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恋愛小説集【企画ものも含まれます】

相棒のキーラが鈴木くんだったなんて!

作者: ありま氷炎


『援護、よろしく』

 

 そうメッセージを打ち込むと、アサルトライフルを構えて敵へ突っ走る。

 

 ――あいつを殺せば、私たちが勝者(ウィナー)だ。


 相棒バディのピンクのツインテールの少女が、背後から援護射撃をしてくれる。


「もらった!」


 思わず言葉に出してしまったが、音声はオフにしているので大丈夫。

 バナナのスキンを身につけるふざけた敵に銃弾を打ち込む。

 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0。

 敵の体力はゼロになり、頭上に現れたプロジェクターに吸い込まれる。


『やったね!』


 相棒からメッセージが打ち込まれ、『ああ』と返事を返した。


 私はPVP、プレイヤー同士が戦うゲームが好きだ。課金すればスキンもコスチュームも好きなものを選べるので、イケメンの男性スキンを選んで使う。

 チャットも文字のみにして、男っぽく書き込めば、誰も私が女なんて気が付かない。そういう要素もあって、毎日仕事から帰るとさっとご飯を食べてからゲームを始める。

 大概、ソロ、一人でゲームをしていたのだけど、よく一緒に遊ぶ「友達」からバディマッチに誘われて、やってみたら面白かった。

 「友達」と言っても本名も何も知らない。

 知っているのはアカウント名だけ。

 ツインテールのピンク色の髪に、ふりふりのミニスカートを着た女の子のスキンを使って、 チャットも文字だけだけど、女の子っぽい。だから、女性だと思う。

 それもあって、私は「彼女」と組んでバディマッチをすることが多くなった。

 ゲームの最初は緊張感もほどほどないので、世間話のような会話もする。

 それでわかったのが、彼女も会社務めであること、お酒が苦手なこと、営業で成績がなかなかあがらず辛い思いをしていること、などなどだ。

 どれも私と同じで、親近感が沸くのは時間の問題だった。

 

『オフ会しない?』


 ある日彼女からそう誘われて、返事を保留にしてしまった。

 それは自分が男の振りをしていて、騙されたと怒るかもしれないと思ったからだ。

 それでも彼女は何度も誘ってきて、とうとう、私は彼女に答えなくなった。

 バディマッチもしなくなり、ソロをする。

 

『怒った?ごめん。もうオフ会の話はしないから』


 そんなメッセージがきたけど、私は無視をした。すると、もう連絡がこなくなってしまった。それどころか、ログインまでしなくなったみたいで、罪悪感がこみ上げてくる。


 ――会ってあげればよかったかな。でも、男じゃないっていうのも……。あ、考えて見れば、男に会いたい女の子……。彼女は「私」が好きだったのかな。


 ゲームをしようとすると気持ちがもやもやしてきて、なんだかゲーム自体に興味がなくなってしまい、ゲームすらしなくなってしまった。


「はあ……」

「どうしたの。川口さん」

 

 溜息をついていると同期の鈴木くんが話しかけてきた。


「いや、別に。なんでも」


 悩んでいるのはゲームの人間関係で、ってなんか言えないし。まあ、友達でもないから、相談することでもない。彼はあくまでも仕事の同僚だ。


「今日、飲み会あるんだけど、参加する?」

「飲み会ですか?」


 鈴木くんが誘ってくるのは珍しい。彼自身も飲み会など行かないタイプだ。うちの会社はよく飲み会を開いている。でも断るのも自由な感じで、私はお酒も飲めないので、いつも断っていた。

 彼はお酒は飲みないことはないみたいなんだけど、いつの飲み会にいかないみたいだ。

 どうしようかな。気晴らしに参加してみようかな。


「参加しようかな」

「本当?幹事の山田に伝えてくるよ」


 しようかなって、確定じゃないんだけど……。

 でも鈴木くんは行ってしまった。

 ま、いいか。たまには。

 

「乾杯」

 

 飲み会は同期ばっかりが集まるもので、完全割り勘制。飲まない、飲めない私にとっては不公平だと思ったけど、食事が美味しくて不満はなくなった。

 みんながどんどんお酒に飲まれていく中、私はひたすら食べていた。

 だって美味しい。


「川口さん」


 かなりほろ酔い加減の鈴木くんが隣に座って、じっと私を見る。


「な、何?」

「なんで、カササギはゲームをやめたんですか」

「は、い?」


 ちょっと、まって。

 カササギって私のアカウント名!なんで鈴木くんが知ってるの!


