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第二話 麗しきユリーシャ女王による腕試しの試練(その6)

「どうですか、リオン殿? これまでドラゴンの攻撃を避け続けているのは見事ですが、いずれ爆炎のブレスに飲み込まれてしまうでしょう。もう降参しても構いませんよ」


 機人宰相ゼフィランサスが冷静な口調で降参を勧めた。ただ、虹色の瞳には何かを期待するかのように不可思議な光が揺らめいている。


「大丈夫です。まだ余裕がありますので、もう少し頑張ってみたいと思います」


 リオンの言葉を聞いて、謁見の間の人々から感嘆と驚きの声が上がった。爆炎のブレスに包まれて怪我を負ってしまったので、魔法学院生の少年はもう諦めると思っていたのだろう。

 実は〈風神の鎧〉の加護で軽傷なのだけれど、離れているのでわからないのだ。


 ゴオォォォォォンッ!

 レッドドラゴンは少し休憩した後、再び爆炎のブレスを吐き散らした。リオンは赤い灼熱の吐息を軽快なジャンプでかわした。


 霊樹製の靴に宿る〈疾風の足〉の精霊魔法は、もともと俊敏な魔法学院生の少年に驚異的な戦闘スピードを付与している。

 戦闘魔法師の面目躍如といったところだ。


 リオンはさらに後ろに跳躍し、ドラゴンの強靭な顎や前足の鉤爪の届かない位置に立つと、魔法ワンド〈風の守護者〉の先端を真っすぐに突きつけた。

 そして、真紅の巨竜の威容を直視しながら、対処方法について思案した。


 幻影魔法を見破る一番簡単な方法は、一度攻撃を堂々と受けてしまうことである。幻と明確に認識した瞬間、幻影は力を失ってしまうのだ。


 レッドドラゴンは〈封印の壺〉の束縛効果で、移動範囲が限定されている。

 リオンが得意とする風の打撃魔法の〈風神弾〉はスピードが速いので、当てやすそうだ。

 ドラゴンの弱点と伝わる首の下の逆鱗を狙って、魔法弾を撃つのも手だろう。


 また、そもそものはじまりは〈封印の壷〉である。真紅の巨竜の後ろに置かれた古風な壷は精霊力の息吹を放ち続けている。


 しかし、先ほどレッドドラゴンの姿が蜃気楼のように揺らめいた。

 その時に感じたのは精霊力の異常だ。精霊力が枯渇して起こる精霊魔法のエラー現象に似ている。

 

 意地を張らずに降伏するというのも選択肢のひとつである。ただ、まだ体力、精霊力ともに余裕が残っている。できるなら、降参は幾つか対策を試してからにしたいものだ。


 レッドドラゴンが再び口と鼻の穴からシュウシュウと焔を噴き、爆炎ブレスの準備をはじめた。

 迷っている時間はない。リオンは冷静にかつ慎重に作戦を思案した。


 そこで、ふと機人宰相ゼフィランサスの最初の言葉が頭に浮かんだ。

 機人宰相は「対処してください」と言った。


 恐ろしいモンスターを相手にする場合、普通ならば「倒してください」という指示になるのではないだろうか。この違いはもしかして……。


(よし、決めた! 試してみるなら、やっぱり一番安全な手がいいよね)


 一瞬で決意すると、リオンの幼い面持ちに、ピリッとした鋭い生気が張り詰めた。

 小さくて可愛らしい魔法学院生の少年はユリーシャ女王のいる玉座を見据えながら、魔法ワンドを高々と掲げて凛とした声で宣言した。


「では、いまからこのレッドドラゴンに対処したいと思います。たぶん大丈夫だと思いますが、皆さん、ドラゴンとの戦闘に巻き込まれないよう、気をつけてくださいね」


 そう言うと、リオンは真っ直ぐレッドドラゴンの巨体と対峙した。そして、疾風の如き素早さで真紅の巨竜に向かって突進したのだった。

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