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天然なプロローグ


――― しまった、間違えてしまった。


 いつもなら前橋総社(まえばしそうじゃ)駅で降りるんだけど、今日は高校の学校説明会だ。塾にいくなら次の駅で降りるのが正解。しかし、高校に行くのにはこの駅じゃなきゃいけない。お母さんが急に出張入っていけないっていうから1人で来てみたけれど、これは早々やらかした。


 電車は止まることなんてない、次の駅まで。幸いにもこの電車は普通列車だ。次の駅で必ず止まると思う。

 そこで下り電車に乗り換えて、来た道を戻ろう。



 「ご乗車ありがどうございます。この電車は水上(みなかみ)発、高崎新都心行きです。次は新前橋、新前橋・・・」

いつも聞きなれたお決まりのセリフを耳に通しながら、僕はこの電車と反対方向行きの電車のことを考えていた。下り列車はこの上り電車に比べて本数が少ない。すぐに下り電車が来なければ、間に合わない。



 「お客様にお伝えします。高崎線での人身事故の影響により、一部電車に遅れが出ています。次の新前橋発の下り全線で高崎線との接続の影響で遅れが出ています」



――― しまった、人生終了のお知らせだ。


 入試という訳じゃないけれど、なんか高校の教員に目をつけられたらたまったもんじゃない。お母さんにも何やってんのとか怒られそうだし、いろいろ最悪だなこれは。

 とりあえず、新前橋で降りてコンビニにでも寄ろうかな。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「まもなく高崎新都心行き発車いたします。」


 駅のホームに降りてからは、休日で混みあった周りを見ながら駅の階段を上って、改札を出たところにあるコンビニに寄った。


 休日のせいだからか、ただでさえ狭いコンビニにたくさんの人が入っていた。外から見ているだけでも気持ちが悪い。

 そっと手を蹴伸(けの)びをするように手を伸ばしながら、僕は人混みに吸われていった。


 幸いにも僕が食べたかったサンドウィッチはまだ残っていた。タマゴサンドウィッチ130円。


 店から出ようとしたときに誰かに当たってしまった。

 「すみません。」

 急に当たってびっくりしたものだから、小声での謝罪になってしまった。



 「あー、ごめん。」

 女の人の声だった。なんていうか、小声だからか擦れているような、息が多めというか。向こうも急だっから声が小さかった。しかし、初対面の相手にタメで謝るとかマナーが悪いな、はたまた僕がなめられてる⁉

 

 そんなことはどうでもいい。駅出たところにあるベンチでいっぷくしよう。僕の命日なんだから。いっぷくというよりかは、最後の晩餐が正しい。まだ昼間だけど。


 サンドウィッチにまとわりついてるビニールをはがし、一口。やっぱりこれが最高。タマゴ嫌いには分からないであろう。この甘さ、食感、すべてが完璧。130円とは思えない贅沢なひと時を味わえる。

 二口目に突入しようとしたとき、ベンチの空いていたスペースに誰かが大きなため息とともに座ってきた。


 「はぁー。やってらんねーっつーの!」

 キンキンとした女声だった。魔法アイドルアニメのモフモフしたペットみたいなやつに居そうな、声が無駄に高い。苦手な周波数出しやがる。


 二口目に入りながら、恐る恐るその声の主の方に目を向けた。相手もこちらを同時に向いた。何かを思ったのか、急に彼女は眼を見開いた。


 「あれ?さっきの子じゃん。お久しゅうございますだね。」

 なんだそれ。


 「僕たちどこかでお会いしましたっけ?」

 さっき同じ電車にでも乗ってたのかな。僕には見覚えがない。


 「はぁー?あんたバカね、さっきコンビニでぶつかりあった仲じゃん!」

 言っていることが全くわからない、しかしさっきの女だということはわかった。


 よく見てみると、白い肌、すこしぽっちゃりとしているが、出るとこはしっかり出ている二重の可愛い子だ。さっき声が苦手とか言ったけど前文撤回。声と容姿がめっちゃマッチしてる。声が容姿をより良いものにしてる。最高、尊い。


 「何考えてるか知らないけど、こっち見すぎじゃね?」

 さすがに見とれすぎた。こりゃ引かれても仕方ないな。でも見とれてしまうほど、キレイだった。


 謝るしかなかった。

 「すみません。」


 「やっぱりさっきの子でしょ?その女々しい謝罪。なつみの耳に狂いなんてないんだよ!」

 「うるさいなー。さっきはびっくりしたから小声になっちゃっただけだし。ていうかお前も小声だっただろ。」

 「なつみだってびっくりしたんだってば!女々しいくせに生意気な男!ふふ、でもなんか面白いね君、名前は?」

 

 答える義務はないけど、聞かれたからには常識として答えておく。

 「杉山咲(すぎやま さく)だけど、君は?」


 なつみと自分で呼んでるんだから、何とかなつみっていう名前だということは見解がついていた。


 「荒川夏海(あらかわ なつみ)だよ、よろしくね。」


 やっぱりなつみという名であった。僕の考察力だって君に劣らず狂いはないさ、はは。

 心の中で自分を昇華した。


 「ところでなんでさっくんは制服きてこんなところにいるわけ?」

 さっくんとかつけられたことないあだ名なんですけど。


 「なんだよさっくんって…。俺はただ総高の説明会に行こうとしたら乗り過ごしちゃって、下りの電車がないから途方に暮れてるわけ。君はワンピースなんて着てどこいくの?」

 なつみはじゃがじゃがポテチウマ塩味を音を立てながら返してきた。


 「私も説明会行こうとしてたんだけど、私服で行っちゃいけないってさっき友達に言われたから行くのやめて帰ろうとしてたところ。」

 こいつ天然というか、救いようのないバカというか。頭がきっと残念なんだろうな…。


 「まぁさっくんとの出会いもきっとなんかの縁なんだから、連絡先交換しよ!もしかしたらお互い入学するかもしれないし。」

 「スマホ持ってっちゃいけないって生徒指導の先生が言ってたから持ってきてないよ。」

 「なにそれ!?学生としてあり得ないんですけど!」

 「いや!お前がな!」

 こいつが天然じゃなくて、ただの救いようのないバカであると証明された。


 「じゃあなつみの家の電話番号教えるから、今晩電話かけて。そん時ID教えて。」

 「はいはい、忘れてなかったらかけることにするよ。」 

 「だめ!絶対だからね!なつみ約束破る人ガチで嫌いだから覚えといて。」

 「約束した覚えないんですけど!?」

 荒い字で書かれた電話番号の記されたメモ紙を受け取った。


 僕はまだこの時、この紙切れが戦利品となることをしらなかった。



 

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