第一話 魔法学院生の少年、セントラム王国の宮廷魔法師臨時代理へ(その1)
伝説により精霊巨神フェノールの巨大な骸から誕生したと言われる精霊大陸フェノールランド。深遠なる〈虚空〉に浮かぶ希少な命のゆりかごだ。
この精霊大陸には様々な場所にたくさんの精霊たちが宿っている。大地に生い茂る大森林や美しく照り映える湖や溶岩のうごめく火山などに精霊たちの力は満ち満ちていて、まるで見えない霧のように世界中を漂っているのだ。
この精霊の力を抽出して様々な形に変換し、自由自在に操る技術を魔法という。
はるかな神話の時代、智恵の女神スワティカの加護を受けた古代人エヴァールは、精霊大陸の各地に浮遊都市や樹上都市、水中都市などの偉大な魔法文明の街を構築していた。
しかし、冥王ナトゥーリア率いる魔神軍団との壮絶な〈封印戦争〉によって、これらの魔法都市の数々は破壊し尽くされ、同時にたくさんの魔法師たちが命を失ったため、偉大な魔法文明は、幾許かの衰退の時を経て、滅亡してしまった。
その後、古代人エヴァールの子孫である人間たちによって、魔法の力は細々と受け継がれてゆき〈封印戦争〉後の荒廃した精霊大陸フェノールランドの復興に、大きく貢献したのだった。
大陸中央部のヴィラード山の頂にあるパドル魔法学院は、魔法の力を磨き、発展させるために設立された精霊大陸で唯一の魔法の学び舎である。
大陸各地から魔法の使い手を志した人々が集まり、日々探究に励んでいる。
いつか魔法の力を究めて、かつての偉大な魔法文明を取り戻せるよう、また、精霊たちと融和した豊かな社会を構築できるよう、それぞれの夢に向かって修行しているのだ。
そして、この日も上位クラスの魔法を探究する〈琥珀の塔〉において、ひとりの魔法学院生の少年が黙々と修行に打ち込んでいたのだった。