「そんなに僕に会いたくなかったんですかね」

「え……」


 どうも、私に相談しているような。わからない。

 僕にって、僕にってことは、もしかして鈴木くんがキーラ。そんな馬鹿な。いかにも体育系なのに、ピンク色のツインテールにふりふりの……。


「川口さん、ごめんね。ちょっと、なんか最近ゲームで色々あったみたいで」

「は、えっと」


 山田くんがやってきて、でろんでろんの鈴木くんを回収していく。


 鈴木くんがキーラ……。

 それが確かめたくて、私は家に帰るとゲームにログインした。


「オフラインか……」


 まあ、あれだけ酔っていたし。いや、まだ鈴木くんがキーラと決まったわけじゃない。

 自分のことはばれたくないけど、鈴木くんがキーラかは確認したい。

 

『明日、午後7時半、久しぶりにバディマッチしないか?』


 カササギの口調のまま、キーラにメッセージを送る。勿論返事が返ってこなかった。


「0時か。寝よう」


 翌朝、なにか目覚ましが鳴るより早く起きてしまい、ゲームを立ち上げる。 

 するとメッセージが返ってきていた。


『おはよう!誘ってくれてめちゃくちゃ嬉しい。今日、午後7時半、おっけー。またね』


 鈴木くんの顔がちらつき、なにやら鈴木くんがおねぇになったような、そんな不思議な気持ちで返事を返してから、会社に向った。


「おはようございます。川口さん。昨日はなんか絡んだみたいですみません」


 出社すると鈴木くんが男らしく頭を下げて謝ってきたけど、キーラの姿が頭にちらつき、反応が遅れてしまった。


「川口さん。怒ってますか?」

「あ、怒ってないですから。昨日はびっくりしましたけど、二日酔いとか大丈夫ですか?」

「ご心配ありがとうございます。僕は後には残らないタイプなんですよ。その代わり、記憶もすっかり飛ぶのが問題なのですが」


 いや、それ大問題。

 そう思ったけど、愛想笑いしてごまかした。

 っていうか、昨日は酔っていたけど、大丈夫だったの?

 だったら、夜でもログインできたんじゃ。

 やっぱり鈴木くんはキーラがじゃないの?


 そればかりが気になって、仕事もミスしつつ、なんとか終わらせた。


「鈴木くん」

 

 私は彼がキーラか確かめるべく、ある計画を練っていた。

 キャラじゃないけど、今日鈴木くんと食事に誘って、キーラがゲームにログインするか見る。

 今朝スマホにゲームをダウンロードしてきたから、スマホ上で確認できるのだ。


「あの……、今夜暇だったら一緒にご飯食べませんか」

「まじっすか!」

 

 鈴木くんは満面の笑顔で答えてくれて、妙な罪悪感が過ぎった。


「川口さんは飲めないからウーロン茶でいいですか」

「うん。ありがとう」


 彼は居酒屋に来るとてきぱきと注文する。考えて見れば、これってもしかして私が気があるって思われているってことだよね。うーん。作戦間違った。

 そう思いながらも、キーラの正体を確かめたくて、そわそわしながら7時半を待つ。


「あ、ごめんなさい」

「ちょっと電話してきます」


 7時半、お互いのスマホが音を鳴らす。

 それはアラームだった。

 彼はぺこりを頭を下げると、そそくさと席からいなくなり、取り残される。

 っていうか、鈴木くんもスマホにダウンロードしてる可能性をなぜ、考えなかったんだろう。今頃もしかして、ログインしているのかな。


『カササギ。ごめんなさい。今日はデートしているから、バディマッチに参加できない。明日はどう?』


 デート?!

 ……待て待て、鈴木くんはキーラなのか、どうか。これってデートなの?いやいや、違うから。 きっと違う人。

 悩みまくって、結局私は普通に返事をした。


『わかった。じゃ、明日午後7時半に』

『ありがとう♡』


 ご丁寧にハートマークまで付けられて、返事がきて、しばらくすると鈴木くんも戻ってきた。

 妙に嬉しそうなんだけど……。


「……電話、仕事ですか?」

「いいえ。違います。ちょっと友達が」

「そうなんですね」


 これ、全然意味がなかった……。

 そうして私たちは食事をして、普通にまた明日と別れた。

 何も甘い雰囲気はないし、仕事の話しかしてない気がする。これは絶対にデートじゃない。

 キーラはやっぱり鈴木くんじゃないんだ。

 けれども決定打が欲しくて、私はキーラに聞いてみることにした。


 翌日のバディマッチ。

 敵を待ってる間にメッセージを送る。


『昨日のデートどうだった?相手は会社の人とか?』

『楽しかったよ。うん、会社の人。とても可愛い人なの』


 ――会社の人、それは合ってる。

 ――可愛い人、それは間違っている。


『キーラが誘ったのか』

『ううん。違うよ。誘ってもらったの。普段とてもクールで一昨日迷惑をかけたみたいだから、嫌われたかと心配してたけど、食事に誘ってくれたので大丈夫だったみたい』


 ――誘った、それ合ってる。

 ――一昨日迷惑をかけた、それも合ってる。


 まって、まって、やっぱりキーラが鈴木くん?でもあれはデートじゃないよ。


『カササギ。来たよ』


 混乱している私だったけど、そのメッセージでゲームに集中する。


『今日のカササギ、ちょっと様子がおかしいね。色々質問してくるし。何かあったの?』


 ゲームは結局負けてしまって、キーラに心配されてしまった。


『いや、別に……』

『カササギ。この間はごめんね。オフ会ばっかりのこと聞いて。もう大丈夫だから』

『あ、うん』

 

