24話 纏まり
「――はぁ、はぁ……レッド……ウォールッ……」
『ヒヒーン!』
102階層の第二マップである砂の塔にて、魔術師ウォーレンが血眼になりながらも炎の壁を捻り出し、目前に迫った馬型モンスター、ナイトメアを倒した――はずだった。
「くっ!?」
かろうじて生き残ったナイトメアに体当たりされそうになるも、なんとか威力の低い無詠唱のファイヤーボールを浴びせて倒すウォーレン。
「こ、こんなはずじゃ……。計算とは違う。姉さん……魔力を上げるバフ、切れてたみたいだけど……?」
「ん、あら、そうかい。そいつは悪かったねぇ。けどさウォーレン、あんたにはクローズバリアもあるし平気だろ。それに、戦闘の真っただ中だっていうのに居眠りをしてるそいつよりはマシじゃないかい……?」
「あ、すみません。私、眠くって。ふわあ……」
「……」
補助術師セシアと錬金術師レビーナの腑抜けた様子に、ウォーレンがしばし呆然とした様子だったが、まもなく我に返った様子で首を横に振った。
「そ、そうか。それなら仕方ないね。姉さんはちょっと迂闊だっただけだし、ナイトメアには近付いた相手を眠くさせるパッシブスキルがあるし、時間帯的にも眠くなるのもしょうがない。でもさ……そこは命がかかってるダンジョンなんだからしっかりしないと! アリーシャも、ちゃんとリカバリーしてくれないかな?」
「あ! ウォーレン、ごめーん。私、ヒールで精神力を使い果たしちゃったみたいでそんな余裕なくってえ……」
塔の壁を背にした回復術師のアリーシャが杖を抱くようにして座り込む。
「……そ、そうだったんだね。それとカイル、少しは僕の援護射撃をしてくれてもいいんじゃ?」
「あ、わりーわりー。なんせ俺って今まで属性短剣投げすぎて破産寸前なもんで、ちょっとケチっちゃってよぉ……」
属性短剣を後ろに隠し、気まずそうに笑う盗賊カイル。
「ぐぐっ……」
ウォーレンはしばらく無念そうに下を向いていたが、まもなく鋭い双眸で宙を睨みつけた。
「う……うおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!」
「「「「――ッ!?」」」」
ウォーレンが突如大声を発しながら階段を駆け上がり出したために、メンバーはいずれも驚愕した表情を見せる。砂漠の塔は眠りの塔とも呼ばれ、ここで大きな物音、声を出すことは塔で暮らすモンスター、ナイトメアたちを強く刺激し、大量に出現させるということを意味していたからだ。
『『『『『ヒヒーンッ……!』』』』』
「……リ、リカバ、リー、を――」
大量のモンスターを引き連れて舞い戻ってきたウォーレンだったが、振り返る途中で眠ってしまった。
「――リカバリーッ!」
「……レッドウォール……」
アリーシャが慌てた様子でリカバリーをかけたことで、目覚めたウォーレンが赤い壁を設置すると、ナイトメアの塊はあっという間に砕け散っていき、周囲の景色が見る見る別物へと変化を遂げていく。
「ウォーレン……あんた、なんてことするのさ!」
ウォーレンの頬を張る姉セシアの目元には涙が滲んでいたが、弟の顔には晴れやかな笑顔が浮かんでいた。
「姉さん……これくらいじゃ僕は絶対に死なないよ。それに、見せたかったんだ。とことん疲れてモチベーションを失いつつあるみんなに、僕の怒っている姿を……。無能のお荷物だったリューイを追放し、レビーナを迎え入れて『ボスキラー』から『トゥルーボスキラー』へと進化したパーティーの力はこんなもんじゃないってことを……」
「ウォーレン、あんたがそこまで考えてたなんてね。あたしが悪かったよ……」
「ウォーレン、凄いよ。よく頑張ったね……ぐすっ……」
「さすが俺たちのリーダーだぜ! マジで半端ねえって!」
「ウォーレンさん……本当に、素晴らしいです。へこたれていた自分が恥ずかしくなりましたっ……」
「今度こそ、僕たちの真の力を見せてやろう!」
「「「「おおっ!」」」」
まもなく周囲の景色が完全に塔からボス部屋へと移行する中、ウォーレンたちの気持ちも一つに纏まろうとしていた……。