29話 巻き添え
周囲の景色がビーチから完全に変化し、俺たちの前には4階層への石板があった。サービスステージとはいえ、まさかこうも早く攻略できるなんてなあ。今頃3階層を映すボスルームパネルの前じゃ、俺たちの雄姿が注目されてるかもしれない。
「いやー、リューイ氏には正直惚れそうになりましたよ。僕は男ではありますがねぇ……」
「あはは……」
シグも冗談きついな。
「じゃあお兄ちゃんも女の子になっちゃえば!?」
「「えっ」」
サラの突拍子もない提案に俺とシグの声が被る。
「はうぅ、それはいい考えですねえ。リューイさんにそういう薬でも開発してもらえばいいんですう」
「では、リューイ氏にいっちょ発明してもらいましょうかねえ?」
「おいおい……」
「お、おでも女の子になりたい……」
「おいおい、おいおい……」
性転換の薬かあ。何かの役に立つなら発明してもいいが……っと、妙な空気に巻き込まれつつあるので、完全に取り込まれる前に流れを変えなければ。ちょうどいい話題もあるし。
「ところでサラ、例のやつは完成した?」
「あ、うんっ、テントの中で頑張ったよ。どお?」
「「「「おおっ……!」」」」
俺たちの驚嘆の声が重なるのも無理はなかった。
サラの作った、指に乗るサイズのミニチュアなビーチを覗いてみたわけだが、砂浜には極小の貝殻までちゃんとあって、青い海からは潮の匂いまでしてくるという完璧具合だったんだ。最早ここまで来ると、サラの手には神様が宿ってるんじゃないかと思えるレベルだ。
早速異次元ホールを出し、ビーチを草原の横に設置してやると、小人化して中に入ることにした。ルディたちの反応といい、どんな具合になってるのか今から楽しみだな。
◇◇◇
「「「「「はぁ、はぁぁ……」」」」」
螺旋階段を下り始めたウォーレンら一行だったが、102階層まで下りてきたところでヘトヘトになった様子で立ち止まった。
「たった一階下りただけなのに、あまりにも長すぎる……」
「誰が作ったのか知らないけどさ、馬鹿げた長さにしたもんだよ、まったく……」
「本当、死にそう……」
「体力以前に足がおかしくなりそうだぜ……」
「私も限界が近付いてます……」
「「「「「はあ……」」」」」
101階層へと続く捻じ曲がった階段を見下ろして溜息をつくウォーレンたち。
「というか姉さん、スピードアップのバフが切れてるんだけど……?」
「しょうがないじゃないの、ウォーレン。欠かさずやったら精神的に消耗が激しいから、ある程度節約しないといけないんだよ――」
「――他人には厳しいくせに、随分とご自分には甘いんですね」
「なっ、なんですって……?」
信じられないといった表情で声の主のほうを見るセシアだったが、自分に向けられたレビーナの鋭い眼差しが途切れることはなかった。
「レビーナ、もう一度言ってみなさい。タダじゃ済まさないわよ……」
「では遠慮なくもう一度言わせていただきます。随分とご自分には甘いんですねっ、セシアさん――」
「――レビーナアァッ!」
目をカッと見開いてレビーナに掴みかかるセシア。
「ちょ、姉さんやめなって! カイルとアリーシャも止めるの手伝ってくれっ……!」
「「……」」
ウォーレンに促され、カイルとアリーシャが渋々止めようとしたものの、二人のあまりの剣幕に躊躇した様子で踏みとどまる。
「カイル? アリーシャ?」
「……だりいよ、もう。この二人きりがねえし……」
「……そうだよ。私も、疲れ果てちゃってるもん……」
「くっ……」
いかにも無念そうに天を仰ぐウォーレン。
「「このぉっ……!」」
「ね、姉さん! レビーナもいい加減に――はっ……」
ウォーレンはまもなく気付いた。セシアとレビーナを一人で制止しようとして足を踏み外し、バランスを大きく崩してしまったことに。勢い余って二人だけでなく、その後ろにいるカイルとアリーシャも巻き込もうとしているということに……。
「「「「「――うわああああぁぁぁぁっ!」」」」」
ウォーレンたちは勢いよく螺旋階段を転がり落ちていくのだった……。




