第二話 麗しきユリーシャ女王による腕試しの試練(その2)
「ボクはパドル魔法学院の魔法学院生のリオンという者です。ルヴィニア学院長から女王陛下宛の親書を持ってまいりました」
リオンは城門の衛兵に親書の入った青い筒を示し、入城の許可を求めた。
衛兵は青い筒の紋章を確認すると、王城の奥に入って騎士団本部に連絡した。
程なくして、その衛兵と一緒にひとりの女性騎士が城門までやってきた。
その女性騎士は戦女神の胸像のデザインを施された魔法の制服を装着していた。
優れた剣技と神聖魔法の知識を併せ持つ女神戦姫である。戦女神ウルフェムダの神聖巫女は騎士の訓練を経て魔法剣術や武術を修得することが多く、女神戦姫と呼ばれている。
その実力は他国のエリート魔法騎士と同等以上と評判である。魔法騎士は非常に高い戦闘力を持っているけれど、数はとても少ない。
通常の騎士団では親衛隊に所属するか、隊長クラスに存在するくらいだ。
ところが、セントラム王国の女神戦姫団は全員が麗しき女神戦姫で構成されている。
そのため、小規模ながら大国の騎士団に匹敵する戦力となっているのだった。
「では、魔法学院の使者殿、謁見の間にご案内しますので、付いてきてください」
女神戦姫は恭しい仕草でリオンに一礼すると、廊下を進みはじめた。魔法学院生の少年は凛々しい戦乙女の案内を受けて、謁見の間に参上した。
リオンはユリーシャ女王に会うのは初めてだった。玉座の上に慈愛の女神の司祭衣装をまとった美しい女性が座っていた。
物静かで優しい気配をまとっているけれど、エメラルド色の瞳からは国を治め国民を守るという固い意志の力が感じられる。
セントラム王国を統治するユリーシャ女王である。この見目麗しき女王が豊かな魔法資源を活用して、女神王国の国力を大きく高めたのだった。
また、女王は慈愛の女神ラフィーアの最高司祭も務めている。その神聖魔法の実力は精霊大陸最高レベルと言われているのだ。
「なるほど、貴方がパドル魔法学院から来てくれた魔法学院生のリオン・フェリクス君ですね。ルヴィニアから話は聞いています。セイランの代わりに誰かとお願いしたら、臨時の代理ということなら、いまの一番弟子ではどうかということでした……でも、確かルヴィニアの話では、十五歳の男の子という話だったのだけれど……」
ユリーシャ女王は麗しい仕草で首を傾げ、少年魔法師の姿を怪訝そうに見つめた。その拍子に美しいプラチナブロンドの長い髪がソッと揺らぎ、高貴で芳しい香りが漂ってくる。
リオンは間近に接したユリーシャ女王の美しい威厳に心を打たれつつ、少し悔しそうな面持ちになって、その疑問に回答した。
「女王陛下、ボクは十五歳なのです。外見は少し幼く見えると思いますが……」
魔法学院生の少年の背丈は百二〇センチ程度。見た目はどう頑張っても十歳程度の子供である。
実は、リオンは風の精霊との親和性が高く、その影響で特異体質になっていた。体内に循環する風の精霊力の影響で成長が遅めになっているのだ。
謁見の間には、女神戦姫団長を務める第一王女のライレン姫、神聖巫女を務める第三王女のユミナ姫、政務全般を取り仕切る宰相職の魔法機械人、そして、行政事務を司る文官たちや女神戦姫団の女神戦姫たちが同席していた。
リオンはその場の皆に向かって、特異体質の事実を簡単に説明した。謁見の間の人々は一様に驚き、目を丸くしたり、口をポカンと開けたりしていた。
宮廷魔法師の役職は非常に重要なものである。特異体質の説明は理解できるものの、臨時の代理として参上した見習い魔法師が小さな子供の姿をしているため、驚きを隠せないでいるのだ。
「なるほど、リオン君は精霊異常の特異体質だったのですね。ルヴィニアからは可愛い外見の男の子としか聞いていなかったけれど、そういうことだったの……ふふ、それにしても、本当に可愛らしい見習い魔法師さんですね」
ユリーシャ女王は美しい翠玉のような瞳を細めて、リオンの姿を見つめた。
「でも、なかなか凛々しい顔立ちをしているじゃない。ルヴィニア学院長が宮廷魔法師の代理に推薦したのだから、精霊魔法の腕前はそれなりなのでしょう。頼りにしているわよ」
ライレン姫が満足げな面持ちでそう言った。
母親と同じプラチナブロンドの髪と美しい碧玉のような瞳を持つ凛々しい雰囲気の美少女である。
女神戦姫団の団長を務める、勇猛果敢な姫君らしい発言だった。
「本当に可愛らしい魔法学院生さんですね。臨時の代理でどなたが来るのか少し不安でしたけれど、誠実そうな子で安心しました。これからどうぞよろしくお願いしますね」
ユミナ姫が優しい笑顔と声でそう言った。
母親と同じプラチナブロンドの髪と美しい翠玉のような瞳を持つ清楚な雰囲気の美少女である。
慈愛の女神ラフィーアの神聖巫女を務める、心優しい姫君らしい発言だった。