2.たたかうおっさん。
幸い天気も良く、雲も少ない。
機体も離陸も問題は起きなかった。
何といっても自由な空だ。
民間機航路も何も設定されていない。
この浜松沖上空、いや、静岡県沖は国内線、国際線で大混雑のハズだが。
そんな空を自由に飛べると言うのは一種の非日常だ。
『チェッカー01より各機へ。二時方向チョイ下。お客さんを見つけた。』
キャノピーフレームに付いたサイドミラーの向こうに視線を向ける。
先に上がったお客さんで未だ上昇中だ。
我々は目標空域と高度に達したので、5機のVicフォーメーションでゆるやかな旋回中だ。
『お嬢さん方、未だ準備が終わっていないぞ?』
「しゃーないっす。」
隊長達は編隊離陸してから急上昇だ。
隊長は操縦桿握ると気が短い。
後から発進したので追いつくのは遅れるだろう、たぶん怒られる。
そう判断した。
今日の後部座席は機材だけなので離陸からバーチカルクライムロールで遊んでみた。
6.5Gの急上昇であっという間に12000m
三回転半で天井になった地面で編隊を探した。
T-4の上昇速度は折紙付きだ。
航跡雲で直ぐに見つけて接近急降下した。
隊長からも地上管制からも何も言われなかったので問題は無いのだろう。
そのまま編隊を組んで、緩やかな上昇旋回をしている。
相手の状況開始高度までまだ掛かりそうだ。
『旋回このまま、付いてこい距離を取る。』
『『「了解」』』
隊長機の動きに注意して付いて行く、編隊を崩す様な事はない。
お客さんに背を向け旋回を止める彼方の雲が水平に戻る。
視界の先に黒い点を見つける。
同高度だ。
「こちらチェッカー05、11時方向、同高度。大型機。」
『チェッカー01確認した…。ああ、今回の審判だ。団長も載っているハズだ。良いとこ見せろ。』
『『「了解」』』
徐々に姿を現す大型機は4発のプロペラ機だった、見慣れたP-3Cではない。
機首の窓が太陽を反射して光っている。
フロントノーズに窓が付いてる機体は、写真か模型でしか見たことがない。
「大型機。すれ違います。」
『手振ってやるか?』
『サボってると思われますよ?』
『十分に距離を取った、レフトターン、レディー、サン、ニイ、イチ…ゴゥ!』
いきなりターンを指示する隊長。
心の中でカウントする。
一瞬で空が横になり、雲が縦になる。
何時ものカウントで警告音が出る正常だ。
『ナウ!』
視界が水平になる。
2時方向に大型機が居る。
なんか皆浮かれてるな…。
前を見て直ぐに気が付く。
「正面、5機同高度。」
ヘッドオンで相手もV字だ。
まだ開始の合図は無い、いったん交差してから開始するのか?
『ザザッ、コチラ審判、ザッ模擬空戦闘を開始せよ、』
『こちら、チェッカー01各機、状況開始。02俺に付いてこい、03、04はペア。05は適当に遊べ。』
『『「了解』』マックスパワー。」
ひどいな、隊長は俺だけ要らない子扱いだ。
編隊を解いて、それぞれが散開した。
相手も編隊が崩れたので発見された様子だ。
俺の目的は敵の編隊を崩すのだ。
ミサイルが無いので怖くもない。
周囲を見渡し僚機の位置を頭に入れる。
主翼に雲が発生して消えて行く。
徐々に空の点が大きくなり機体に見える。
よし、射撃軸線は合ってない。
相手の一番機は機首がふらついている、困惑している様子だ。
「ターン、ナウ!ヒャッハーー!」
一瞬の交差で敵パイロット表情を確認して急上昇ターンに入る。
色々警告音が出るが何時も通りなので気にしない。
半分空と海になったキャノピーを見上げ相手の位置を確認する。
お客さんは完全に編隊を崩してばらばらだ。
01と03は左右側面から襲撃位置に着いた所だ…。
あの獲物にする。
まだ混乱している。
「フーフッ、フーフッ。」
Gで足りない酸素を脳に送る。
旋回が終わり急降下で相手の尻を目指す。
乱暴かつ慎重に…。
お客さんの隊長機と01が格闘戦に入った。
敵の03の獲物は状況が悪いと判断したのか逃げを選んだ。
T-4より大きなお客さんの機体の背中にHUDの表示にはめる。
ターゲットサイトが合うタイミングで宣言をする。
「チェッカー05、フォック…。」
射撃宣言中に相手の尾翼のフラップがふらついた。
後ろに付かれたのに気付かれたか、誰かから警告を受けたのだ。
目が合った様な気がする。
エンジンの排気ガスの色が変わる。
クイックロール回避の兆候なのでエアブレーキに手を添える。
尾翼フラップが動いた!機首上げしてブレイクする気だ!
