10話 仕返し
何故こんな辺鄙なところ――ダンジョン1階層の山の中――で住んでいるのか、それぞれルディ、クレアと名乗った少女とそのメイドさんから小屋の中で話を聞くことになった。
「ふかふかー。サラ、雲の上にいるよー」
「はわわ、これも、あれも綺麗ですうぅ……」
ボロな外見と違って中は凄く綺麗で、豪華なベッドやクローゼットまで完備されており、サラとアシュリーが夢中になってる様子。
「おで、もうダメだ……」
「まあまあ……」
一方、華奢な少女に対して手も足も出なかったことが原因か、自信をなくした様子のワドルをシグが慰めていた。彼によると、例の言葉をこういう落ち込んだときに浴びせるのはNGで、それこそ負けじと極端に暴れるから言わないほうがいいとのこと。
「――というわけでして、ルディお嬢様がどうしてもダンジョンタワーへ行きたいと仰るので、なんとか妥協点を見出した結果、この1階層でしばらく暮らすということにしたのです……」
「クレアだって、内心宮殿暮らしは飽きましたって言ってたじゃない。ふんっ」
「な、なるほど……」
話を聞いてると、ルディが相当身分の高い貴族だということが窺えるし1階で止まるのもうなずける。それでも彼女は最近15歳になったばかりで魔術師のジョブ試験に一発で合格したってことだし、クレアはただのメイドさんに見えるが凄腕の暗殺者ってことで、いずれも1階で留まるのはもったいない技量の持ち主だと感じた。
「ここでずっと暮らすのもいいかなって思ったけど……あたしもリューイ様についていきたいわ。この人のおかげで成功したのに、それを知らずに裏切った恩知らずの無知な元パーティーに文句言ってやるんだから!」
そうそう、ルディたちから事情を聴く代わりに、俺たちは軽く自己紹介しつつこちらの事情も話したんだ。彼女の気持ちは嬉しいが、パーティーは5人までだからな……。
「そ、それはダメです。ルディお嬢様!」
「なんでよ!?」
「ダンジョンタワーの2階層以降はアクティブモンスターも出現するゆえ大変危険でございますし、何よりリューイ様方は既に5人であり、これ以上の人員は必要ない構成となっておりますし――」
「――だから何よっ! リューイ様に頼んであたしの分の枠を開けてもらうだけでいいでしょ! ふんっ」
「……」
俺はリーダーでもなんでもないのに無茶なことを言う。さすが筋金入りのお嬢様だな……って、そうだ。枠を減らすことなく、ルディだけじゃなくクレアも連れていく方法をひらめいた。さらに、このやり方なら自分だけの村づくりもできる。
「サラ、ちょっといいかな?」
「あ、うん。リューイさん、サラと一緒に寝よ……?」
「いや、そうじゃなくて!」
ベッドで遊んでるサラに耳打ちする。
「このダンジョンの山の模型を作ることはできる?」
「んー、多分いけると思う!」
「おおっ……」
さすが、特に手芸に秀でてるサラだ。
彼女はそれから、あっという間に精巧な小さい山を完成させてしまった。いつの間にか彼女の周りに人が集まって息を呑むのもわかるくらいよくできてる。
「あら、凄いじゃない。でも、これじゃただのオモチャね」
「お、お嬢様……」
「何よ、クレア。本当のことじゃない」
「ルディ、確かにこれだけだとそう見えるかもしれないけど、俺たちは小人化できるからこの小さな山に登ることもできるんだ」
「え、えぇ!?」
というわけで早速、みんなに小人化の薬を使い、山へ入ってみることに。
「す、すご……何よこれ……」
「び、びっくりしました……」
ルディとクレアが声を震わせるのも無理はない。サラが作った山は、それまでいたダンジョンの山となんら変わらなかったからだ。ただ明らかに違うのはモンスターが出ないことくらいか。そこら辺に生えてるキノコまで忠実に再現している。
「ルディとクレアはここで暮らしつつ、俺についてきてもらうよ。それでいいかな?」
「そ、それってどういうことなの、リューイ様……!?」
「ど、どういうことでしょう……?」
「つまり、こうして箱庭にして、異次元ホールに入ってもらえばずっとその状態が維持される上、パーティーメンバーとしてカウントもされないっていう仕組みなんだ」
「「おおっ……」」
「さすがはリューイ氏、考えましたねえ」
「あんっ、リューイさん、すごーい!」
「お、おで、リューイさん、尊敬……」
「はうぅ、リューイさん素敵ですぅ……」
みんなに持ち上げられてなんとも照れるが、本題はここからだ。
「それに、この前作ったサラのおばあちゃんの家も含めて、これからどんどんダンジョンの一部を取り込んでいけば自分たちだけの村づくりができるし、そういう楽しみ方だってある」
「「「「「「おおおっ……!」」」」」」
ダンジョンタワーを攻略していくことで元パーティーに見返したいという気持ちもないわけでもないが、基本的にはそれだけに囚われずにこっちのペースで楽しくやっていきたいからな。それが俺を追放したあいつらに対する一番の仕返しにもなるだろう。