13話 雲泥の差
「「「「「おおっ」」」」」
俺たちの驚いた声が被るのも仕方ない話で、異次元ホール内に小人化して入った結果、そこが箱庭の世界とは到底思えないほどリアルな光景を目にすることとなった。
漆黒の空から満月が覗く山の中、目の前にはサラのおばあちゃんの家が鎮座していたのだ。
例の山小屋があった位置に設置したわけだが、思ったよりずっといい味を出してて、あたかも遠い故郷に帰ったかのようだった。もちろん異次元ホールに空なんてあるはずもなく、あれは特製の錯覚レンズによって作り出した幻で、時間が経てば青空や太陽が見えるように細工してある。
「――ちょっと、遅かったじゃないの、リューイ様、おかえりなさいっ!」
「あ、ああ、ルディ、ただいま……」
勢いよく開かれた扉から俺の胸に飛び込んできたのはお嬢様ルディで、目元には薄らと涙すら浮かんでいた……って、この状況はなんだ?
「……」
窓からメイドさんのクレアの目が怪しく光ってるし、後ろからも棘のある視線が突き刺さってきて、俺はしばらく冷や汗をかくことしかできなかった。これじゃ、なんか二人だけの世界を作り出してる痛い人みたいな扱いになっちゃうじゃないか。早く、早くこの空気を変えなければ……。
「ずっと、ずっと待ってたんだからねっ、ふん……!」
「あ、そ、そうだ、ルディ、俺の仲間たちも帰還したんだし、挨拶くらいしたほうが……」
「あら、そうだったわね」
お、ルディが大人しく従って後ろにいるシグたちのほうに歩み寄っていく。わかってくれたか。
「あなたたち、リューイ様の護衛、お疲れ様だったわねっ! ま、褒めてあげるからありがたく思いなさい!」
「「「「えっ……」」」」
「ちょっ……」
まるで火に油を注ぎにいったみたいだな、これじゃ。対応に落差がありすぎる……。みんな、さぞかし不快な思いをしてしまったことだろうと恐る恐る振り返ると、意外にもシグたちは笑顔だった。あれ……?
「いやー、どうもです、ルディ氏。リューイ氏の護衛、僕たちでもなんとかなりましたよ!」
「うんうん、サラもね、リューイさんの護衛頑張ったもん!」
「私も頑張りましたよぉ」
「お、おでも、なんとか……」
「……」
おいおい、本当にこれでいいのかと突っ込みたくなるが、ほっとしたのも正直なところだ。シグたちはいい人すぎて元パーティーの連中とは雲泥の差だな。
「みんな、いい? どんどんマップを増やしてあたしたちを楽しませなさい!」
うわ、またしてもルディの爆弾発言。こりゃさすがにシグたちも怒るかなと思ったら、みんな笑顔でうなずいていた。おいおい、どこまでお人よしなんだ。約二名、例の言葉を送ったら即ぶちぎれそうだが……。
「お、お嬢様、いくらなんでも失礼ですよ!」
クレアが慌てた様子で駆け寄ってきた。そりゃそうだ。お、結構怒られててルディが凹んだのか涙ぐんでる。やるなあ。この剣幕なら筋金入りのお嬢様といえど反省するだろう。
「あ、あたしは悪くないわよ! リューイ様についていきたいのに、補欠で我慢してやってるんだからね! ふんっ!」
「お、お嬢様がそんなに我慢なさっていたなんて。わたくしめが悪うございました……」
「あはは……」
ルディが逆ギレしてるだけに見えたが、結局力関係的にこうなっちゃうのか……。
「……と、こういうわけです。我慢させてしまったわたくしめが悪いということで、どうかお嬢様の無礼をお許しください……」
ルディの代わりのようにみんなに頭を下げまくるクレアだったが、まもなくはっとした顔に変わった。
「そ、そうでした、ルディお嬢様があなた方のためにとお風呂を沸かしておりますので、お詫びの意味を込めて是非お入りください」
「おお、それはいいな――」
「――わーい、サラお風呂大好きー」
「あ、サラちゃんずるいですぅう」
「ちょっと、何よ!? あたしがリューイ様と入るためだけに沸かしておいたのにっ!」
「……」
サラ、アシュリー、ルディの女性陣が怒号にも似た声を上げながら我先にと駆け込んでいった。最後に不穏な台詞が聞こえてきたし、もし俺が先に入ってたら危なかったかもな……。
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