相手のロールに合わせて機首上げ、敵が見えないが怖くない、一瞬相手の機体の下面を見て安心する。
ブレイクが終わるのを待ち、HUDに収める。
「チェッカー05、フォックス1」
引き金を引く。
まだ、パイロットが首を振って俺を探している。
通常のクイックロール回避では後方に付いた敵は前方にアウトするからだ。
『ザザッ、コチザッ審判、フジ3は撃墜された。ザザッ空域より離脱せよ。』
コックピットで頭がっくり項垂れるのが解る。
次の獲物を探す、バックミラーに写る。
後ろに居る、未だ遠い。
あ、俺が狙われている。
俺の位置が悪い。
『フジ1は撃墜された。ザザッ空域より離脱せよ。』
隊長が終わったので誘ってみる。
「こちらチェッカー05、後ろに付かれた。わーい(棒)」
ワザと左右に旋回して速度を合わせる。
相手は射撃線の上に俺を収めようと躍起になっている。
『フジ2は撃墜された。ザッ空域ザッザッザッ離脱せよ。』
コイツとあともう一機だ。
そっちは今、03と04が追い立ててる。
隊長機の方位に誘う。
『中島遊ぶな。』
怒られた。
もう既に隊長がよい位置に付いている。
「はーい。マックスパワー」
仕方がないのでスローロールで普通に振り切る。
エンジンと降下で速度を稼ぐ。
あっという間に突き放す。
距離と速度を稼いだのでゆっくり上昇に入る。
敵に隊長が張り付いて…。
回避しようと旋回に掛かるがもう遅い。
『フジ5は撃墜された。演習終了、ザッ全機空域ザッザッ離脱せよ。』
審判が終了を宣言した。
周囲を見渡す、残りの一機は逃走に成功したらしい。
あっという間に終わった。
『ザザッブルーチームへザッもう一回戦やりたザザッ問題ないか?』
団長の声だ。
『02問題ない。』
『こちら03異常なし。』
各機が続く。
「05もう少し遊びたい。」
『中島真面目にやれ。チェッカー01より審判へ、問題ない。何時でもやれる。』
さあ、お仕事お仕事。
『こちら審判ザザッ演習終了ザザ訓練空域より帰投せよ。』
『『「了解」』』
結局、全部で三回戦やって俺は6機撃墜した。
相手の5番機が頭に血が登りやすい子で毎回カモだった。
こちらはまだやれるが、向こうの燃料が少ないらしいのでお終いだ。
水平飛行で基地の近くまで来た。
海岸沿いを旋回して時間をつぶしている。
滑走路が空くまで待機だ。
『まだ時間があるな。』
隊長の声だ。
『曲芸(飛行)でもやりますか?』
04が答える。
『観客も居ないのに?』
03の声だ。
周囲を見渡し、見つける。
『いますよ、10時方向、突堤の上に。』
『誰が?』
『白いワンピース着た麦わら帽子の観客。たぶん女の子。』
『どこよドコ?』
『中島相変わらず目が良いな。』
何時もの隊長の嫌味だ。
『スモークマシン付いていないのが残念ですね。』
冷静が売りの02が嫌味を言う。
しかし、曲芸に反対では無い様子だ。
『どうします?隊長。』
『今日はもう、飛ばないから燃料を使い切って良いはずだ。ボントンロールからチェンジオーバーループで中島はインバーテッドコンテュニアスロールからバーティカルクライムロールで上がれ。集合したらレインフォールだ。』
隊長も何だかんだ言ってノリノリだ。
皆、飛ぶのが楽しいのだ。
手順が頭に入る。
『『「了解」』』
異世界の青い空に白い飛行機雲。
観客は麦わら帽子の女の子一人。
確かにスモークマシンが付いていないのは残念だ。
(´・ω・`)ジェットの空中戦調べるの大変。