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23話 想起


「「「「「――はぁ、はぁ……」」」」」


 ダンジョンタワー、102階層にて、ようやく第二マップの塔に到着したウォーレンらのパーティー。既に砂漠は闇色に染まっていた。


「や、やっと着いた……。さあ、みんな中に入ろう――」


 道中、砂の中から執拗に襲い掛かってくる人型モンスター、サンドマンと戦ってきたこともあり、メンバーは疲れ切った様子だったものの渋々といった様子で塔の中へ入っていくが、錬金術師のレビーナがその寸前で一人だけ立ち止まることになった。


「――もう、限界です。少しだけでいいので休ませてください……」


「レ、レビーナ、ボスを倒したらたっぷり休憩できるんだし、そこまでの我慢――」


「――ウォーレン、以前も言ったと思うけど、この子には口で言ってもわかりゃしないよ。あたしに任せなっ……!」


「うっ!?」


 パン、と鋭い音が響き渡る。補助術師セシアがレビーナの頬を張ったのだ。


「ちょっ、セシアちゃんやりすぎだってばよ!」


「そ、そうだよ、セシアさんっ」


「お黙り! あたしが教育してやってるんだから、カイルもアリーシャも口を挟まないで頂戴っ!」


「もっとやればいいじゃないですか、セシアさん。気の済むまで」


「「「「えっ……」」」」


 レビーナの微笑を添えた台詞に青ざめるウォーレンたち。


「っていうか、これじゃまるで奴隷みたいですよね。どこがエリートパーティーなんですか?『ボスキラー』と呼ばれている割りに倒すのは遅いし、雰囲気も悪い。おまけに休めない。完全にブラックじゃないですか……」


「な、なんて生意気で我儘な子なの……。みんな、今の聞いた? あたし、あまりにもおぞましくて吐き気まで催してきたわ。お望み通り教育――」


「――姉さん、もうやめてくれっ!」


 セシアが振り上げた手をウォーレンが後ろから掴んだ。


「はっ、離しなさい、ウォーレン! 罰を、罰を与えるのよっ!」


「いい加減、やめてくれって! 折角塔に着いたんだから……。ね? 頼むよ、姉さん」


「ふ、ふざけないで頂戴! ウォーレン……いくら弟の説得でも今回ばかりは絶対に引かないわよ! そもそも、あんたが新人をここまで甘やかしたのが原因でしょ!」


「くっ……それなら僕も言わせてもらうけど、さすがに姉さんは口が悪すぎるよ。それも新人に対して。前からそうだったけど、それが雰囲気を悪くする理由だってなんで理解しない――」


「――ああもう、うるさいうるさい! 正論を言ってるだけで雰囲気が悪くなる? あっそう、じゃあ勝手にしなさい! こっちも、これからは補助なんて適当にやらせてもらうからさ!」


「ね、姉さん……」


 癇癪を起こした様子の姉セシアに対し、助け船を求めるかのようにウォーレンがカイルやアリーシャのほうを見るも、触らぬ神に祟りなしとばかりに勢いよく目を逸らされてしまい溜息をついた。


(多分、姉さんは日常的に毒を吐けないことでストレスが溜まってたんだ。こんなときにリューイがいれば避雷針になってくれたのに……っていうか、あいつがいなくなってからボス戦で調子が悪くなったような……? ま、まさか……)


 とある可能性が浮かんできてはっとした顔になるウォーレンだったが、それを掻き消すかのように何度も首を横に振る。


(い、いや、違う。あいつは間違いなくどうしようもない役立たずだ。無能で僕にアリーシャを寝取られる間抜けなリューイなんていないほうがマシなはずなんだ。僕の完璧な人生に汚点は一つも許されない。大丈夫、大丈夫だ。次のボス戦で、必ず『トゥルーボスキラー』としての実力を発揮してみせる……)




 ◇◇◇




「さあ、次は3階層だ!」


「「「「おおっ!」」」」


 朝の時間帯になり異次元ホールから出てきた俺たちは、早速次の階層へと足を踏み入れようとしていた。


 俺自身、ウォーレンをリーダーとするパーティー『ボスキラー』の一人として100階層まで攻略したことはあるが、正直この辺の低階層に関しては記憶が薄れてて入るまでわからないので、個人的にも新鮮な気持ちで挑むことができる。


 みんなで石板に触れたあと、見る見る景色が変わっていく。さて、どんな階層だっけか――


「――こ、ここは……」


「「「「えぇっ!?」」」」


 3階層を目の当たりにしたシグたちが驚くのも無理はない。そうだ、思い出した。ここは最高に特別なステージだったんだ……。

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