 何が大丈夫かわからないし、キーラが鈴木くんか、決定打がない。

 これは会ったほうがすっきりするのかな。でも、会ったら会ったで会社でギクシャクしそうだし。

 

「納豆オムレツ、好きなんですね」

「あ、ごめん。臭いよね」


 なぜかわからないけど、翌々日私は鈴木くんに食事に誘われた。

 居酒屋が好きらしく、今日も居酒屋だ。私も好きだから、いいけど、デートとかじゃないのよね。

 キーラとは最近なぜかゲームもしてないのに、メッセージのやり取りをしている。

 

『今日はデートなの。嬉しい』

 

 と連絡が来てて、微妙な気持ち。

 うん。鈴木くんはキーラじゃないよね。

 彼がトイレに立った瞬間を狙って、私は思わずキーラにメッセージを送った。


『デートの相手とどこに行くんだ。やっぱりイタリアン?今後の参考までに興味がある』


 カササギっぽくちょっとクールに聞いてみたら、返事は……


『居酒屋。洒落てる雰囲気だと緊張しちゃうの。納豆オムレツが好きなんだって』


 まじか……。


 それからのことはよく覚えていない。

 鈴木さんはキーラだった。

 っていうか、デートって思ってるってことは、鈴木くんが私のことを好きってことなんだよね?

 信じれない。

 いや、もう、ぐちゃぐちゃ。


 アカウントもログアウトしてしまって、会社でも微妙に鈴木くんを避けてしまった。

 ごめんない。

 だって、どうしていいかわからない。


「川口さん」

「す、鈴木くん」


 業務時間終わり、とっとと帰ろうとしていると呼び止められた。


「な、何でしょう」

「ちょっとついて来てください」


 鈴木くんは私の手を掴むと、そのまま歩き出してしまう。手をつながれて、いや、待って社内だから。

 恥ずかしかったけど、ちょっと嬉しく、そのままついていってしまった。


「川口さん。いえ、カササギ。僕をからかって遊んでいたんですか」

「え、はい?」

「川口さんが、カササギなんでしょう?」


 なんで、ばれたの?

 いや、ここでどうにか白を切れば。


「カササギ……。鈴木くん、何のことがさっぱり……」

「嘘はつかないでください。川口さんのスマホで確認したので知ってます」

「確認?!ちょっと勝手に見たの……。っていうか暗唱番号をかけたあったのに!」

「あんなの、川口さんのことだから、単純な感じで、生年月日かなあと思って、やってみたらすぐ見れましたよ」


 なんてこったい。


「勝手に見るなんてちょっとそれ犯罪」

「それは謝ります。でも確認してよかった。まさか、あなたがカササギだったなんて」


 鈴木くんはもの凄い熱っぽい目で私を見ていた。


「ずっとカササギのことかっこいいと思っていて、きっといい人だから会ってみたいなあと思っていたんです。それがまさか川口さんだってなんて」


 私もまさかキーラが鈴木くんだったなんて。

 いや、そうじゃなくて!


「僕がキーラだってことに気がついたんですよね。だから、避けた。やっぱり女の子スキン使って、女の子の振りしてたから、引きました?実は、あの女の子、川口さんに似てるなあと思って購入したんです。川口さん、ツインテールにしたら凄く似合いそう……」

「に、似合わないから。っていうかどこか似てるの?髪色は違うし」

「もちろん、髪色は違いますけど、顔はそっくりじゃないですか。可愛い」


 鈴木くんはいつの間にか、なぜか私のすぐ傍にいて、逃がさないとばかり両手で壁を押さて、壁ドン。


「川口さん。ずっと好きでした。付き合ってください」

 

 相棒のキーラ(女)は実は鈴木くんで、あんな風に告白されて、勢いで頷いてしまった。だって、壁ドンだよ。

 私たちは、付き合い始めても、あべこべスキンのままゲームで遊ぶ。

 女の子の言葉を使うのは、文字上だけだったけど、ちょっと鈴木くんにしゃべって欲しいとお願いしたら、物凄く恥ずかしそうにされた。

 そういう時の鈴木くんはめちゃくちゃ可愛くて、思わず「可愛い」って言ったら逆に言い返されて、口を塞がれた。

 

「キーラの馬鹿!」


 鈴木くんのキスは長くて、我に返って画面を見たら、体力がゼロになってプロジェクターに吸い込まれていく場面。

 スマホでプレイしていた彼も同じ状況で私たちは今日も勝者ウィナーを逃す。

 付き合ってから、まったく成績が伸びてないけど、私はただいま絶賛リア充中だ。

  


(おしまい)




 




読了ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] なかなか現実ではゲームのバディがすぐ近くの人ってないんでしょうけどね。 夢があって、楽しいお話でした。
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