3回目
翌日の放課後も私は例の同好会を訪ねた。なんて律儀な私。ただ、この時には中途半端に首を突っ込んだままでは収まりがつかないという変な使命感のようなものがくすぶり始めていた。
「失礼します。」
今日は二人とも私より先に来ていた。二人で紅茶を飲みながらなにやら話込んでいる。
「琴葉ちゃんいらっしゃい。飲み物は紅茶でいい?」
「あ、はい。それでは遠慮無くいただきます。」
「遠慮なんていいのよ。もう正式なメンバーの一員なんだから気楽にね。」
と岬先輩は言いながらも、席を立って紅茶の用意をするのは二階先輩なのだった。
「そうそう、昨日話した新メンバー獲得作戦なんだけどさっそくこんなの作ってきたんだ。」
そういって岬先輩はテーブルに置かれたプリントを一枚私に手渡した。
「チラシ、ですか?」
「その通り。新入部員の勧誘と言えばまずはこれかなと思って。昨日徹夜で仕上げた自信作よ。昼休みに何枚か配っておいたからそろそろ誰か来るかも。」
自信作と言うだけはあってかなりのクオリティの高さを感じる。いち女子高生が徹夜で仕上げたとは思えないくらいデザインも全体的な構成も素晴らしいものだった。
「失礼。」
私の分の紅茶が運ばれて来たところで誰かが部屋に入って来た。ホントに新メンバー(書記)来ちゃったの!?
「平河!」
「あら、そんな恐い顔をしないで岬さん。今日は要件を伝えたらすぐに出て行くから。」
何やら険悪なムードが高まってきた。この二人は知り合いみたいだけど友達ってわけではなさそうだし…
「あなた、こんなモノを配ってるそうじゃない。」
そう言って平河と呼ばれた彼女が差し出したのは私が今手に持っている例のチラシだった。
「何か文句でもあるの?」
「こういった宣伝活動をするには生徒会の許可がいるのはあなたも知っているでしょ?まあ、申請したところで生徒会長のこの私が許可なんてしないけど。」
どうやらこの人が本物の生徒会長のようだ。私のような一般人とは違った何か異質のオーラを放っている。
「二階君もいつまでもこんな所にいないで生徒会に戻ってきてよ。私、二階君のこと本気で尊敬してるんだよ。また一緒にお仕事したいなあ。」
「僕はもうちょっとだけここでやることがあるから今はまだ戻れないよ。」
「じゃあもうちょっとだけ待ってるから絶対戻ってきてね。」
二階先輩に話す時はあからさまに態度が豹変した。好きな人にだけ媚びるいかにも女子に嫌われそうなタイプだ。岬先輩の肩を持つわけじゃないけど、一発蹴りを入れてやりたいくらい私のイライラもピークに近づいていた。
「今日は忠告だけど次はないと思ってね、岬さん。それじゃ、私はあなたみたいにこんな紙切れを作るほど暇じゃないから。」
そう言って持ってきたチラシを真っ二つに引き裂いて生徒会長は部屋を後にした。
「何ですか、あの人!!せっかく先輩が徹夜で作ったチラシを!許せません!」
「仕方ないわよ。生徒会の許可がないとこういう事出来ないのは事実だし。」
「けど…」
「いいの、いいの。勧誘の方法なら他にもいっぱいあるって。それよりもさ、冷めちゃう前に紅茶飲もうよ。ね?」
勧められるままに飲んだ紅茶はまったく味気ないものだった。昨日はあんなにおいしく感じた二階先輩のいれてくれた紅茶なのに…。