溜まってたんじゃないのかい?」
「そ、そうだよ、ウォーレン。ここに来たときはもう、みんなくたくただったんだし……」
「そーそー、結果出さなきゃっていう焦りもあったと思うし、少し休めば大丈夫だって! な? レビーナちゃん」
「ですねっ。カイルさんの仰る通りだと思います……」
「……」
半ばあきらめたようなムードが漂う中、ウォーレンだけは納得がいかない様子でしきりに首を横に振っていたが、まもなくはっとした顔になった。
(考えたくないけど、やっぱりあの男がいないからなのか……? リューイが本当は有能だったとか……? いや、ダメだ。それだけは認められない……!)
両手で頭を抱えて震え始めるウォーレン。
「ウォーレン? どうしたんだい?」
「どうしたの、ウォーレン?」
「おい、どうしたんだよウォーレン」
「リーダーさん……?」
心配そうにウォーレンに声をかけるパーティーメンバーだったが、彼には一切届いていない様子だった。
(あいつは無能だ、お荷物だ。メンバーの意見だって全員一致したから排除したんだ。こんなの偶然だ。焦りも疲れもあったし運も悪かったに違いない。次は必ず上手くいくはず。昔から僕の計算は完璧だったし、間違いなんて絶対にない、あるはずがないんだあぁ……!)
◇◇◇
「あー、ここだったか……」
「いやー、今までとは一味違って雰囲気たっぷりですねぇ」
「いかにもって感じぃ」
「あうぅ、暗いですぅ」
「お、おで怖い……」
みんなと思いっ切り砂浜で楽しんだあと、俺たちはそれまでの場所とはあまりにも対照的な4階層のマップへ来ていた。
仄かな灯りを精製するコケが生えた薄暗い洞窟で、時折水滴の音がしたり不気味な羽音がしたりと、これでもかと恐怖を演出していた。今までが山、草原、ビーチと屋外が続いていただけに、ようやくダンジョンらしくなってきたってところか。
実際、ここからのマップは色んな属性の洞窟シリーズが続くことになるんだ。この4階層のマップはまだ始まりってことでなんの変哲もない無属性の洞窟だが、雰囲気はばっちりなせいかみんな緊張してる様子できょろきょろと周囲を窺っていた。
ここには蝙蝠型モンスターのドレインブローのみが出てくるんだが、近寄るだけで体力を奪うというパッシブスキルを持ち、さらに数の暴力で襲ってくるので注意が必要だ。
それだけあってボス部屋まで行くには膨大な数の蝙蝠を倒さなきゃいけないわけで、そのためには手っ取り早くあの方法を使うべきだろう。
「ウスノロ! さっさとタンク役を果たしてこいっ! モンスターを集めるんだ。アシュリーもとっととバフをかけろ、追放するぞ!?」
「な、何っ!? 俺様がウスノロだと!? ハッハッハ! 俺様はなァ、闇よりも深い深淵の騎士ワドル様だぞ!? これしきのことお安い御用だああぁぁぁっ!」
「はあぁ!? 追放追放うるせえです! 追放されんのはてめえの脳みそくらいにしときやがれですううぅぅぅっ!」
アシュリーのバフがかかったワドルが物凄い勢いで走っていき、やがて大量の羽音を引き連れて戻ってきた。
「――ハッハッハ! どうだ、ほれみたことか! さあ早く倒すがいいわ! 下民どもおおぉぉぉっ……!」
「オラオラッ! とっとと美味しくいただきやがれですううううぅっ!」
「本当に役に立つ呪文だなあ」
「いやー、まったくですねえ」
「だねっ」
俺たちは爽やかに笑い合ったあと、早速モンスターの大盛りを堪能することにした……。