30話 絵
「こ、これは……」
「いやー、実に素晴らしいですねえ」
「別物みたーい!」
「はわわ、素敵ですうぅ!」
「お、おで、感動……」
腰高の草原の南に設置した箱庭のビーチは、俺たちに想像以上の感動を与えてくれるものだった。
うーむ……作り物とはいえ、誰もいない、踏み込んだ形跡すらない真っ新なビーチというのはこんなにも絵になるものなのか――
「――ちょっと、これは一体どういうことなのっ!?」
「お、お嬢様、お待ちをっ!」
「「「「「あっ……」」」」」
振り返ると、ちょうどルディとクレアが駆けつけてくるところだった。あちゃあ、あの様子だとスルーされたと思って相当怒ってるっぽい。まずは彼女たちのところに行ってここに連れて来るべきだったな。どうしてもビーチのほうを見てみたくて最初にこっちに来てしまったんだ。
「わ、悪いな、ルディ。今からそっちに行くところだったんだが……」
「えっ、リューイ様は何を言ってるの?」
「え?」
「あたしはね、リューイ様にじゃなくてクレアに怒ってるの!」
「えぇ……?」
「だって、山と草原の次にあんなに素敵なマップを持ってきたってことは、あれが3階層だったんでしょ?」
「あ、ああ……」
「だったらクレア、なんでそこまであたしを行かせなかったの!?」
「も、申し訳ありません、お嬢様……」
なるほど。あのビーチはいかにも平和そうなマップだし、だったらなんでそこまで行かせなかったんだって言いたいんだろうな。
「なんせ沢山の冒険者が来る場所ですし、お嬢様がもし水着を着てお遊びになられるようなことがあれば、それこそお嬢様の卑猥な……いえっ、大事な素肌を多くの目に晒すことになりますので――」
「――ビーチなんだから素肌を晒すのは当然でしょっ! ほら、ご覧なさい!」
「「「おおっ……!」」」
俺、シグ、ワドルの男性陣の上擦った声が被ってしまった。ルディが急に服を脱いだかと思うと、それまでの魔術師の姿以上に超ハイレグな水着姿になったからだ。
「あわわ……いけません、お嬢様っ……!」
「「「なっ!?」」」
またしても俺たち男組の声が同時に飛ぶのも仕方ない話で、クレアがメイド服を脱いだかと思うとルディ並みか、それ以上に露出の大きい水着姿が露になったからだ。
「な、なんでクレアがあたしより目立ってんのよ!」
「わ、わたくしめが注目されることにより、お嬢様への被害を少なくするためですっ!」
「ただ見せたいだけでしょ! クレアの変態!」
「そ、そんなっ! 違いますってばー!」
「……」
よし、この辺で色んな意味でも流れを変えるか。さすがにこんな光景をいつまでも見てたら目に毒だからな。
「ウスノロワドル! アシュリー、ビーチに追放するぞ!」
「ウ、ウスノロだと!?」
「は!? 追放しやがるですって!?」
俺の台詞に対し、ワドルとアシュリーから大量の殺気が放出されるのがわかった。ルディたちも黙り込んだし、こりゃ相当なもんだ。
「うおおおおぉぉぉっ! 俺様だけの砂浜あああああぁぁぁっ!」
「はああ!? 私のに決まってやがるですううううぅぅぅっ!」
「ちょっと、待ちなさいよ! あたしとリューイ様のだけのものよ!」
「お、お嬢様っ! 勝手に行ってしまったら溺れてしまう危険性がありますっ!」
「……」
ルディとクレアの勢いもワドルとアシュリーに全然負けてなかった。
「サラも負けないもんっ!」
「僕も負けませんよ!」
シュバルト兄妹も負けじとビーチへ走っていく。ってか、みんないつの間にか水着姿なんだな。こりゃ俺も負けてられない。
「サモン・ホムンクルス!」
俺は素早く水着姿に着替えると、手元に呼び戻した竜巻型のホムンクルスに命令し、強風でビーチまで飛ばしてもらうことにした。
「うああああぁぁぁぁっ……!」
それがあまりにも強力で、俺の体は異次元ホールを飛び越える勢いで高々と舞い上がり、みんなから注目されつつ少しずつ降下していき始めた。
ここからビーチどころか箱庭全体を見渡せるし、なんだか創造主にでもなった気分だな。怪我の功名だが、意外とこういうのも悪くない……。